死んでよかった
「おっそろしい。吉村家は、そのような怖い森も持ってたんか」
結月薫も、森にまつわる話は初耳だった。
電話の向こうは騒がしい。
昼時だけど、飲み屋の喧噪。
「カオル、タグチは森で死んだと思う?」
単刀直入に聞いてみた。
「捜索すれば骨が出るかもしれんな。しかし、爺さん等が中学生やったら50年以上前やで。酒屋の婆さんの記憶も怪しい。昔の噂話だけで警察は動けんな。タグチのフルネームさえ分からんし」
「幸森さん事件の目撃情報は出てきた?」
「それが、さっぱりや。犯人2人、犯行後トイレ方向に走ってる。トイレで着替えて、店内側入り口から店の中に入った可能性が高い。トイレ入り口は防犯カメラの死角やねんけど」
「店内の防犯カメラには映ってるはずだよね?」
「うん。客は映ってるよ。どの客も帽子被ってマスクして。性別、年齢不詳の格好や」
襲撃時の画像でも、犯人の体格は中肉中背と分かるくらい。性別年齢は判別不可能。
「犯行時間は21時45分。閉店前の半額値引きタイムの直後や。多くの客が食材コーナーに集まっていた。駐車場に人は少なかった」
それでも虱潰しに聞き取り調査を始めているという。
「値引きタイムだったのは、偶然だね。幸森さんの行動は予測不能だろ? けど犯行後に着替えたとしたら計画的な犯行なんだね」
「行き当たりばったりの愉快犯では無いな。……時間かかるな。犯人が盗っていった靴の持ち主も分からん。こっちは犯行との関係性が未確定やけどな」
「幸森さんを狙った犯行?」
「狙ったとしたら現場で張っていたか、尾行か、やな」
「尾行か。どこから尾行?」
「ケアハウスからはスーパーまではタクシーやて」
帰る時間は予め決めていない。
お喋りしていて遅くなっただけ。
最後に残っていたのは
吉村と幸森の他に、楠の婆さんと湯本の爺さん、それと施設長の5人だという。
湯本は息子が車で迎えに来た。楠本の婆さんも乗せていった。
残る3人がタクシーを呼んで同乗。
最初に施設長が降り、次に幸森。最後に吉村。
「吉村さんは、橋を渡ったところで降りた。そこでタバコ一服。徒歩5分で家に着いたのが22時頃や」
吉村は幸森と直前まで一緒だった。事情聴取の対象者だ。
「昨夜車を降りたのと同じ所だね。あの人も家でタバコ吸うと叱られるのかな」
「そうではない。習慣やな。あの橋から友達が落ちて……死んだらしい」
一年前の、雪が積もった夜だった。
酔っ払って千鳥足で歩いていた。
クラクションを鳴らされ驚き、もっとフラフラして河に落ちた。
「石の欄干、50センチも無かったからな。……そういえば、真新しい地蔵があったね」
吉村は、地蔵に亡き友を重ね、語りかけずにはいられなかった。
素通りできなかった。
「ほんでな、地蔵のとこで、ゆっくりタバコ一本吸ってから家帰るんや」
「よほど親しかったんだ」
「そう。幼なじみ。タグチの靴を森に隠した仲間や。4人組の1人やな」
「なるほど」
「セイ、サバゲーの前に、森を下見しといた方がええかもな」
「そうだね……タグチの白骨遺体があるかも知れない」
「それからな、幸森の爺さんも『タグチの祟りや』と言いだしたらしい。自分は怨霊に襲われたと。犯人の心当たりを聞いた答えが、それや。捜査は難航やな」
薫は、二週間先まで休みは取れない、また連絡すると最後に言った。
「『入れずの森』には、そんな物語がくっついていたのね」
物語、とマユは言う。
「実際に起こったコトではないと?」
「明治の前でしょ。生き証人はいない。もちろん言い伝えの全てが作り話とは思わない。恐ろしい何かを、人の目に触れぬよう隠す為に作られた森には違い無さそう。……怖いけど神秘的ね」
マユは今、ゆっくりと工房の中を歩いている。
白い羽毛を編み込んだ生地のノースリーブのワンピース。
着物を(白地に桃色の花の刺繍)羽織って
顎の細い横顔を見せている。
聖はマユこそ神秘的だと、今さらながらに、その美しい横顔を盗み見た。
「セイ、物語のおさらいをしましょう」
(洪水の後、村はずれに不吉な池が出来た。
その頃、東の村から男達がやってきて1人の大男を池の側の木に縛り付けた。
<これは赤子を喰らった鬼>と告げ、去っていった。
村人は恐ろしく近づけない。
やがて<鬼>は息絶える。
月日が経ち、<鬼>は骸骨に。
長年放置。
結果木は太っていき、骨を取り込んでしまった。
その様が恐ろしく、触れるのも怖く
何重にも周りを成長の早い木で囲んだ……。
中のおぞましいモノを取り繕うように美しい花の咲く木を植えた)
「禁足地の発祥ね。それでも好奇心で入る人もいた。でも奧には辿り着けなかった。
いつしか『入れずの森』と呼ばれるように、なったのね」
「婆さんは、そう言っていた」
「鬼がいる森だから、悪人は入れるのね?」
「うん。入って出てこれない。だからタグチは森へ入ったきりだと……」
「セイはカオルさんと森の奧へ入るのね。そこに何があるか楽しみだわ」
「タグチの白骨遺体があると思う?」
「分からない。言い伝えが事実だったら、骨を巻き込んだ大木も見る事になるわね。悪人判定されちゃうと森から出られない。命果てるまで森の中を彷徨い続ける……随分恐ろしい森で、セイ達はサバゲーするのね」
マユは面白がっている。
ふと、薫がサバゲーしたいと言い出したシーンを思い出す。
あの場にいた老人達は、明らかに嬉しそうだった。
面白がっていたのか?
無事に森から出てこられるか、それとも言い伝え通り、誰かは出てこられないかも、と。
「迷信を吹き飛ばしてくれると、期待してるんじゃないの? 4人の男が森の奥のヒミツをあぶり出してくれると」
「年寄り達は『入れずの森』を恐れているんだろうな。幸森さんは『襲ったのはタグチの怨霊』と言ってるんだって。森の言い伝えを信じているんだね」
「そんなコト言ってるの?……妙ね」
「元々、山の神の存在とか信じている人だから」
「それにしても理解できない。現実に2人組に殺されかけたのよ。また襲われるかも知れないのに。犯人は怨霊なんて、呑気なコト言ってる場合じゃ無いでしょ」
「襲われて頭打ったから。少々変になっているのかも知れないけど」
「タグチさんは森で死んでいない、それが確かめられたら『怨霊』など存在しないと説得できるわ」
「そうだね」
森の奥には、タグチの遺体も骨と一体化した木も、無い。
そうであって欲しい。
「カオルと森の中を、隅々まで調査してくるよ」
年内期限の仕事に追われながら薫からの連絡を待った。
1週間が過ぎた頃、
「13日金曜(5日後)午後1時。ケアハウス駐車場集合。シロと一緒に来てや。クマさんも来てくれる。吉村さんには森の下見と伝えた」
と薫からラインが来た。
鈴森の参加は嬉しい。
2人より3人の方が心強い。
いよいよ<入れずの森>突入の日。
聖は遠足の朝のように早く目覚めた。
快晴。
夜に降った雪が3センチほど積もっていた。
日を浴びて銀色に輝いて見える。
滅多に無い美しい朝。
シロも喜んで外に駆け出る。
朝ご飯を作っていると、山田鈴子から電話。
「にいちゃん、朝早くにゴメン。聞いて欲しい話があるねん」
声の調子が、妙に優しい。
楽しい用件では無さそうだ。
「吉村克己いう男が、昨日アポも無く会社に来た。うちが山を買った、吉村純一郎さんの娘婿。知ってるか?」
と、思いがけない話。
「コウモリケアハウスのオープンパーティで、ちらっと。ごく最近です」
「ケアハウスの近くに森があるらしいな。その森を買えへんかと、営業に来たんや」
唐突で態度は強引であったらしい。
当たり障り無く対応し、即答は避け、コーヒー一杯で帰って貰ったという。
「そんな事があったんですか。パーティでは幸森さんに買って欲しいと言ってましたけどね」
理由は定かでないが、あの男は<入れずの森>を売りたいらしい。
所有者は義父だと思うのだけど。
「森の話はどうでもええねん。にいちゃんに電話したのは、あの男にアレがな……」
鈴子が言うアレとは死の影に違いない。
吉村克己は、もうすぐ死んで行く徴がついていたのか。
「そうなんですか……」
他に言いようが無い。
防げる手立てがあったとしても、何か出来る関係では無い。
「ごめんな。にいちゃんの知り合いかもしれんやん。聞いて欲しかっただけや」
聖に喋って、すっとしたのか電話を切るときの声は普段通りに戻っていた。
嫌な話を聞いたと、思った。
けど誰にも言えない。
……マユの他には誰にも。
一旦忘れて今は
<入れずの森>探索に意識を集中するしかない。
午後1時。
ケアハウス駐車場に鈴森のトラック。
側に鈴森と薫が立ってタバコを吸っている。
想定内の光景。
しかし青のBMWも停まっているのは何で?
(あれは、たしか吉村克己の車、だよな)
BMWの後部座席に2人乗っている。
近づけば、幸森の爺さんと吉村純一郎、だった。
聖は車を降りると真っ先に、あたりに吉村克己がいるのかと捜していた。
……死の影を背負った男の姿は無かった。
「セイ、ややこしい事になってるねん」
知らぬ間に薫の顔が迫っている。
「どうなってるの?」
聖はBMWを見遣って聞く。
なんで、あの人たちが居るの?
なんで、車の持ち主はいない?
「吉村さんがな、娘婿がこの森を手放せと、しつこいからな、森を伐採するなんて恐れ多いとな、言い伝えを聞かせたんやて」
100年森の起源、タグチが消えた話、聞いた吉村克己は……。
「大笑いしたらしい。ほんでな今日俺らが探索に行くと知って、自分が先に調査すると言いだした。『馬鹿馬鹿しい、自分が、ありふれた森やと証明します』と」
「……それで?」
その先は、車から出てきた幸森が説明した。
左手を首からぶら下げたベルトで固定している。
「ジュンちゃんは心配で付いていくことにした。ワシも話きいて心配やから付いてきたんや」
「それで?……3人で森へ入ったんですか?」
雪積もる地面に複数の足跡。森の中へ続いている。
「いや、カツミ君が1人で入って行った」
吉村が続きを語る。
「出てこないんや。1時間過ぎても出てこない。携帯電話には出ない」
幸森と探しに森へ入った。
しかし奥まで行けずに外に出てしまう。
何度試みても森の奥へ行けない。
「寒いしな、捜索は年寄りでは無理や。警察呼ぶしかないと、相談してるところに薫君達が来た……」
「セイ、シロに、コレの臭い嗅がせて。俺らを先導してもらおう」
薫は(吉村克己の)黒いマフラーを手渡す。
シロはまだロッキーの助手席。
嬉しそうに口開け、舌だしてる。
シロに警察犬の仕事が出来るのか?
「シロ、この臭いの人は……どこにいるの?」
「クワン」
リードを外すと、シロは迷い無く森の中へ。
聖と薫と鈴森は後に続いた。
ガサガサとシロが枝を揺する音。
すぐ側に聞こえるのに姿は見えない。
森の中は薄暗い。
木立は間隔が異様に狭い。地面は朽ちた木や落ち葉が蓄積している。
大人の身体では通れる隙間が限られている。
3人居るけど三方向に散らばれない。
「しもたなあ。斧がいりましたなあ」
鈴森は素手で邪魔な枝を折りながら先頭を行った。
「おーい、たすけにきたで」
薫は叫び続けている。
最後尾の聖はシロの動きを知ろうと意識を集中。
ガサガサ、まだ走っている。
右に、左に……こっちに近づいて……またあっちへ……。
まだ臭いの主に辿り付いていない。
「妙なモンがありますなあ。これは、石の壁ですな」
鈴森は立ち止まる。
苔に覆われた壁。高さは160センチほど。
壁の向こう側はこっち側と同じ。窮屈そうな木立が続いている。
壁は、森の中の一部を囲っているようだ。
「何かをぐるっと囲んでるんやろか。壁に沿って行ってみようか。大変やけど。今だけ猿にでもなりたいで」
薫が言うとおり、猿なら軽々と上歩けそうな薄っぺらい壁であった。
ワン。
シロが吠えた。
はっきりと壁の中だと分かった。
「壁を乗り越えましょか。まず私が踏み台になるから、中へ入って下さい」
鈴森は壁の側にしゃがむ。
聖と薫は壁を越え、2人で鈴森を引っ張り上げ、3人壁の中へ入った。
ワン、ワン。
シロは同じ位置で吠えている。
吉村克己を発見したのか?
「あっちだ」
聖は先へ行った。
20メートル先に明るいところが見えている。
陽が差しているということは、そこだけ木が無いのか?
なんで木が無いか考える余裕無く聖は、その場所に到達。
大きな木の側にシロの姿。
「キャンキャン」
シロが警戒を促した。
でも、遅かった。
聖はシロに駆け寄った。
踏み込んだ足が柔らかく冷たい感触を感じ
身体のバランスが崩れ、膝辺りまで冷たい水に浸かり
「うわあ」
声を出しながら、自分は池に落ちると悟る。
同時に
「セイ」
「セイさん」
2人の男の太い腕が聖の身体を引っ張り上げた。
「つ、つめたー」
右足がしびれたような感じ。
「セイ、ズボンめくって靴下脱ごか。凍傷になってまうから」
薫は言った通りを手早く済ませる。
鈴森は自分の靴下を片方脱いで聖に履かせる。
「濡れた靴をじかに履くよりちょっとはマシでしょ」
「済みません。面倒かけちゃって」
「水面に落ち葉ぎっしり、その上に雪が積もってる。セイが落ちるまで、まさか池とは、気付かんかった」
薫は携帯電話で池の写真を撮りながら呟いた。
「3人で来たのは正解でしたな。1人では助けられないでしょうからね」
鈴森の言う通りだと聖は思う。
冬装備で着込んだ大人を
1人の力で池から引っ張り上げるのは不可能だ。
「いや俺らは4人組やで。シロもおるやんか。男4人おれば怖いモノなしや」
薫はシロを指差す。
クワン、クワン
シロは一旦木立の奥へ姿を消し、背後から現れる。
尻餅をついたままの聖の胸に飛び込んでくる。
愛犬の体温に冷えた身体は癒やされた。
シロはさっきまで、池の向こう岸で吠えていた。
しかし、辺りに吉村克己の姿は無い。
自分達が立ち入っていない池の右側に靴跡。
吉村克己がどこに居るか察しは付いてしまった。
「俺は通報して現場待機や。セイと熊さんは先に帰ってや。爺さんらに報告は頼みます」
薫は、そこらから長い枝を拾い、池の深さを探っている。
2人で壁を乗り越えられるのか?
聖は案じた。
鈴森は太い枝を何本か集め足場を作った。
それでシロを抱いて、簡単に囲いの外へ出られた。
聖は、
吉村克己は池に沈んでいるかも知れないと老人2人に告げた。
落ち葉と雪が積もり、一見池とは思わない。自分も落ちかけた、と。
「ほんまに池があったんでっか」
幸森はなぜか鈴森の顔をしげしげと見つめて言った。
「はい」
鈴森は頷く。
「……1時間半か。助からんね」
吉村は腕時計を長々と見つめている。
……娘婿が死んでしまったかも知れない。
気の毒な吉村。
かける言葉も無い。
聖は、吉村克己が近々死ぬと、鈴子に聞いて知っていた。
そのことが責任も無いのに後ろめたい。
はやくこの場から逃げたかった。
「ジュンちゃん、疲れたなあ。しやけど最後まで見届けなアカンな。施設長呼び出した。ケアハウス開けるからな。暖房の効いた部屋で身体を休めようか」
幸森は携帯電話を触りながら言う。
「じゃあ、僕たちはこれで……失礼します」
聖は退散するタイミングだと思った。
「3代目、ご苦労さんでしたな。……ところで、こちらの方が、噂のカオルの連れか?」
と鈴森に1歩近づいた。
「ご挨拶が遅れて失礼しました。鈴森と申します」
鈴森はコートの内ポケットから名刺入れを取りだした。
「桜井市で養豚所を親の代からやっています」
鈴森は手短に自己紹介。
幸森に名刺を渡した。
「ほー。豚をねえ」
吉村が横から名刺を覗き込む。
それで鈴森は吉村にも改めて挨拶し名刺を渡す。
「幸森いいますねん。今後ともお見知りおきを」
「吉村です。今日は大変ご迷惑をかけました」
2人はそれぞれ鈴森に名刺を渡している。
普通に名刺交換?
こんな時に?
聖はなごやかな空気に気持ちが付いていかない。
「カオルやらセイやらと遊んでるくらいや、アンタも嫁はおらんのやな?」
幸森は馴れ馴れしい。
「はい、1人です」
鈴森は素直に答えた。
「そおか。ジュンちゃん、こんなええ男がまだ独身やて」
幸森は鈴森の太い腕に触わった。
(そっか。気に入ったんだな)
鈴森は熊のぬいぐるみみたいに、大きくて顔は可愛い。
誰だって一目で好きになるのだろう。
「ほんまやな。鈴森さんみないな人も、おるというのにな」
吐き捨てるように呟き、吉村はタバコを取りだした。
幸森が黙ってライターで火を付けた。
「では、これで」
鈴森は聖の肩を軽く叩く。そして早足にロッキーに近づき
助手席のドアを開け、(シロ)と呼ぶ。
シロは、助手席に乗り込む。
聖は運転席に座る。
助手席に上半身を突っ込んでいる鈴森が
「セイさん、大事な話です」
と切り出す。
「どうしました?」
「あの2人、人殺しですか?」
幸森と吉村が人殺しかどうか、聞いたのだ。
「……違いますよ」
2人とも手袋はしていない。
タバコに火を付ける手元はハッキリ見た。
70の年齢にふさわしい皺とシミ。
幸森の骨折した手も、しっかり見ていた。
無意識に確認していた。
吉村克己が森から戻らないと聞いた時から
一緒に居た2人は無関係だと確認せずにはいられなかった。
「ああ、それやったら良かった。……聞いてすっとしました。じゃあまた」
去ろうとする。
「あ、でも何で?……聞かせて下さい。お願いです」
幸森と吉村の心の声を聞いてしまったんでしょ?
「『やれやれ』『これであっさりカタついた』聞いたのはこれだけです。どうやら死んで良かったみたいですよ。殺してないんやったら、嫌っていただけでしょうね。……じゃあまた。お手柄やったね」
鈴森は最後にシロの頭を撫でた。
遠くにサイレンの音。
早く県道に出ないと警察車輛の邪魔になる。
聖は車を動かす。
吉村と幸森がバイバイとこちらに手を振っている。
こんな時なのに、2人とも穏やかに微笑んでいる。
……やれやれ
……これであっさりカタがついた
聞こえた気がしてブルッと身体が震えた。
凍った池よりも冷たい言葉だと。




