第97話 東へGO!
馬車は一路東へ進んだ。
ランによると魔王が発生したのは東の方向だというけど、具体的にどの領だとかは近くに行くまで分からないらしい。
「東だと……ネヴィル子爵があるね」
馬車の中で、お兄様が手元の地図を広げた。
「快適」お守りが効いていて全然揺れないので、地図を見ていても馬車に酔う心配はない。
しかも私はしっかりお兄様の隣の席をキープしているので、快適指数200%だ。
「ネヴィル子爵家か」
お兄様の反対側に座っているエルヴィンが地図を見て顔をしかめる。
ネヴィル子爵って、どこかで聞いたことがあるような……。
あっ、黄金のリコリスを探しに行った時に襲ってきたやつらが、ネヴィル子爵のとこの元騎士だったんじゃないっけ。
私はそっと、お兄様越しにエルヴィンを見る。
王妃様の侍女の一人がネヴィル家の出身だし、ネヴィル子爵はエルヴィンの叔父にあたる王弟殿下と学園で同級生だったから、二人のうちのどちらかが犯人の可能性は高い。
あの時、継母とはいえずっと大切にしてくれている王妃様が犯人かもしれないって分かったエルヴィンは、真っ青な顔でうつむいていた。
ネヴィル子爵は当然関与を否定したし、結局あの襲撃の犯人は分からずじまいだったけど、あれからエルヴィンは王妃様と距離を置くようになったってお兄様から聞いた。
きっとエルヴィンはあの時のことを思い出しているんだろう。
「その先は……ああ、あそこか……」
お兄様が凄く嫌そうに地図を指で弾く。
そんなに嫌がるなんて、何をやった家なの⁉
私は身を乗り出して、お兄様の手元の地図を見る。
えーっと、コルツ伯爵家かぁ。聞いたことはないなぁ。
「お前の叔父さんのところだっけ」
さらっと言ったエルヴィンの言葉に、思わず私は目を見開いた。
えええええっ。
叔父さんって、あの露出狂の叔父さん?
確か身持ちが悪くて伯爵家に婿に出されたんだけど、亡くなったお母様に言い寄ってお父様の怒りを買った、ローゼンベルク家を出禁になっている、あの叔父さん⁉
私が「敵は外」っていうお守りを作った時に、家の中に入れなかったのが叔父さんの息のかかった使用人だったんだよね。
その前に私が死にかかったのも、お兄様が護衛だったヴァンスに襲われたのも、その叔父さんの仕業じゃないかって言われてたはず。
つまり、これから行くところって、エルヴィンと私たち兄妹にとって敵になるかもしれない人たちの領地ってこと?
うわぁ。それは、気が抜けないなぁ。
私はモコをぎゅっと抱きしめた。
「厄介な」
眉をひそめるお兄様を思わず凝視しちゃう。
こんな時でもかっこいいって、本当に、どういうことなんだろう。
この世界の美が、ここに集まっている……!
ずっと見ていたからか、視線に気がついたお兄様が私を見る。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。どっちも小物だから」
にっこり微笑む麗しさと、棘のあるセリフの対比が素敵です、お兄様。
「セリオス先輩、あの、聞きたかったんですけど、どうして東から向かうんですか?」
聖剣じゃなくて勇者の剣を大事そうに抱えているアベルが、おずおずと聞いてきた。
小説では対等な存在で親友って感じだったけど、まだそこまでの友情は育まれていないみたい。
普通に先輩と後輩って感じ。
旅をしている間に仲良くなっていくのかなぁ。
「東に領地を持つ貴族から魔物が増えたという話が出ているんだ」
お兄様はそう言って、同意を求めるようにエルヴィンを見た。
小説でもそうだったんだよね。一応、魔王が出現する兆候は現れていたの。だけどそれが国王陛下まで届かなかった。
なぜなら魔物が増えていることに領主が気づかなかったから。
え、そんなことある? って感じなんだけど、小説で魔王が発生したのは北のはずれだった。
そこにはうっそうと茂る森があって、元々魔物が徘徊していた。
魔王の発生で魔物が増えたけど、森の中だったから、森からあふれて魔物が村々を襲い掛かるまで分からなかったのだ。
「そういえばヘルケルベロスも王都の東に現れていましたね」
アベルが納得したように言う。
うん。騎士の訓練場ではいきなりヘルケルベロスが、学園にはケルベロスが出現して大変だったよね。
ヘルケルベロスのほうはちょうど訓練中だったお兄様とエルヴィンとアベルで倒したけど、学園のほうは私とモコと折り紙君一号でやっと倒したのよ。
あの時は本当に危なかった。
でも『グランアヴェール』の主題歌を歌ってケルベロスの足を止められたからなんとかなったの。
つまりお兄様への愛で倒したってことだよね。
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