70:お茶を振舞おう。
結論から言えば、お茶はとても好評だった。
ただ、道具が足りてないという問題があったけどね。
自分が自由にお湯を出せるから、やかんを用意するっていう発想が抜けてたのだ。
管理室に置いて無かったら、私が給湯機にならなくちゃいけないところだったよ……
その方が喜びそうな人もいるけどそれはまぁ置いとくとして。
お茶請けは私がバラから採ってくる蜜しかなかったけど、皆楽しんでくれたようで良かった。
販売額を考えればそれなりに高価ではあるけど、元手はタダだしね。
勤務時間外だからかモニカさんも少し砕けた感じで話してくれて、三人と少し仲良くなったっぽい。
でも私だけは未だに様付けなんだよなぁ。なんとかならないものか。
……うん、多分ならないな。さっさと諦めておこう。
お喋りしている最中、ふとモニカさんが慌てた顔になる。
「申し訳ございません、白雪様。姫様からのお届け物を預かっていたのを失念しておりました。直ちに持って参ります」
あ、そういえば服を届けてくれてるんだったっけ。
別にそんな急がなくてもいいのに。……ってなんか箱大きくないか? 少し嫌な予感がするんだけど。
「こちらになります。ご確認ください」
持ってきた大きな箱を開いて、机の上の空いたスペースに私より少し大きいくらいの箱が置かれた。
おや、クローゼットも一緒にくれたのかな。開けてみよう。
……いや、明らかに選んだ覚えのない服まで入ってるんだけど。
横に置かれたシルク用のクローゼットにも追加で数着。選んだ意味があんまり無くない?
「えっと、なんか予定より多いんですけど?」
「好きに組み合わせろ、と仰っておりましたね」
まぁ確かにあれだけじゃパターンは限られるだろうけどさ。
どうせ返そうとしても断られるだけだろうから、大人しく受け取っておくか……
「いいなぁ。実戦用の防具ってあんまり可愛くないんだよね」
そりゃそうだろ。機能美はあるかもしれないけども。
「雪ちゃん、これ今着てみせ」
「着ない。それでは、確かに受け取りました。申し訳ないのですが、私の部屋に両方とも設置して貰えますか?」
「かしこまりました」
しょんぼりしてるお姉ちゃんはスルーしておこう。なんで無駄に人前で着替えを披露しなきゃならないんだよ。
モニカさんが屋根を持ち上げ、箱を壁際に置いてくれた。一緒にシルクに合わせたサイズの姿見も設置される。うん、まぁ確かにそっちにサイズを合わせれば一枚で済むよね。
さて、そろそろお開きかな…… っと、そうだ。
「モニカさん、使用済みの葉で良いので一人分淹れて貰えますか?」
「はい。これをどのように?」
「お風呂に注いで下さい。……ってしまった」
自分から進んでお姉ちゃんに見せてしまったぞ。
まぁ無茶な事を言いだしても普通に対応すればいいか。
「かしこまりました。では、後で飲ませて頂いても?」
「良い訳が無いでしょう!?」
いや、もっとヤバい人が目の前に居たわ。何が「では」なんだよ。意味わかんないよ。
残念そうな顔をするんじゃない。皆思いっきり引いてるぞ。
「か、可愛いお風呂だねっ!」
お姉ちゃんが頑張って無かったことにしようとしている。
「え、えぇ。よくお似合いかと。しかし、今注ぐと入る時には冷めてしまっているのではありませんか?」
「あぁ、追いだき機能が付いてるから大丈夫。あと一応蓋もしておくよ」
「ほー、便利なもんだな。っていうか、大丈夫なのか?」
省略されてるけど、アヤメさんの言いたい事は大体解る。というか解らざるを得ない。
「あー、うん、王女様は『手を出したりする事は無いと思うが』って言ってた」
「断言はしてくれないんだな」
「うん、まぁ大丈夫…… だと思う、多分」
などと言っている間に注ぎ終わっていたので、【魔力武具】で作った蓋をカップに乗せておいた。
気休め程度にはなるだろう。
「失敬な。私は人畜無害なただの庭師ですとも」
あ、やっぱり聞こえてた。まぁ【聴覚強化】持ちだしね。
「いや、無害な庭師はお風呂の残り湯を飲ませろとか言いませんので」
「手は出さないのでセーフです」
「いや、余裕でアウトでしょう。疑いの余地も無く」
「再審を要求します」
「アリア様に報告しますよ?」
「取り下げます」
流石に首にはならないだろうけど、苦情が入れば配置換えくらいはされるだろうからな。
条件から【細工】を外せば多分まだ何人か候補はいるだろうし。
さて、それじゃ今度こそお開きにしよう。
って、このサイズのカップを洗う場所も家には無いじゃないか。
この庭無駄にスペースあるし、給湯室だけでも作るべきか……?
まぁそんな物すぐには出来ないし、モニカさんにお願いして場所を貸してもらおう。
頼んでみたら自分がやると言い張られてしまった。仕方ない。
「それじゃシルクはお手伝いに行って来てくれるかな?」
家事がやりたいのか、洗い物を見て少しうずうずしてるし。
「何か変な事をされそうになったら逃げて来るんだよ」
「手は出さないと言っているではないですか。こんなかわいい子に手伝って貰えるだけでとても幸せです」
つい、で出しそうだから言ってるんだよ。
「さて、それじゃそろそろログアウトするかい?」
「あ、お姉ちゃん」
「ん?」
「今MP余ってる?」
「どうしたの? お腹空いた?」
「役場の中庭で私に攻撃魔法を撃ってほしいんだ。あぁいや、なかなか【MND強化】が上がらないから試しにね」
「びっくりした。さっきのモニカさんの発言があるから余計に驚いたよ」
「大丈夫、変な趣味がある訳じゃないから」
「うん、解ったよ。それじゃ一緒に役場に行こう。二人はどうする?」
「なんか面白そうだから私も見に行こうかね」
「私も同じくですね。それに、万が一何かがあったとしても回復することができますし」




