493:もっと戸惑おう。
しかしレンジャーってあれだよね。
自衛隊の特殊部隊みたいな感じのやつ。
いや、レンジャー自体は単なる資格なんだっけ?
そういうの全然知らないんだよなぁ。
まぁその辺は別に良いか。
「レンジャーくん様は、自衛官の方なんですの?」
あ、カトリーヌさんも似た様な事を考えたらしい。
しかしカトリーヌさん、初対面で現実の事を直に聞くかね?
まぁ嫌なら答えないってだけの事か。
失礼な奴って思われる可能性は有るけど。
「いやぁ、子供の頃に憧れてた事はあるんすけど、ちょっと体が弱くて無理そうだったんで早々に諦めたっすね」
「あら、申し訳ありません」
レンジャーさんの答えに、カトリーヌさんが悪い事を聞いてしまったかと謝る。
「あーいや、大丈夫っすよ。ほんと小っちゃい頃の事ですから。今はただ単にサバゲーやその手のゲームが趣味な、ただの大学生っすねー」
手を振って気にしなくて良いと答えるレンジャーさん。
うん、変な空気にならなくて良かった。
……たまにちょっと口調がブレてる気がするのは、この人もキャラを作ってるからなんだろうか。
まぁ別に、そこはどうでも良いけどさ。
てかもし本職の人なら、平日のこんな時間に居ないよね。
いや、そういう人達がどういう時間割で動いてるか知らないから、もしかしたら普通に居るのかもしれないけどさ。
「あれ、それじゃ何でこのゲームに? これ、そういう要素からはかなり遠いゲームな気がするんですけど」
ふと気になって聞いてみる。
そりゃ一応対人戦とかもやろうと思えば出来るだろうけど、銃器とかそういうのは殆ど無いはずだよね。
そういうのをどっさり体に埋め込んでそうな人が、ちょっと南の方に行ったら居るけどさ。
「いやー、ああいう対人戦がメインのゲームって、ある程度やってるとどうしても殺伐としてくるじゃないっすか。チーム戦は特に」
「あー」
あんまりやった事は無いけど、確かにそうなのかも。
楽しく遊んでる内は良いだろうけど、勝率とかを気にし始めたら一気にギスギスしていきそう。
「そういうのが何度も続くと、たまには違うジャンルに離れたくなる事も有るってわけっすね」
「なるほどー」
レンジャーさんの言葉に頷きを返す。
色々と疲れたら気分転換ってのは、嫌いにならないためにも大事な事だよね。
「お話、楽しそうねぇ?」
「ひぁっ」
……突然横からぽつりと聞こえてきたお姉さんの呟きに、ビクッと体が硬直して声が漏れた。
いや、これレンジャーさんに向けて言ったんだな。
こっちじゃないっぽいな。うん。
「なんかそういう流れだったんだから仕方ないじゃないっすか。とばっちりで白雪さん達まで怖がってますよ」
「あらあら、ごめんなさいね。ただこんな色物ネームくんより、お姉さんに構ってほしいなーって」
色物ネームて。
……まぁ否定は出来ないけどさ。
「いや姐さん、あんたに名前の事を言う資格は無いでしょ」
「えー? 私『くん』とか付いて無いし?」
「そういう問題じゃねーっすよ」
ん、何、お姉さんも奇妙な名前なの?
まぁネットゲームのキャラクター名なんて、とんでもない名前を一度も見かけないって方が珍しい気もするけどさ。
「あー、えっと、おねーさんはなんてお名前なんですか?」
「あ、うん。名前なんてーのって聞かれたんすけど、普通に言って良いっすかね」
「だーめ」
ピンと立てた人差し指を口の前に持ってきて、にっこり笑顔でレンジャーさんを止めるお姉さん。
え、教えてもらえないの?
ん、お姉さんがメニューパネルを出して操作し始めた。
いきなりどうした…… ってこっちにもパネルが出てきた。
口で名乗る代わりに、フレンド申請を飛ばしてきたのか。
えーと?
「……すみません、お名前が読めないんですけど」
「ええと、これは…… 失礼ですが、一体なんとお呼びすれば良いのでしょうか……?」
あ、カトリーヌさんにも申請してたらしい。
隣でもやっぱり読めずに、困った顔で聞いてるよ。
いやいや、『三三三三三三三』ってこれほんと、なんて読めば良いんだよ。
そりゃレンジャーさんも、名前の事で色物とか言われたくないってツッコむよ。




