438:落ち着かせよう。
「待って待って待ってカトリーヌさん。私別に悪口言ってるとかじゃないから落ち着いて」
私の肩を掴んで真顔でグイグイ迫ってくるカトリーヌさんを宥めようと、弁解の言葉を口にする。
なんか謎の圧力が有って、めっちゃ怖い。
ていうか近いよカトリーヌさん。
近いって言うかなんか当たってるよちくしょーめ。
「私は、太っては、おりません。良いですわね?」
「はい……」
「よろしい」
人の話を聞かずに私の頭を両手で掴み、目を合わせたまま額を押し付けてぐりぐり押してくる。
別に太ってるとは言ってないのに、ごめんなさいするしかない勢いだ……
「……あ、っと、その…… すみません、白雪さん。つい熱くなってしまいました」
「いや、うん、なんか私が言っちゃったみたいだし、別に痛かったりしたわけじゃないから良いけどさ」
唐突に我に返って、普通に謝ってくるカトリーヌさん。
うん、びっくりしただけだし、まぁ問題は無い。
「あと珠ちゃんとぴーちゃんも落ち着いてね。別に私、怒ってないから」
カトリーヌさんが迫って来てたのを敵対行為と解釈したのか、珠ちゃんとぴーちゃんがすぐに飛びかかれる様な体勢になって待機してた。
大丈夫だからさっきみたいにほのぼのしてて良いよ。
やっちゃえって指示とか出さないし。
ていうか珠ちゃんが大ジャンプして突っ込んできたら、私まで死んじゃうと思うんだけど。
なんだろう、器用にカトリーヌさんだけに猫パンチを叩き込むつもりだったんだろうか。
「こう言っちゃなんだけど、カトリーヌさんでも言われると嫌な事ってあったんだなぁ」
「私、物を食べるとすぐに脂肪がついてしまう体質でして…… 体型を維持するだけでも必死なのです」
恥ずかしそうに答えるカトリーヌさん。
「他の罵倒でしたら嬉しいのですが、その手の話だけは譲れないのです。あ、でも豚と呼ばれるのは構いませんので、いくらでもどうぞ。さぁさぁ」
「いや呼ばないよ。なんで言わせようとしてんの…… っていうかそれは良いんだ」
なんか基準がよく判らないぞ、カトリーヌさん。
むしろこの人、解る事の方が少ない気もするけど。
「豚と言うと太っている相手への罵声に使われるイメージが有りますが、実は豚さんと言うのはそこまで太っているわけではありませんので」
「そういう問題なんだ…… ていうかそうなんだ」
「ええ。食用でわざわざ太らせたものでさえモデルの方々なみの体脂肪率の低さだそうですし、体型に関しても豚が特別にお腹が出ているというわけでもありません」
「あー、確かに。言われてみれば他の動物とそこまで変わんないか」
……なんか納得したけどそれで良いんだろうか。
「それに、私たちの世界で言う所の豚とは太っているかどうかではなく」
「あ、そう」
まぁカトリーヌさんが良いなら良いのか。
うん、別に知りたくないので遮っておこう。
うーん、いくら食べても変化が無い私が言えることは何もないな。
悩んでる相手にどう言っても、嫌味にしかならないだろうし。
……逆にこっちが欲しがってる脂肪の事で、重いだけですよとかデメリットを言われてもイラッとするだけなので、多分似たような気持になるだろうから。
いや、というか別に何か言ってほしがってるわけでも無かった。
聞いたのこっちだったわ。
「まぁそういう事は言わない様に気を付けるよ」
「こちらも過剰に反応しない様にしますので、意識して言ったのでなければ大丈夫ですわ」
うん、さっきのはちょっと過剰過ぎだったと思う。
私、てきとーに円盤とか言っただけだし。
「うん、それじゃ訓練を…… と思ったけど、先にやってて」
「何か有りましたか?」
「いや、MP使い過ぎでお腹空いちゃって。カトリーヌさんが戻ってくるまで花壇の草を食べてたんだけど、まだ半分くらい残ってるから」
「ああ、そういえば私に使った粉の消費が大きかったのでしたね。では、草だけでは足りないかもしれませんしこれもどうぞ」
「いや、いい…… って言ってもひっこめないだろうし、素直に貰っておこうか。ありがと」
カトリーヌさんが差し出してきたお弁当を受け取って、一旦鞄にしまっておく。
とりあえず一通り雑草の処理をして、足りない分だけ食べることにしよう。




