65:粘土を捏ねよう。
次々と差し出される果物(たまに野菜)にどんどん蜜をかけていく。
同じ時間帯だからか、昨日見た顔も結構多いな。羊さんも居た。
うん? なんかちょっとざわついてるけど、どうしたのかな?
……あぁ、なるほど。なんでこのお姫様、町中に普通に居るんだよ。
いや、案外結構出歩いてるのか? フットワークの軽さが売りとか言ってたし。
「やぁ白雪、大繁盛だな。これに頼むぞ」
「なんでアリア様がこんな所に?」
「こんな所という言い方は店主に失礼ではないかな? 趣味に使う資材を買いに来て、帰る所でこの行列を見かけてな」
目立たないように立っていたコレットさんが律儀に中継してくれた。
しまった、確かに聞きようによっては失礼だな。おばちゃんに頭を下げて、ごめんなさいしておこう。
「いいよいいよ、悪意が無いのは解ってるから気にしなさんな」って顔して手を振ってくれた。良かった。
「ところでその子だが…… いや、今は邪魔になってしまうな。また今度、暇な時にでも訪ねて来てくれ。それではな」
あ、やっぱりシルクがロックオンされた。
行ってみたら着せ替え用の服とかが用意されてそうで怖いな。
というか私の分がある可能性の方が高いのか。初対面でも何か着せようとしてたし。
まぁ来いとはっきり言われたら行くしかないな。
よし、これでおしまいかな?
今日もいくつか本気なのかネタなのかよく解らないチョイスがあったな。
大根とか玉ねぎとか、もしや私を困惑させようとしてるのだろうか。
切ってしばらくつけておくのは聞いた事あるけど…… まぁいいや。単に好きなだけかも知れないし。
えーっと、売れたのは多分百四十七個かな。違う、一つは自分で使ったんだから百四十六だ。
シルクに手伝って貰って十枚ずつ積み上げて確認する。うん、あってた。
「今日も両替するのかい?」
こちらが言う前からおばちゃんから聞いてくれたな。ありがたい。
頷いて同意すると目の前に銀貨が三枚置かれた。これじゃちょっと多いよー? と首を振ってみる。
「ほら、黙って受け取りな。昨日の分を合わせたら、まだこっちの方が多く貰ってるんだからね?」
むぅ、そういうなら受け取ろう。
銀貨をボックスにねじ込み、おばちゃんに手を振って飛び立つ。
ポチ、お待たせーってあれ? あ、居た。なんか可愛がられてるな。ほらほら、いくよ。
遊んでてくれた人たちに【妖精吐息】を吹きかけ、手を振って立ち去る。ありがとねー。
お昼も済んだ事だし、今日も【細工】を教わりに行くとしよう。
自力習得まで先は長いかも知れないけど、時間はいくらでもあるから問題はない。
そうだ、一応【血肉魔法】を控えに回して【細工】と【金工】の枠を確保しておこう。
取れなかったら戻せばいいだけだしね。
工房に着いたのでポチを送還する。もちろん撫でまわしてからだが。
で、シルクはどうしよう。私が練習してる間、静かにしてられる?
頷いたので一緒に入ってみよう。ダメって言われたら悪いけど一旦還っててね。
あ、ドア小さいけど引っかかって壊したりしないでね?
「いらっしゃい。あら、その子は?」
「この子はシルキーっていう種族の召喚獣で、名前はシルクです。静かにしてるので居させてあげて良いですか?」
「えぇ。騒いだり暴れたりしないのなら、何も問題は無いわ」
「良かったね。それじゃ今日もよろしくお願いし」
「あっ、妖精さんだぁ」
遅っ!? っていうか他の人が居たのか。あれ、羊さんじゃないか。
知り合いみたいに言ったけど二回会っただけだな。まぁ別にいいか。
「妖精さんも【細工】の練習ですか?」
そりゃ細工の工房に来るならそうだろうね。あ、制作の可能性もあるか。まぁ練習であってるし頷いておこう。
「はいはい、作業中はちゃんと集中する」
フェルミさんからごもっともなお言葉が。私も準備をして始めるとしよう。
シルクは皆の邪魔しないように大人しくしててね。
「シルクちゃん、良かったら粘土で遊んでみる?」
おや、私の作業をじーっと見てたシルクに楽しげな提案が。
やってみたそうな顔で私を見てくるので、頷いて送り出す。大人しく遊ぶんだよ。
ただ私の作業を見続けてても暇だろうし、ありがたい事だ。
黙々と銅板を打ち出しつつ、区切りのいいところで遠くから羊さんの手元を見てみる。
おー、ちゃんとスキルは持ってるっぽいな。いや、まぁ普通はポイントで取るわな。
あれは銀のペンダントトップを彫ってるのかな? あぁいけない、見てないで自分の訓練をやらないと。
「それでは、今日はこのくらいにしましょう。はい、シルクちゃんはこれで手を洗ってね」
ちょっとずつ上達してる実感はあるけどまだまだだな。
シルクは作っては崩してを繰り返して遊んでたらしく、最後に全部まとめて丸め直してあった。
周りも散らかしてないし、えらいえらい。
「今日もご指導ありがとうございました。それにシルクの相手もして頂いて」
「いえ、いいのよ。それではまたね」
「はい、失礼します」
二枚のドアを開けてあげて、シルクが通ってから閉めていく。
さて、何するかなー。そうだ、布を買うんだった。
通訳出来る人は居ないけど、普通に買い物をするだけなら大丈夫だよね。
南通りの素材屋さんの前まで来て、肝心なことを忘れていたのに気づいた。
私ドア開けらんない。【跳躍】で跳ぶのは危ないし…… シルク、これ開けられる?
うーむ。ノブが少しだけ動いた分、私よりよっぽどマシだけどやっぱり駄目かー。
あ、そっか。カウンターから見える窓を軽く叩いて中から開けて貰えばいいんだ。
店員さんの手を煩わせるのも申し訳ないけど、自力で入れないから仕方ない。
すいませーん。あ、気付いてくれた。
「いらっしゃいませー!」
相変わらず声が大きいな、この店員さん。
まぁそれはいいとして、ありがたく入れて貰おう。
布が置かれているコーナーで適当に吸水性の良さそうな物を見繕う。
うん、これでいいかな。
「はーい、何をお求めですかー? はい、こちらですね。サイズはどうしますか? はい、はい。同じものをもう一枚ですね。それでは銅貨五枚となります」
サクッと決めて、支払いも済ませる。小さく畳んで紐でまとめてくれたので、シルクに担いでもらう。
ちっちゃい子に荷物持ちをさせるのは何だか心が痛むけど仕方ない。
くどいようだが、私よりよっぽど力持ちだからね。
「ありがとうございました、またどうぞー!」
ドアを開けて貰って表に出る。それじゃ一旦お家に帰ろうか。
あ、外した魔法を再セットし忘れてた。使ってないけど一応付けておこう。




