430:感覚を聞こう。
「ではお願いします」
「はーい。元に戻った時すこし浮いてると思うんで、着地に気を付けてくださいね」
お姉ちゃんの時に忘れてた注意点を告げ、はいという返事を聞いてから解除する。
おっと、今度はあっちを忘れてた。
「ライサさん、近くに居ると何があるか判らないんで、少し離れておいてください」
「はい」
「……お前忘れてただろ」
「ちゃんと言ったから良いんです」
いちいち指摘しなくても良いじゃない。
あ、実体化しはじめた。
「生き延びました……!」
「おう、お疲れさん」
ぐーっと背伸びをする様にバンザイして、無事元に戻れたことを喜ぶキャシーさん。
……うん、怪我とかしてないから無事だな。
「最後のは酷いですよ、ライサさん……」
キャシーさんが、じとーっとライサさんを見て文句を言う。
まぁあれ、完全にうっかりミスだし言いたくもなるよね。
「ごめんなさい。お昼と夕食を奢ってあげるから、許してくれない?」
「絶対ですからね!」
それで良いのか、キャシーさん。
まぁ本人が喜んでるならそれで良いか。
ここ数日は無給だったっぽいから、お金に困ってるのかもしれないし。
「ところで、石化は受けてる側からはどんな感じだったんだ?」
ジョージさん、それ聞いてどうすんの?
まぁ一応知っておく、というか記録しておくのかな。
「え? あー、なんて言いますか、指一本どころか視線すら動かせませんけど、それ以外は普通でしたね」
「ほー」
相槌を打つジョージさんと、無言でメモを取るライサさん。
【妖精】のスキルで起きる事だからそっちにも書いておくのか。
「前は見えるし耳も聞こえて、周囲の魔力も感じられるし頭がぼんやりするとかもなかったです」
「魔法の発動は試したのか?」
「周りに人が居ない時に一応やってはみましたけど、何も起きませんでした」
「ま、そうだろうとは思った。完全に受ける事しか出来なくなるんだな」
「なんか私もよく解りませんけど、頭の中で喋ったらその子たちには聞こえてたみたいですけどね」
うん、石にした本人でその子たちを喚んだ本人な私もよく解んない。
「いやー、それにしても、ある意味では快適だったかもしれません」
「あん?」
「だって、お腹は空かないし疲れる事も無いし、先輩たちが綺麗にお手入れまでしてくれるんですよ? ただ誰とも話せないから、周りに人とか居ないと暇なのが難点ですけど」
「いや、良いとこだけ見りゃそうだろうけどよ……」
若干困惑気味なジョージさん。
うん、まぁそうもなるよね。
罰を与えたはずなのに、なんだかんだで楽しんでるし。
「ふむ、では明日からロビーを飾る美術品に転属してやろうか?」
あ、二階の窓からアリア様がニヤニヤと悪い笑顔で覗いてる。
……いやあれ、自分は仕事で忙しいのに楽しそうでずるいぞって顔だな。
「……少し魅力的な提案です」
「いや、それ普通に考えたら一種の処刑だと思うんだが……」
何故か乗り気なキャシーさんに、引き気味にツッコむジョージさん。
ていうか言ったアリア様もちょっと引いてるし。
冗談で言ったのにって感じかね?
うん、私も正直無いと思う。




