442:お肉を捏ねよう。
協力して小鉢の蓋を横に降ろし、ゴトッと器に立てかける。
うわー、やっぱちょっとグロいな。
お店で売ってる様な薄切りとか完全に原型が無くなったミンチならまだしも、切れ端を細かくしたぐっちゃぐちゃのお肉だし。
ていうかこれ、何の肉なんだろう。
いや、それを言ったら普段屋台で食べてるのも何肉だか判りはしないんだけどさ。
外で狩ってきた動物とかをいろいろ買い取りに持ち込んでるみたいだし、中には食用になってるのもいくつかあるだろう。
うん、気にしない方が……って思ったけど、今の私って人類を食べる様な種族だし今更だった。
むしろそっちの方が気にしちゃダメな奴だわ。
ただのデータただのデータ。
「では始めましょうか」
「うん。……うぅ、やっぱり見た目が酷い」
「ま、まぁハンバーグのタネを捏ねているとでも思えば……」
私の呟きに苦笑気味に答えるカトリーヌさん。
自分の腕でやった時は平然としてたのにと思ったけど、単純に「確かにそうですね」って返事してるだけか。
「そういえば白雪さんが捏ねているという事は、これも焼けば美味しくなるのでしょうか」
「いや、私に限定する必要は無いよね。まぁそれは置いといて、ただ捏ねただけならともかく【妖精】の魔力を注ぎ込んでるからなぁ……」
「ああ、毒物になっている可能性も有るわけですか」
「【妖精】だからねぇ……」
とりあえず確かめてない事は全部危険だって思うくらいで丁度良い気がするんだ。
やらかしてからじゃ遅いし。
「これで人形を作るのは、止めておいた方が良いでしょうか?」
「あー…… いろんな意味……っていうか理由で止めとこう」
「いくら人肉では無いと言っても、何やら冒涜的ですしね」
「それもあるけど…… なんか【妖精】がやったら、自分で動き出しそうで怖くない?」
「あぁ……」
流石に無いとは思うけど、もし動いたりしたら、なんかジョージさんに説教されそうだし。
ていうか動いたとして、制御できるなら良いけど魔物になったりするかもしれないし。
いや、まぁもし肉に魔力を流して動き出すなら、もう動いてても不思議じゃないんだし大丈夫だろうけどね。
やっぱりメインの理由は気分の問題だな。うん。
あと多分、人に見られたらめっちゃ引かれる。
私でも誰かが生肉で人形とか作ってたらドン引きする。
「さて、そろそろ良いかな」
「はい。これはどうしましょうか?」
「んー、置いておけば良いって言ってたしそのままで良いんじゃない? あー、そういえば私たちの魔力で溶かしたんだし、【吸精】で食べちゃえば?」
「ああ、それも良いですわね。私が頂いてもよろしいのですか?」
「私はさっき貰ったお弁当がちょっと余ってるし、別に良いよー。あと見た目がアレ過ぎてちょっと……」
「それは私やエリちゃんさんを溶かした時も同じかと思いますが」
私の言葉に苦笑してツッコむカトリーヌさん。
まぁそりゃ確かに、こっちの方が普通のお肉な分よっぽどまともなんだけどさ。
「おう、すまんがそれ、やっぱりこっちに貰って良いか?」
あれ、なんかジョージさんがまた来た。
「はい。せっかくだから、という程度ですので私は構いませんわ」
「私も要らないし、問題無いですよー」
どうせカトリーヌさんに上げようと思ってたんだしね。
でもいきなりどうしたんだろう?
「ありがとよ。さっきお前らが言ってた毒になってるかもしれないってのを、ちょうど良いから確認しておこうと思ってな」
「やめろー、はなせー」
……なんかサフィさんが別の隠密さんに羽交い絞めにされて連れてこられた。
実験体にされたくなくてもがいてるけど、捕まえてる人の方が強いらしく全然抜け出せる気配が無いな。
「今度は何をやったんですか……」
「サボってた罰で隠してたのを殆ど持って行かれた奴が、サボってふて寝してやがったんだ」
「あぁ……」
いやもう本当に懲りないな、この人。
しかも今って私が中庭に居るから、ろくでもない実験が発生する可能性が有るのは判ってる事なのに。
自分で言うのもなんだけど。




