452:裁定を聞こう。
「しかしその様な事を仰る御方が、潔く手を引いたのですか?」
あー、まぁ確かに、恥をかかされて黙ってるタイプとはあんまり思えないな。
いや、むしろ自分から勝手に恥をかいていっただけなんだけど、本人は絶対そう考えないだろうし。
「まぁ納得するわけは無ぇが、上からの裁定に文句が言える立場じゃねぇからな」
「陛下の御子って事以外、アレに何の価値も無い」
さらっと毒を吐くサフィさん。
まぁ王女だからって好き勝手してるんなら、そりゃ後ろ楯には逆らえないか。
いや、そうじゃなくても普通は王様には逆らえないだろうけど。
「父上は普段は温厚で広い心をお持ちなのだが、お怒りになると一転して冷酷な方になられるからな」
「陛下、怒っても顔変わらないから余計に怖い」
「うむ。そして父上が最も嫌うものが、筋の通らぬ言いがかりだからな。王女の護衛を撃ち王女本人に弓を向けた事は事実だが、身を護るために撃たざるを得ない状況を作ったのは自分だろうと言われてはどうしようも無い」
自分の娘だからとか、王家だからとかの特別扱いは無いんだな。
……でもそれならもっと普段から、そういう事をしない人に教育していけば良いのに。
いや、やった上でそれなのかもしれないけどさ。
っていうか王女様たち普段は好き放題してるっぽい感じだし、自分の所に来た話以外はスルーしてるんだろうか。
そんな暇が無いほど忙しいのかな?
「むしろ姉上が『客を招いておいて危険に晒すとはどういう事か』と叱られる側になっていたよ」
あー、確かに……
お客に国王様の側近まで居る状況で、妹の部下とはいえ元大量殺人犯を暴れさせるなんて正気の沙汰じゃないな。
いや、なんか変な自信でも有ったのかもしれないけど。
自分は王女だから、相手は言う事を聞くのが当然だとかそういうのが。
単に自分の護衛の腕を信頼してて、いつでも取り押さえられるって思ってたのかもしれないし。
……何も考えてないとかじゃないよね?
「その場は引き下がってもあの連中は性根が腐ってっからな。色々と姫様に嫌がらせはしてきたが、まぁ大した問題じゃ無かったな」
「取り巻きどもを含め、家柄くらいしか誇れるものの無い連中だからな」
「類は友を呼ぶと言いますので」
「……何気にコレットさんも結構嫌ってますよね」
「ま、姉上に限らず他の連中も、私に敵意を露わにしているわけだからな。と言っても、私自身は実害が無いから全く気にしておらんのだが」
あー、アリア様の敵はコレットさんの敵か。
いや、アリア様は敵とさえ思ってないみたいだけど。
……なんていうか相手にされてもいないって、ちょっと可哀想になるな。
「そういえば、ジョージ様は王女様の主催する会にも忍び込めるのですね」
ん、そういえばそうだな。
普通に見てたっぽいけど、よく考えたらそう簡単に入れる場所じゃないよね。
まさかお姉さんの部下を排除するわけにも行かないだろうし。
「あー、すげぇ簡単だったぞ? あいつは『どこから見られてるか判らんのが気持ち悪い』とか言って、俺らみたいな部下は持ってないからな」
「……え、いや、それ大丈夫なんですか?」
「まぁ当然、大丈夫では無いな。私への悪だくみも何もかも筒抜けになっていたのだから」
「部下に見られなくても、他の奴に見られてたらもっとダメだろっつー話だわな。まぁこっちは仕事が楽で助かる」
うん、やっぱりそうなるよね。
なんていうかただの一般人が言うのもなんだけど、トップに立っちゃダメな人っぽさが凄いぞ第三王女様。
そもそもそんなんじゃ、他の兄弟が誰も居なくならない限り普通に蹴落とされそうだけど。
……流石にアリア様以外みんなそんなのってわけじゃないよね。
居なくなったらなったで他の人に排除されるか。
いや、流石に王家が大事な家臣が代わりに何とかするかな?
「ま、私の身内の恥は良いとして。サフィ、体に問題は無いな?」
「はい。このとーり」
「いや、この通りとか言うならもっとしっかり動いてみせろよ」
アリア様に確認されて、のびーっと万歳するサフィさんと、それにツッコむジョージさん。
うん、まぁ確かに。
「はっはっは。まぁ良いではないか」
「姫様は本当、ちっこいのに甘ぇんだから……」
ジョージさんがアリア様の言葉に苦笑して、頭をかきながらボヤいてる。
……あれ、でも多分アリア様とサフィさんってそんなに年は変わらないよね。
いや、まぁそこはどうでも良いか。
「ほれアホ、用は終わったんだから仕事に戻るぞ」
「うぇーい」
消えていくジョージさんに続いて、めっちゃやる気のない声を出しつつもアリア様には丁寧に頭を下げて消えるサフィさん。
……あれ、ちょっとしたらまたどこかで寝てるんじゃないかな。




