494:名前を探ろう。
「さて、なんと読むでしょう?」
楽しそうな笑顔で聞いてくるお姉さん。
名前にネタを仕込んでるから言わせなかったんだなぁ……
うーん、流石にそのまま『さんさんさんさんさんさんさん』さんとか『さんびゃくさんじゅうさんまん~』ではないだろうし、特殊な読み方だよね。
「一応確認したいのですが、全く関係無い読み方であったり記号として使ったりしてはいないのですよね?」
「ええ、その点は大丈夫よ。本当にそう読むことが出来るのかは私も知らないけれどね」
カトリーヌさんがレンジャーさん経由で確認を取ってる。
特殊だし普通はそう読まないだろうけど全く関係無いわけでは無い、くらいのさじ加減かな?
カトリーヌさんと二人でいくつか答えてみるも、なかなか正解が出てこない。
「うーん、そのまま中継してくれてるのは解るんだけど、君のお嬢様口調って笑いそうになるわねぇ」
「やかましいっすよ」
私たちの言った事をそのまま伝えてくれているレンジャーさんが、お姉さんに絡まれている。
うん、まぁ確かに違和感はすっごいよね。
おや、ぴーちゃんがすすっと少し前に出ていった。
「ぴぴっ、ぴゃー」
ばさっと片手を上げて鳴き声を上げるぴーちゃん。
このタイミングでわざわざお姉さんに声をかけるって事は、ぴーちゃんも何か思いついたのかな?
「ごめんね、多分答えてくれてるんだろうけど、おねーさんちょっと解らないわ」
お姉さんが困った笑顔で首を傾げ、ぴーちゃんに謝った。
うん、私も解らないよぴーちゃん。
「ぴぅ」
しょぼんと戻ってきたぴーちゃんを、仕方ない仕方ないと言いながら撫でておく。
言葉は通じなかったけど頑張る姿勢は評価するぞ。
「七つの三でななみさん、でしょうか?」
「お、惜しいわねぇ。そっちは本名だけど、方向としては間違いじゃないわ」
カトリーヌさんの答えが惜しかったらしい。
ていうか本名なのか。
「いやそれ言っちゃって良いんすか」
「下の名前が知られたからって大した問題は無いわよ。全国にななみさんが何人居ると思ってんの」
やーねぇと手を振るお姉さん。
うん、まぁそれは確かにそうだろうけどさ。
まぁ自分で言ったんだし、気にしないって言うなら他人が口出しする事では無いか。
「さてさて、惜しいのが出てきたところでタイムアップよー」
なんか一方的に打ち切られた。
制限時間とか初耳なんですけど?
まぁこのまま続けても正解がいつ出るやらって感じではあるけどさ。
「タイムっていうか飽きただけじゃないんすか?」
「そんな事無いわよー? こっちから呼びつけておいて、いつまでも捕まえちゃってるのも悪いもの」
「最初から呼ばなきゃ良いんじゃないっすかね。どうせ用事ってほどの事は無いんでしょうに」
「ほら、逃げられると追いかけたくなるじゃない?」
「同意を求められても困るんすけど」
特に用が有って呼んだわけじゃないのか……
まぁ元々、一回会って糸上げたくらいの関係だったもんなぁ。
「どうせ暇してたから、呼ばれたのは全然かまわないんですけどね」
「ここを覗いていたのも、暇つぶしの様なものでしたもの」
「あ、そうなんすね。良かったっすね、どうせ暇だったから別に構わんらしいっすよ」
「あら、暇じゃなかったら私なんて放って行っちゃってるわよ」
お姉さんがレンジャーさんの通訳に笑って手を振っている。
いやー、無視して逃げたら取って食われそうな顔だったよ。うん。
こわいから言わないけど。
「ところで正解を教えてあげなくて良いんすか?」
「言おうと思ってたところに君が絡んできたんじゃないの」
「そうかもしれないっすけども」
「まぁそれは良いとして。正解はー」
言いながらしゃがみこんで、地面に木の棒でカリカリと三の字を書き始めた。
おや、七つ書き終えたと思ったら一文字目と二文字目の間にスッと線を入れて区切ったぞ。
「三三三三三三三ちゃんでしたー」
区切ってないだけで一文字目は苗字だったのか……
そんなの解るかと言いたいんだけど。
まぁ確かに、下の名前はカトリーヌさんの考え方で合ってたらしいな。
六つの三、だし。
カトリーヌさんも横であーって顔してるよ。
苗字が入る解答もしてたし、そのうち自力で当ててたかもなぁ。
まぁ『にのうえ』って読み方が出てこない可能性が高いけど。
「呼び方は好きにしてもらって良いわよー」
「どうせ直接は聞こえないでしょうに」
「ニノでもニノウエでもムツミでも、お好きにどうぞ。オススメはむっちゃんよー?」
ツッコミを入れるレンジャーさんを完全に無視するむつみさん。
うん、まぁ聞こえないにしても言われたくない呼び方が有るかもしれないんだから、なんでも良いよって言ってくるのはこっちとしても無意味では無いか。
「しかし姐さん、ちゃんって歳でも……」
「あらあらー?」
「黙るんで鞭は勘弁してください。いやマジで」
にっこり笑って鞭を取り出すむつみさんに、素早い土下座を披露するレンジャーさん。
そりゃそうなるよ。
「君が居ないと白雪ちゃん達とお話出来ないし、今は勘弁してあげるわ」
……思いっきり『今は』って強調したな。
鞭はしまったけど、なんか鞄からロープ取り出してるし。
「そう言いつつ自分の足首を縄で縛るのは何なんすかねぇ」
そう言いつつも無抵抗なレンジャーさん。
まぁ逃げようとしたら、余計に酷い目に遭うだけか。
「気にしなくて良いわよー? あ、痛んでも良い上着に変えておいてね」
「大体解ったっす」
自分が何をされるか察して、諦めの漂う顔になるレンジャーさん。
まぁうん、程度によるけど逆さ吊りよりは……




