469:お願いされよう。
お仕事を完遂して誇らしげな顔で戻って来た珠ちゃんを、よーしよしよしと撫でまわす。
うん、良い子だ。
「よし、それじゃ行こうか。太郎も起きてねー」
これでもかってくらいに撫でまわしてから、移動の準備を促す。
なんか途中から私が楽しんでただけな気もするけど、まぁそれは良いとして。
お団子と化していた太郎が私の言葉で立ち上がり、とことこ走って来て珠ちゃんによじ登る。
ん、なんかパンパンだった頬袋が少し縮んでる様な?
丸まったままの状態でちょっとずつ、どうにかして器用に食べてたのかな……
まぁ別に良いか。
何も困らないって言うか、むしろ動きづらいくらいパンパンなままの方が困るし。
「それじゃ、今日もありがとうございましたー」
「あいよ、またおいで」
皆で一緒におばちゃんにお辞儀して、陳列棚から手を振りつつ飛び立つ。
おばちゃん、聞こえてないはずだけど普通に返事してくれたな。
いや、まぁこっちが喋ってる事自体は判るだろうし、この状況で言う事なんて大体察せるか。
広場から出て人の少ない路地へ入り、建物の壁の近くで一息。
たくさん人が歩いてるところだと、常に即死の危険がつきまとうからなぁ。
まぁここも道の端っこってだけだから、油断は出来ないんだけど。
「さて、これから何しようかな」
「私は届いていたベッドのお礼を言いに、フェルミ様の所へ参ろうかと思います」
「あ、それじゃ私も一緒に行って【細工】の練習しよっかな」
諦めてポイントでスキル取ってからの方が良い気もするけど、もう半ば意地だよね。
別に無くても困るわけじゃないし。
「はい。では参りましょう」
「あっと、ちょっと待って。シルクはどうする?」
他の子はともかく、シルクは家でのお仕事をやりたいかもしれないから聞いておかないと。
あ、やっぱり戻るのか。
家の方角を指さしてからぺこりと頭を下げた。
「うん。それじゃ、いろいろよろしくね」
私の物凄く曖昧な言葉に笑顔で頷いて、ふわりと静かに家へ向かうシルク。
ってピタッと止まって振り向いたぞ?
何かあったのかな。
「あれ、どうしたの?」
手っ取り早く、直接聞いて確認しよう。
ん、なんか困った顔してる。
「どう言えば良いんだろう」というか、「お願いして良いのかな」というか。
「白雪さん、シルク様は『せっかく市場に出てきているのだから、足りない素材を買って帰りたい』と仰っているのではありませんか?」
「あ、なるほど。シルク、お金持ってないもんね」
どうやらカトリーヌさんの推察が当たっていたらしく、シルクは笑顔でこくこく頷いてからカトリーヌさんに頭を下げた。
そういえば今は色々足りてないんだったか。
足りなくなってるのはシルクが頑張り過ぎてるからって気もするけど、それは良い事だし。




