492:名前に戸惑おう。
とりあえず入り口に居ても仕方ないので、お姉さんの言う通り中に入って閉めてもらおう。
私たちが通過したのを確認してから、パタンと閉じてこちらを振り向くお姉さん。
「ぴゃっ!?」
「あ、待って、逃げないでー。うそうそ冗談、なーんにもしないから大丈夫よー?」
そりゃそんな「かかった……」みたいな顔で振り向いたら、ぴーちゃんだって逃げようとするよ。
いや、まぁ顔の事とか言うと私やぴーちゃんも、全然人の事言えないんだけどさ。
「ぴぅ……」
戻ってきたは良いけど、あのひとこわいとばかりに私の後ろに隠れるぴーちゃん。
ジェイさんの時もだけど、召喚獣としてそれはどうなの。
多分本当に手出しして来たらちゃんと前に出てくれるだろうし、可愛いから良いけどさ。
「あらあら、嫌われちゃったかしら?」
困ったわねぇといった感じの顔で笑うお姉さん。
嫌ってはいないと思うけど、とりあえず怯えてはいるよね。
「自業自得じゃないすか?」
「君は黙って通訳してれば良いの」
うわびっくりした。
お姉さんに意識を向けてたからか、静かに近づいてきたお兄さんに気付かなかったよ。
この人、さっき匍匐前進してた人か。
あ、肘と膝の所に金属製のプロテクターを付けてあるんだな。
まぁそうでもしないと、あれだけ高速で這いずり回ってたらすぐに破れちゃうか。
よく見たら肘の方は表面がデコボコっていうか、小さな突起をいくつもくっつけた様な形をしている。
滑るのを防ぐスパイクみたいな物かな?
……しかし当然と言うかなんと言うか、めっちゃ砂まみれだな。
「黙ってちゃ通訳できんでしょ」
「はーいはい」
お兄さんのツッコミというか揚げ足取りを、どうでもいいとばかりに手を振って受け流す。
うん、まぁ確かに黙ってたら伝えられないな。
「えーっと」
「あ、すんません。白雪さんとカトリーヌさん、でしたよね」
「あ、はい。【妖精】の白雪です」
「同じく【妖精】のカトリーヌですわ」
「うっす、よろしくお願いします。自分はレンジャーくんっす」
「あ、よろしくです。……えっと、それは『くん』までがキャラ名って事で良いんですか?」
召喚獣にぴーちゃんって名前をつけた私がツッコむのも変な話だけど。
「うぃっす。まぁつけなくても全然構いませんが、一応そういう事っすね」
「よろしくお願いします、レンジャーくん様」
「いつもの事だけど『くん様』って変な感じだなぁ」
「くんさんとか良くありますし、そういう名前にしたのはこっちっすからねー」
はっはっはと笑うレンジャーさん。
まぁそうなるのは承知の上で付けた名前だろうし、気にしてたらきりが無いか。




