それから。②
僕は着替えを済ませてから、羅那の棲んでたこの洞窟式住居内を壁伝いに歩いていた。
ピョンコピョンコと僕の後ろについてくる魔剣フーコとともに、等間隔に灯されたランタンの炎を頼りに。
──壁伝いに少し歩くと、大きな明かりの灯る部屋が見えた。
その部屋を覗くと──、台所のような場所に、羅那、ピオーネ、マナさんが居て、忙々と手分けして何かを創っているようだった。
「お、おう! は、早かったな、シュンタロ!」
振り向き様に僕を見た羅那が、黒と黄色の魔物の毛皮のような下着に身を包み、焦ったような表情でフライパンみたいな金物に炎を灯していた。
──肉の焼ける良い匂い。
それにしても、玉のような羅那の胸の谷間が目に焼き付いてしまい、僕は一瞬、目を伏せて視線を岩肌の床へと落とした。
「どうしたんだ? シュンタロ?」
「い、いや。なんでもない……」
羅那の胸の谷間が、目を閉じていても、瞼の裏側にチラついて仕方がなかった。
「あら! シュンタロ様は、マンドラゴのチップ&フライなんてお好きかしら? 滋養強壮、精力増進に効果的ですのよ? ウフッ♡」
声のした方に思わず顔を上げると──、
ピオーネも、光沢のある黒地に蜘蛛の巣の模様が広がる下着姿で、大粒の葡萄の房のような谷間を惜しげもなく露わにしていた。
ドギマギし過ぎて、フルフル揺れるそれから目を逸らし、僕は視線をピオーネの持つお皿へと向けた。
けれども、ピオーネの胸がおっき過ぎて──、僕の視界からなかなかフレームアウトしてくれなかった。
「んー? シュンタロ様? どうかしたのかしら?」
「い、いやぁ、なんでもないんだ……」
僕は、ピオーネのそれを完全に視界から外すために、さらに視線を足もとへと向けた。
──ちなみに、羅那のは玉のような張りと艶があり、ピオーネのは柔らかさがはち切れんばかりだった。
それから僕は、自分でも分かるほど顔が火照っていくのを悟られないように、首を自分の足もとを見るようにして俯かせた。
「あ、シュンタロさん、お、お早かったのですね。アハハ……。ちょっとしたアクシデントに見舞われまして。あっ、そこ! まだ拭いて──……」
(──ぬちゃっ……)
「「あ──、」」
白いネグリジェのようなワンピース姿で、金色の髪の毛を艶やかに背中に揺らすマナさんが、床を拭きながら僕の足もとを見て固まっていた。
僕は裸足だったけど、どうやら煮込みハンバーグのような物体を踏んでしまっていたようだ。
しかし、現実世界で言うところのマッシュルームとか、赤ワインのようなものを入れて煮込んでたみたいで──。
──踏んでしまったのは残念だけど、とっても良い香がした。
「アハハ……。ごめん」
「い、いえいえ! だ、大丈夫ですかっ!? シュンタロさん!」
なんだか、その場でマナさんに足をフキフキ拭いてもらうのが、とっても新鮮でなんか嬉しくて──。
──何だかマナさんと目が合うと、自然に笑ってしまった。
「あ、ありがとう……。マナさん」
「あ、あの、お、お気になさらずですわ! それより、今日は皆さんでご飯食べて、もう寝ましょう!」
まだ、夜が明けたばかりだけど──。
──羅那もピオーネもマナさんも、色んなことがあり過ぎてクタクタのはずだ。
気絶してた僕にも魔力を分けてくれたし。お風呂上がりに覗かれるとか、別の意味でも色々あったけれど。
寝て起きたら、いよいよ出発だ。
マナさんが言うには、ロアナールの大森林を抜けて、夜中に落ちた流星の方角へと向かうらしい。
それと──。
──僕は、マナさんに汚れた足を拭いてもらいながら、お風呂場でも見た自分の姿を思い出していた。
青い瞳に、背中まである金色の長い髪の毛。それに、蒙古斑て言うのかな? お尻の青いアザ。
本当に、15歳くらいの少年のような姿になってて。
けど、髪の毛と少しだけ背丈が伸びた気がしたのは、なんだか、羅那、ピオーネ、マナさんに魔力を分けてもらったからのような気もした。
いや、蒙古斑は、どうなんだろ? 何か別の理由があるのかも知れない……。




