465:止められよう。
今日は太郎と珠ちゃんが視線を分散してくれてて、いつもより少し落ち着いて食事が出来るな。
まぁ見られてる事には変わりないし、正直私も気になっちゃってるんだけど。
兎さんも隣で梨を食べながら、珠ちゃんを笑顔で眺めてる。
撫でたいけどお互い食べてる最中だし、我慢してるみたい。
「やー、この子可愛いねぇ」
「そうですわねぇ」
こちらに同意を求めるような兎さんの呟きに、カトリーヌさんがのんびりと答える。
あ、なんか珠ちゃんが止まった。
殆ど食べ終わってるお皿から少し顔を離したと思ったら、ゆっくりと顔を近づけて静かに食べ始めた。
……もしかして無意識に声出してたのに気づいて、ちょっと恥ずかしがってるのかな?
あ、食べ終わって顔洗い始めた。
あれ恥ずかしかったからごまかそうとしてるな……?
「何かあったの?」みたいなすました顔してるし。
うん、ごまかせてないっていうか可愛さが増してるだけだと思うよ。
「あー、はい、どうぞ」
「ん? あぁ。食べ終わったし撫でて良いよーって言ってますよ。……合ってるよね?」
触りたいって顔でこっちをチラチラ見てくる人達が居たので、シルクが口にねじ込んでくる合間に許可を出す。
察して中継してくれた兎さんに返事をしようと思ったら次の梨が来たので、オッケーでーすと片手を上げておこう。
「ほらあんた、そんな無理するんじゃないよ」
おばちゃんの声に振り向いてその視線の先を見てみると、太郎のほっぺたがパンパンになってた。
そういうものとはいえ、よくあんなに伸びるな……
「意地を張るんじゃないよ。ほれ、そんなんでご主人の役に立てるのかい?」
むぐーっと更に詰め込もうとする太郎が、膨らんだ頬をぷにっと突っつかれてぐらついた。
簡単にバランス崩すほど無理矢理詰めて、その後どうするつもりなんだ。
お、諦めてくれたみたいだな。
皮を口から離し…… たと思ったら、ぺいって両手でお皿に投げ捨てたぞ。
ちょっと突っつかれたの怒ってるのかな?
いや、別にそういう事じゃないみたいだな。
おばちゃんの指先に頭こすりつけていってるし。
そのまま撫でられて、満足げに丸まってしまった。
「あっはっは。ごめんごめん」
おばちゃんが面白そうにほっぺたを突っついたら、丸まってた太郎がにゅっと手を出しおばちゃんの指をぺちっと叩いて抗議した。
怒るほどじゃないけど、ちょっと嫌なのかな?
……いや、なんかあれ、限界が近くて押されると出ちゃうでしょって抗議っぽいな。
そんなに無理して詰めなきゃ良いのに。




