99:助け出そう。
おぉ、お姉ちゃん必死で暴れてる…… 助けようにも近づいたら巻き込まれそうなんだけど。
しかし叩いても全く効いてないな。まぁへこんで元に戻るだけだもんね。
完全に覆われててよく解らないけど、足も凄い動かしてるっぽいな。
肉塊の表面がボコボコ動いてるし。
「あハァっ、そレっ、ソレいイデスっ! もット、モっトわタクシをぐチャぐちャにシテくダサイまシぃ……」
「ひぃーっ!?」
あ、逆効果だ。っていうか色々とアウトだろ。
「雪ちゃん、早く助けてよぉーっ!」
「いや、暴れるのやめてくれないと近づけないよ!」
「そうは言っても、かき混ぜるのやめたら登ってこようとするんだよー!」
怖っ。
うーむ。触らないと吸えないし、魔法で吹っ飛ばそうとしたらお姉ちゃんも巻き込んじゃうからなぁ。
「うぅ、足が疲れて…… もうダメ……」
あ、そうか。
「お姉ちゃん、飛ばすよー! 衝撃に備えてね!」
「えっ、えっ? ひゃわあ!」
お姉ちゃんに【追放】をかけて、カトリーヌさんから少し離れた場所に飛ばしてみた。
重なったりしたら危ないからちょっとだけ地面から離れた場所に転移させたけど、よく考えたら指定座標じゃなければ障害物には重ならないんだった。
うん、落ち損だな。なんかごめん。
カトリーヌさんは再度追いかけたりはせず、その場で蠢いている。
「あいたた…… ありがと、雪ちゃん。うぅ、取り込まれちゃうかと思った……」
「いやー、思いつくのが遅れてごめん。それにしても、なんで抵抗するのに魔法使わなかったの?」
「んー、一応町中だしねぇ? 多分正当防衛ではあると思うけど、雪ちゃんがなんとかしてくれるかなーって?」
その割にはもうダメって言ってた気がするんだけど。まぁいいか。
「むー、靴の中がグショグショだよー。深い水溜りに入っちゃったみたいになってる」
お姉ちゃんが不快そうに足踏みして、グチャグチャと靴の具合を確かめている。
……ん? グショグショ?
「ンッ…… ゴメんなサァい。スこシハしゃギスぎまシたワァ」
「もー、怖かったんだからね!」
あれは少しじゃないよなぁ……
「で、デスねー」
ん?
「ついテイっちャッタこタち、カイシゅーシまスネぇ」
「ひぎゃー!?」
いやお姉ちゃん、その叫び声はどうなのってうわぁ……
やっぱり靴の中にカトリーヌさんが入りこんでたのか……
足と靴の隙間からちょっとずつ這い出てきてる。
グショグショってそれくらいしか無いもんなぁ。
そういえば足踏みした瞬間、本体の方がちょっと震えてたな。
動かせるんだし、感覚も繋がってるんだろう。
っていうか「子たち」って全部自分だろうに。
「中でモゾモゾしてるー! わーん、もうやだー!!」
あ、脱いで投げつけた。靴下に染み込んだりはしてないみたいだな。
ちょっと引っ付いてるけど、足をぶんぶん振って落としてる。
とりあえず振り落とされた自分が地面に叩きつけられる度に「あッ」とか「ンッ」とか言うのやめなさい。
あとそれが本体の方に戻っていく姿が、なめくじみたいでちょっとヤダ。
カトリーヌさんにぶつかった靴は跳ね返ることなく受け止められ、ズブズブと肉の海に沈み込んでいった。
「……お姉ちゃん、靴どうすんの」
「知らないよぅ! アヤメちゃんにお願いして新しいの買ってきてもらう!」
流石のお姉ちゃんもご立腹だな。
「ゴしンパいニハオよビマせんワ!!」
いや、貴女のせいだからね?
「ゴラんあレ! つチモ、ホコりモ、アせもミナ、キレいニとリノゾいてオキマしタワぁ!」
ヌルリ……と靴を生み出しながら、誇らしげに宣言する。
あー、うん。確かに綺麗にはなってるけどさ。
ていうか君テンション高いね。
カトリーヌさんが靴を乗せたまま、ズルリとこちらに這い寄って来た。
「やー! こっち来ないで!」
当然拒絶するお姉ちゃん。
言われた通りにその場で止まり、器用に靴を地面へ降ろし下がっていく。
「シツれイシマした。そレデハこコニ、おイテおキマすネ。ア、シラユきサン。トリノぞイタものハ、そノバにステてオりますノデ、ゴアんシんシテ、おめシアガりクダさイ」
ちょっと声からしょんぼりしてる感じがするけど、自業自得だよ。
えーと、靴の汚れは混ざってないよって事か。
だんだん声が聞き取りづらくなってきてるけどまだ大丈夫なんだろうか?
「そロソロ、えイチぴぃモ、こコロモとナク、なっテきまシタノデ、オハやメにドウぞ」
あ、あんまり大丈夫じゃなかった。
カトリーヌさんはアルファベットをそのまま読む人か。いやそれはどうでもいいな。
っていうか、その状態になるとHPが減っていって死ぬのか。
だから魔人さんと比べてかなり長持ちしてるのかな?
「カトリーヌさんがはしゃぎ過ぎたせいじゃないですか…… それじゃ、頂きます」
「ハぁイ」
お餅のような形に丸まったカトリーヌさんの端っこに口を付ける。
あんまり時間が無いみたいだし、手早く飲み干そう。
いやー、おいしかったー。カトリーヌさんはオレンジかぁ。まぁ二度目は無いけど。
今回は心の準備は出来てたから、我を失う事も無かったよ。
途中でMPが溢れそうになったので、先程折れた矢を取り出して【追放】でちょっとずつ動かし、あまり使っていなかった【空間魔法】の経験値を稼いでおいた。
カトリーヌさんからいってきますのメッセージを受け取ったので、離れていたお姉ちゃんを呼びに行く。
「おまたせー。靴は履かないの?」
「むー、もう中に潜んでないよね……?」
手に取って中をのぞき込んだり、くるくる回して外側を確認している。
「いや、もう死に戻って作り直しに行ったし」
「綺麗になってるのは判るんだけど、なんかなぁ。でもこのままじゃ今日は出歩けないし…… 仕方ないかぁ……」
「まぁまぁ。飴ができたらさっきのお詫びも兼ねて、ちょっと多めに上げるからさ」
「わーい!」
いや、ちょろいなこのお姉ちゃん。簡単でいいけどさ。
「でさ。うっかりしてたんだけどね」
「どうしたの?」
「手持ちの蜜は殆ど売っちゃってたから、飴を作るには足りないの。集めるのを手伝ってくれないかな?」
「いいよー。お椀でもいいかな?」
「まぁすぐにきな粉入れて捏ねるんだし、大丈夫じゃないかな。それじゃ早速始めよう」
お姉ちゃんに付いて来てもらいながら、家の周囲のバラから【施肥】しつつ蜜を集める。
途中でニヤニヤしながら「元気にされて溢れ出る蜜を吸い出しちゃうんだぁー」とか言い出したので、直後の一滴を袖に垂らしてやった。
「雪ちゃんひどいよー!」とか言ってきたけど、頭に垂らさなかっただけ優しいと思いたまえ。




