89:言い訳しよう。
周囲を見回してみると「仕方ないよね」と「でもちょっとやり過ぎじゃない?」といった顔が二対八くらいだった。総じて引き気味な所は一緒だけど。
大抵の人は聞こえない筈だけど、聞こえてる人が説明したのかな?
っていうかなんか一人だけ、とろんとした瞳で息を荒げてる女の人が居る。
絶対に目は合わせないでおこう。あれは関わっちゃいけないやつだ。
多分関わったら碌な事にならないぞ。
「白雪、やっぱりアレはやり過ぎだったんじゃないか?」
「いや、そうは言うけどさ。約束を破ったのも、召喚者に従おうとしなかったのもシルクだよ?」
「そうだなあ。実際最初の方はやれるもんならやってみなよって感じだったし」
「でしょ? 口で言っても聞きそうにない態度だったし、ちゃんと立場を解ってもらう所からだと思ってさ」
そんな態度になったのも、私が甘やかしすぎたせいだってのは解ってるんだけどね。
シルクの前で実力を出す機会も無かったし。
「でも実際に痛めつけるのは嫌だから、うんと脅かしてやろうと思ったの」
「うん、それは解るし良いと思うよ。シルクが召喚者の指示を聞かない奴って思われるのは、主従どっちの為にもならないしな」
「ただ、今のはちょっとやり過ぎちゃった感じだよね」
あぁ、シルクはレティさんに預けて来たのか。とりあえず謝っておこう。
「あ、お姉ちゃん。さっきはごめんね」
「え?」
「いや、黙れって睨み付けちゃったからさ」
「あぁ、いいのいいの。怒ってるんだって雰囲気を出す必要もあったんだろうし、気にしてないよ」
付き合いが長い分、言わなくても察してくれるのは助かるよ。
そこにあんまり甘えてちゃいけないけどね。
「さっきのだけど、閉じ込めてから自分がこれからどうなるかを見せたあたりで、十分にシルクちゃんの心は折れてたと思うよ?」
うーん、確かに涙目でガクガク震えてたしなぁ……
「下げるにしても、一回目のだけで良かったんじゃないか? もう絶対に逆らいませんって感じになってたし」
「でもなぁ。ちゃんと約束したのに破られたんだし、信用のハードルが上がるのは仕方ないと思わない?」
「うーん、確かにそうかも。でも、流石に三回目はまずかったんじゃない? あれはもう心を折るっていうか、壊しにかかってたよ」
「っていうか気付いてなかったのかも知れないから、一応言っとくけどさ」
「ん?」
「シルクの両手、最後の叩きつけで砕けてたぞ。叩きつける音がどんどん柔らかくなっていって、聞いてられなかったよ」
「……えっ!? ちょっ、ちょっと! そんなの早く言ってよ!!」
「今はもう大丈夫、レティちゃんが回復してくれたから。私も預けるまで気付かなかったんだけど、小指側が酷い有様だったよ」
少し離れた場所で、レティさんがシルクを抱いて立っていた。
ここから見る限り手も治っていて、今は少し落ち着いているみたいだ。
「そんな……」
「恐怖で錯乱して、手の痛みなんて解らなくなってたんだろうな。解放された後、あの手でよく肩を抱えられたもんだよ」
「っていうかアヤメちゃん、音なんてよく聞こえたね?」
「私は兎耳と【聴覚強化】の両方があるからな。あんたが白雪を踏みつぶす音もしっかり聞き取って、吐きそうになってただろ?」
「唐突に蒸し返さないでよ……」
「でも、レティさんは何で知ってたの?」
「あいつの事だから、叩きつける時の力の込め具合とか見て察したんじゃないか?」
「あんなに強く叩いたら手が無事じゃ済まないって? 相変わらずレティちゃんはよく見てるなぁ」
「なんていうか、そのうち『レティさんだから』で納得できるようになっちゃいそうだよ」
「私は既にそうなりかけてるぞ」
「でもそんな事になっちゃってたなら、確かに私はやり過ぎちゃったんだね……」
「私達も、躾の方針だからって見過ごさずに止めてあげれば良かったんだけど」
「正直、途中で割って入ったら食われそうでなぁ」
「いや食べないって言ってるでしょ!?」
「いや、そうは言うけどさ。シルクを閉じ込める箱を出した時、かなりお腹空いてただろ?」
「え? うん。MP一杯使ったからね」
「雪ちゃんがお腹を押さえてチラッとこっちを見た時の目、完全に獲物を探す目だったよ?」
「え、あれ? そっち見たっけ?」
「一瞬だけど確かに見てたぞ。無意識にご飯を求めたんだろうな」
「えー…… まぁ、実行に移すことは無いから大丈夫だよ」
「まぁそれもあったし、人の教育方針に口出しするのもどうかと思ったのもあるしな」
「教育方針とか躾って言っても、流石にあんなの現実でやってたら速攻で通報するけどね」
「いやそれは当然でしょ。虐待どころの話じゃないよ」
「まぁそれはともかくだ。最後のなんて逆にニッコリ笑って『バイバイ』とか言って、潰しちまうんじゃないかって雰囲気出してたからなぁ」
「正直な所を言うと私は雪ちゃんの雰囲気に気圧されてて、止めに入る余裕が無かったよ」
こんなちっこいんだから、別に怖がらなくていいのに。
「現実で怒らせた事がある私には、あの状態の雪ちゃんに割り込む勇気は持てないよ……」
「何をやらかして怒らせたんだ?」
「よくある話だよ。私が買っておいたちょっと良いプリンを食べられたっていうだけの話」
「あー、そりゃ駄目だな。許されんわ」
「反省してます……」
「そんな事より、シルクは大丈夫かな?」
「そんなに心配するなら、あそこまで追い詰めるなよ……」
「皆が雪ちゃんみたいに鋼の精神をしてる訳じゃないんだよ?」
失礼な。私だって怖いものは怖いよ。
「シルク、手は大丈……夫……?」
問いかけながら近寄ろうとしたら、シルクは全身でビクッとなって怯えた顔になり、体を反転させてレティさんに顔をうずめプルプル震え始める。
あー、完全に恐怖の対象になってしまった。
私のやり過ぎが原因とはいえちょっと傷つくな、これ。




