443:観念させよう。
「やだー」
こんな時でも少しやる気のなさげな声を出しつつ、うねうねと暴れて拘束から逃れようとするサフィさん。
なんか抱っこを嫌がる猫みたいで、ちょっと可愛く見えるな。
「うるせぇバカタレ。罰を受けるのが嫌ならサボんじゃねぇって何回も言ってんだろうが」
「あんまりだー」
「それは普通の事なのでは……?」
「うん」
カトリーヌさんの呟いた至極まっとうなツッコミに同意しておく。
ていうかサボった罰にふてくされてサボるって、無駄に良い度胸してるな……
「やーだー」
「おう、それ以上暴れるなら生でそのまま口に流し込むぞ」
ジョージさんの脅し文句でピタッと動きを止めるサフィさん。
……なんか後ろの人がサフィさんのほっぺたをぶにーって引っ張ってる。
あれは暴れてた時にすねを蹴られたのを怒ってるのか、単に遊んでるだけなのか。
まぁそこはどうでも良いな。
「生肉って大丈夫なんですかね?」
私たちの魔力で毒になってるか以前の問題が有りそうなんだけど。
現実世界みたいにきっちり管理された肉でも無いだろうし。
「あん? まぁ古い肉ではねぇし、そこは大丈夫じゃねぇか?」
「それもありますけど、寄生虫とか居たらまずいんじゃ」
「ああ、ムシの心配か。お前、さっきまで自分たちが何やってたか思い出してみろよ」
「え? ……あぁ」
そういえば、肉全体に【妖精】の魔力を流して動かしてたな。
中に何か潜んでても生きちゃいないか。
でもそういうのも肉に混ざって……
ってそれは普段は意識してないだけで、普通に火を通しても一緒の事か。
炙って追い出してるわけじゃないんだし。
「もしお前らの魔力に耐えるような根性の有るムシが居たとしたら、それはそれで焼いても同じ事だろうしな」
「まぁそうでしょうね」
根性で何とかなるものでも無いような。
いや、単なる言葉のあやだろうけど。
「味付けは」
「有るわけ無ぇだろバカタレが。大人しくしてたらちゃんと調理してやるが、どっちが良いか言ってみろ」
あ、そこはちょっとだけ優しいんだ。
いや、優しくは無いか。
どっちにしろ食べさせはするんだし。
「どうせ逃げても捕まるし、諦める。どうせなら美味しい可能性を求めたい」
「良し。おう、ちょっと食堂から調味料を貰ってきてくれ」
ジョージさんの言葉で後ろの人の姿が消える。
ん、ここで調理するの?
ていうか調味料だけで良いのかな。
「一応言っとくが、今更逃げるんじゃねーぞ」
「もっとひどい目に遭いたくないから、ここでじっとしてる」
「てめぇ、人にメシ作らせといて寝ようとしてんじゃねぇ!」
いや本当に凄いな、この人……
ジョージさんが自前のフライパンやそれを置く台とかを用意してる横で、もこもこの寝袋をボックスから取り出し始めたぞ。
ていうかそれ、完全にサボりグッズでしょ。
「作らせといてっていうか、作るって言ったのジョージさんですよね」
「まぁそりゃそうだけどよ」
「ていうかジョージさん、料理も出来たんですね」
「そりゃお前、ずっと一人で動くんだから一般的な事は出来なきゃ困るだろ?」
「あ、それもそうか」
どうせ食べるなら不味いより美味しい方が良いだろうしね。
現実世界での一人暮らしなら外食なりコンビニなりで済ませられても、こっちじゃそうもいかないだろう。
いや、ジョージさんの仕事を考えると、それ以前に人前に出られない事も多かったのかもしれないけど。




