2.対面
「……大丈夫ですか、先生!?」
高橋先生が連絡をして、数分も経たない内に蓮が職員室に駆け込んできた。
「慌てなくていい。向こうさんが来るのはまだもうちょい後だ」
「あっ、サカマキ。それに黒乃さんも。来ていたのか。先生達は……忙しそうだな」
俺達の姿を見てホッとしたのか、蓮が頬を緩ませる。
周りを見渡し、先生達の忙しそうな様子を見て話しかけるのを躊躇したのか、蓮は俺達の方を向く。
「すまん、何があったのかよくわかってない。アンタがそんなに落ち着いてるって事は多分大丈夫なんだろうけど、一応説明してくれ」
「うーい」
詳細な説明を求める蓮にこれまでの経緯を語る。
「……えーと、つまり、トウキョウの人達は俺を勧誘しにきたって事か?」
「あくまで推測っすけどねー。最悪戦闘になるかもしれないんで覚悟だけはしといてくださいっす」
「それは……嫌ですね」
「そうはならんだろうけどな。でも、相手が手加減して勝てるような相手じゃないって事だけ頭に入れとけ」
「超能力、だよな」
説明の途中で超能力の詳細も共有している。
言った時に、蓮に「もっとそういう大事な情報は早く言ってくれよ……」とボヤかれたが、今はとりあえずおいておこう。
「そうそう。たぶん俺は戦力にならないから頑張ってくれよ、蓮! お前が頼りだ!」
「諦めが早すぎる……」
「室内じゃモンスターを出して戦うわけにもいかないっすからねえ……」
黒乃の言う通り、対抗できそうなステータスの高いモンスターは基本的に図体のでかいモンスターばかりなので、室内で召喚してしまえばすぐに建物を倒壊させてしまう。となると、実質的に使えないわけで。
こうなると、後ろに引っ込んでステータス変動系のカードで補助に回るしかない。
まあ、俺の持ってる力の取り回しが悪いのはいつもの事。大人しく遥と蓮に頼るだけだ。
「……冗談抜きのマジな話で。戦闘になったなら、お前が本気でやらんとどうにもならんからな。忘れてるみたいだけど、俺達は所詮部外者だ。状況次第じゃ勝手に見捨てて逃げるだけだぞ」
……そして。これだけ戦闘になった時の事を考えていたとしても、俺達がトウキョウと事を構えるかどうかはまた別の話で。
それなりの付き合いがあったから、今は学校側に肩入れしている。けど、この後の展開によっては戦闘になったとしても協力しないかもしれない。
学校を守る立場なのは蓮だけだからな。ようは俺達みたいな部外者を頼りすぎるなって事だ。そういうのはちゃんと意識するべきだろう。
「わかってるよ、そんな事。結局の所、オレが頑張らなきゃいけないんだよな」
「おう、そういうこった」
「自分で決めた事だから、それくらいの覚悟はできてるよ」
まっすぐな目だ。どうやら、いらんおせっかいだったらしい。
そう思った所で、蓮の顔つきが緩む。
「……けど、それとは別でさ。そんな簡単にオレ達を見捨てて逃げ出すほどサカマキが薄情だとは思ってないよ。オレが変な事をしでかそうとしない限り、なんだかんだで理由つけて助けてくれるんだろ?」
「…………」
……それは、予想外の反応だったな。
「ぷぷ~、言い返されちゃったっすねー」
「うっせ」
煽ってくる遥を一瞥する。
「……おい、蓮! さっきも言ったけど、俺一人ができる事なんかたかが知れてるんだ。こんなのに期待しすぎるなよ!」
「ああ、ほどほどに期待しとくよ」
俺が凄んでみせても蓮は困ったような笑みを見せるだけだった。
「心配ご無用っすよ。京さんいる所に私ありっすから」
「……へいへい、いつもお世話になっておりますよー」
トンと薄い胸を張る遥に投げやりな言葉を返す。
蓮はわざわざ俺に向けて薄情云々とか言ってたけど、たぶんコイツの方は……いや、わざわざ言わなくてもいいか。
「とにかく状況確認は済んだし、後は向こうさんが来るまで大人しく待つか……いや、どうせなら門番も変わって俺らが直接出迎えた方がいいな。どうする、蓮? 乗り掛かった舟だ。やるなら付き合ってやるが」
この学校というコミュニティでは居住地である校舎に不審者が入ってこないように、少数ではあるが巡回や門番といった役割が割り振られていたりする。
ないとは思っているが、もし向こうさんが思いっきり攻め込む気満々だったとしたらまず初めに襲われるのはそういう校外にいる人間だ。
余裕ができたなら俺達が直接出迎えた方が余計な心配もしなくていいだろう。外にさえ出れば俺のモンスターだって使えるしな。
「……そっちの方がいいか。サカマキ、黒乃さん、頼みます」
「オッケー。遥は変に挑発とかしないでくれよ?」
「はーい。大人しく後ろに控えてますよー」
とりあえず話がまとまる。
正しく向こうさんの思考が読み切れているとは言い難いが……後はアドリブでなんとかするか。
今までの話だって、結局は最低の事態が起こった時のシュミレーションだ。普通に穏便に話をするだけで終わる可能性の方がよっぽど高いと思う。
……そう考えると、ちょっと気を張り詰めすぎているような気がしなくもない。
こういう時こそ大胆不敵に、余裕綽々な様子でいくべきだ。
つまりは普段通りだ。楽でいいね。
「それじゃあ、先生達に相談してくる。待っててくれ」
少し過激な方によりつつあるメンタルを整理しつつ、先生達とこの後の打ち合わせを始めた蓮を後ろから見ていた。
門番を務めていた蓮の友達の池田くんと交代し、外で待つ事十数分。
俺と遥は持ってきた携帯ゲーム機の格ゲーで対戦していた。
「…………」
「…………あっ、きたっすね」
無言で熱中していたのだが、遥の一言でそれも終わる。数秒後にはきっちりと俺の操るキャラクターが画面外に弾き飛ばされていた。
「あー、ちょうどやられちまった。悪いな蓮、交代回んなかったわ」
「いいよ、こんな時にゲームやるほどオレは肝座ってないっての」
蓮は呆れた顔で俺達を見ていた。
「ここまでくれば、俺の探知能力でもわかる。もうすぐでトウキョウの人達がくるから、ちゃんとしててくれ」
「了解。……しっかし、アレだな。感知能力持ちは本当理不尽だな。俺はまだまったく気配を感じ取れんぞ」
こういう世界になってから気配には敏感になったし、ステータスの影響で五感もある程度は強化されている感覚がある……のだが、遥や蓮が察知している人の気配を俺は全然感じ取れていなかった。やはりスキルの有無は大きい。
あと、自分には縁のない感覚でわかり合ってるというのは仲間外れにされたみたいでなんか悔しい気分だ。
「サカマキだって、モンスターを使えば似たような事できるだろ?」
「それはもう感知とは全く違うじゃん。俺だって『この気配は……!』みたいな感じでカッコよくキメてみたい」
「わがまま言うなよ……」
だって、モンスターを使った索敵って俺が察知してるわけじゃないし……
少しもにょもにょする感じのまま、トウキョウからの使者がやってくるのを待つ。
「……止まってください」
数分後、トウキョウからの使者と校門を挟んで対面する。
蓮が神妙な面持ちで勧告する横で、俺はやってきた三人を観察していた。
長髪の大人しそうな面持ちの少女に、スポーツマンっぽいガタイのいいオッサン。後は眼鏡をかけてビシッとしたスーツ姿の役人風の男。
コイツらが全員超能力持ちか。中ボスとかフロアボスのような強敵と相対した時のようなピリッとした空気を肌で感じる。
あと、どうしてかわからないけど既視感があるような、ないような……
心の中で妙な既視感について頭を悩ませている間にも蓮は問いかけをやめない。
「貴方達がトウキョウからやってきた事はこちらも把握しています。いったい今日はどのような御用件でここに来られたのですか?」
やはり少し気を張り詰めすぎているのか。丁寧な言葉遣いを心がけていても語気が強い。
とはいえ、ここで茶化しに入るのもちょっと違うしな……
「これは、警戒させてしまったようですね。申し訳ない」
蓮の様子に臆した様子もなく、役人風の男が言葉を返す。
「新自治区トウキョウの代表……のようなものを務めさせてもらっている浅倉要と申します。この度は不明幻想生物災害対策特設本部への協力を要請しにやってまいりました」
へえ。この人がリーダーなのか。
リーダーが直々に出向くなんて随分不用心だな、と思ったけれど、超能力持ちが集まっているし、そこまで危険でもないか。
「不明幻想……モンスターの事ですか?」
「ええ平たく言えば。正式に記録に残さないといけないからこんな仰々しい名前を付けないといけないのです。面倒ですよね」
役人風の男──浅倉さんが困った様子で苦笑を見せた事で、つられて蓮の雰囲気も幾分か緩くなる。
「そちらも把握しているとは思いますが、私は超能力という特別な力を持っていまして。この『力を視る力』で東京にいる特別な力を持つ人に声をかけさせてもらっているのですよ」
おまけに、浅倉さんは一般には流れていない超能力の情報まで自分から開示していく。
信頼してもらうためか、隠し事はなしでいく方向なのだろう。
あと、やっぱり目的は勧誘らしい。
「……それで、オレ達を仲間に引き入れにきたのか?」
「はい。……といっても、本当は貴方とこの学校の皆さんにお話しを持っていく予定だったのですが」
浅倉さんはその言葉と同時に俺の方を一瞥した。
……ああ、なるほど。
「それは、どういう……」
「ようするに、俺と遥は後回しにする予定だったって事だろ?」
蓮が戸惑っているので話を変わる。
浅倉さんもこっちの顔を見て、口を開く。
「はい。貴方様にお話を持っていく前にちゃんと形になっていた方が御満足いただけると思いまして」
「様って。いくら俺らがフロアボスを倒したからって、そんなにかしこまらないでくださいよ」
「いえ、そうではないのです」
「……?」
笑って流してみたけど、この雰囲気なんか違うな。遥の方は一切気にしてないし……
俺が不思議そうに浅倉さんを見つめていると、思わぬ言葉を返された。
「浅倉宗十郎──私の父が大変お世話になったと聞いております」
……その名は。
随分と懐かしい。人の口から聞くのは何年ぶりだろうか。
そして、妙な既視感についても解決した。
「あ……あー! 浅倉の所の息子さんじゃん! どうりで見覚えがあるはずだ!」
既視感があって当然だ。八年前くらいに一度だけ顔を見た事があるのだから。
当時は大学院生だったか? 流石に記憶が曖昧だが、当時と面影はあまり変わっていないように思える。
「……え? 京さん、この人知り合いだったんすか?」
急に大声をあげた俺を訝しむように横にいる遥と蓮が見ていた。




