472:心配をやめよう。
「さ、シルク様のお気遣いを無駄にしないためにも、フェルミ様の工房へ向かいましょう」
「はーい」
心配だけどこうしていても仕方ないし、言う通りにしよう。
ていうか背中押さないで欲しいんだけど。
そんなことしなくても見に行ったりしないし、翅が動かせなくて飛びづらいんだよ。
人の少ない道を選んで壁際の高い位置を飛び、時折居るこちらに気付いて手を振ってくる人に愛想を振りまきつつ工房を目指す。
高く飛んでるなら道の真ん中でも良い気がするけど、なんか長い物や大きい物を持ってる人が居ないとは限らないからな。
槍とか以外にもこの辺は製造関係の人が多いから、角材とか担いでる人も見かけるし。
「おじゃましまーす」
「失礼します」
声を出しつつ工房のドアを開く。
あれ、今日は人が多いな。
多いって言っても、フェルミさんと店員さんの他に三人居るだけだけど。
それなりのスペースがあるから、ガラガラな事には変わりない。
ていうか店員さんがこっちに居るのって珍しいな。
「あら、いらっしゃい」
私達に気付いて立ち上がろうとしたフェルミさんの肩を、店員さんがぐっと押さえて座り直させる。
「あと三個ですよ」
「……解ってるわよ」
……なんか今日は、みんな仕事に捕まってるなぁ。
ていうか表の商品、結構売れてるのかな?
みんなお金に余裕が出来てきたんだろうか。
単に何か、大金を払う価値のある効果が有るのかもしれないけど。
「ここでやって大丈夫ですか?」
フェルミさんが作業をしている机のすみっこを借りることにする。
別に空いてる机は有るんだけど、ここならいつも通りチラッと見てからの助言が貰えるかもしれないし。
まぁ仕事の邪魔になるといけないから、確認は取るけど。
「ええ、問題無いわ。一応気を付けておくわね」
「ありがとうございます。ぴーちゃんは好きにしてて良いよー。ただ、皆の邪魔はしない様にね」
「ぴ」
私の言葉に、小声でお返事するぴーちゃん。
うん、良い子だ。
「カトリーヌさん、お礼は良いの?」
フェルミさんに聞こえない様に、小さな声でカトリーヌさんに聞いてみる。
聞こえちゃダメなわけじゃないけど、手を止めさせたら悪いし。
「お忙しい様ですので、一段落されたタイミングを見計らおうかと」
ああ、まぁそうだよね。
とりあえず、しばらく黙々と金属板を叩くとしようか。




