80:運ばれよう。
運搬されてる途中にふと気になった事を尋ねてみる。
「そういえば、シルキーって寝る必要はあるの?」
首を振る。ほー、人じゃないだけはあるのか。
それじゃ、忘れてた事でもお願いしようかな? あ、でももう一つ確認しておかないと。
「シルクって、お料理は出来るかな?」
私の質問に「何かお仕事があるの!?」みたいな笑顔でうんうんと頷くシルク。
料理っていう程の事じゃないんだけどね。
出来るって言うならコンロを使わせても多分大丈夫だろう。
小さい子に火を使わせるのは少し不安だけど、これでも家事妖精だし。
動き方を見ると妖精っていうより幽霊側っぽい感じはするけど、まぁ妖精ってことで。
「それじゃちょっとお願いしたい事が有るから、お昼に買った荷物を置いた一階の部屋まで降りてくれるかな?」
指示に頷いて向きを変え、浮いたまま滑っていく。歩行と違って揺れが無いから快適だなぁ。
体に触れるシルクのお肌もぷにすべで柔らかくて気持ち良いし……っていかんいかん、このままでは抱っこに馴染んでしまいそうだ。
あんまり馴染み過ぎるとうっかりそのまま皆の前に出て、アヤメさん辺りに大笑いされてしまうぞ?
でもやわこいなー…… ええい、しっかりしろ私! 開発の罠に負けるな!
あ、しょうもない葛藤してる間に着いてた。
とりあえず材料と機材を動かして貰おうか。
「えっとね、そこに置いてある薬研とフライパンに、あと大豆も全部厨房に運んでくれる? そのままじゃ持ち辛いだろうから、入れ物作ってあげるね」
【魔力武具】を使って、平らなタイプの岡持ちを大きめに作って差し出す。
そうそう、それに全部入れて持っていってね。
こうしてシルクの手が塞がっていれば私も自分で移動でき……ませんよね、はい。片手での抱っこ上手ですね。ぷにぷに……
「あ、そうだ。出来た物を入れておく器を作りたいから、ホールで木材も少し拾っていこう」
頷くシルク。どちらにしろホールは通るから、その時に言っても良かったんだけどね。
「ゴミ箱も無かったはずだし、少し多めにお願いね」
私を抱いたまま岡持ちを置いて、空いた手で木材を拾って放り込む。
降ろしてから両手でやればいいと思うんですけど? まぁ予想はしてたけどさ。
厨房に着いたので一旦降ろしてもらう。流石に抱っこされたまま作業は出来ないからね。
「それじゃシルク、この大豆をきな粉にするから、とりあえず炒っておいて貰えるかな。やり方は解る?」
問いかけに対して、シルクは「任せて!」といった感じの顔で頷く。
あれ、そういえばきな粉作りの場合って、大豆を水につけてから乾燥させておくんだったっけ?
どうだったか、ちゃんと覚えてないな。まぁなんとかなるかー。多分その必要があるなら、シルクの判断でその作業から入るでしょ。
うん、雑なご主人でごめんよ。
シルクの体格じゃこのコンロとフライパンは小さいだろうけど、このサイズしかないから仕方ないな。
あ、コンロの使い方は知ってるのかな?
そちらも確認してみたら頷いたので大丈夫そうだ。まぁ照明やシャワーと同じだしね。
さて、木材加工をしなきゃだけど。お風呂上りだし寝る前だしなー。
ちゃんとしたものを作るのはまた今度にして、今はとりあえず大雑把に作ろうか。
木片に魔力を流して柔らかくし、一つにまとめてシルクに渡す。ちょっとこねこねして一体化させててね。
大きな入れ物を手作業で作るのも大変だし、フライパンを作った時みたいに【魔力武具】を使って成型しよう。
外側の型と、入り過ぎないようにストッパーを付けた内側の型を魔力で生成する。
「シルク、それをここに入れて。で、これをギュッと押し込んでー。はい、おっけー」
あふれた分を切り落とし、残った部分を固めてから型を吸い取る。ちょっといびつだけどゴミ箱の完成だ。
同じような作業をもう一度繰り返して、今度は炒った豆を入れておく箱を作る。
あ、蓋も有った方がいいかな。もう一回だ。
余った木材で木べらも作って、作業完了。岡持ちも吸い取って回収だ。
よし、それじゃ私は寝るから後はよろしくね。
ってやっぱり抱っこで連れていかれるんだな。こっちが優先かー。
私の部屋まで運搬されて、ベッドの上にぽふっと降ろされる。
くそー、運搬中のなでなでは反則だぞー。私は撫でられて喜ぶような歳じゃないんだぞー?
まったく、このゲームは人を幼児退行させようとでもしてるのか。無駄に上手ですごい気持ち良いんだよ。
「それじゃシルク、後はお願いね。えっと、無理に全部やろうとしなくていいからね? 疲れたら休むんだよ? ちゃんと聞いてる?」
言っている間にも寝かされてお布団をかけられてとお世話されっぱなしである。
一応優し気な笑顔で頷いて返事はしてたけど今の顔、心配する子供をあやす顔じゃなかったか?
「はいはい。大丈夫ですよー」みたいな。あ、灯りが消された。
おやすみー……ってあれ、出て行かないの? よく見えないけど多分こっち来たぞ。
え、ちょっと。もしかして寝付くまで見守るつもりなの? すごい落ち着かないんだけど。
こんな状況じゃ寝らんないよ。ほら、私はいいから大豆を……っておおう。頭にシルクの手が……
うぅ、くやしいけど落ち着く……
もうこれ、鎮静効果のあるスキルか何かなんじゃないのか……?
うん、きっとそうだ。そうに違いないんだ。だから私はわるくない。
むぅー。恥ずかしいけどなぜか抵抗する気が起きてこないぞ。あー、頭がぼんやりしてきた……
こんな小っちゃい子になでなでされて寝かしつけられるなど、わたしのプライドが許さぬわ。
でも暗い部屋のお布団の中で心を鎮められると…… くそぅ……
さようならプライド…… またあうひまで……




