411:はたき落そう。
太郎をぶら下げたまま、皆の顔の高さまで上昇するぴーちゃん。
落ちたら結構痛そうだけど、大丈夫なのかな?
いや、落とさないから上がって行ったんだろうけど。
「しかしこれ、どうやって掴んでるんだ?」
「あー、確かに。ハムちゃんの毛皮って結構ゆるゆるだよね」
近くに来たぴーちゃんを見て、アヤメさんが疑問を漏らした。
うん、お姉ちゃんの言う通り、首元を摘まんでぶら下げられるくらいには余ってたような気がする。
まぁそれやったら大抵嫌がってストレス貯めちゃうだろうから、やらない方が良いんだろうけど。
ぶら下げられてわたわたしてるのって見た目は可愛いけど、本人的には冗談じゃないって感じだろうし。
まぁそれは置いといて。
確かにぴーちゃんの鉤爪のサイズだと、いくらある程度指が長いって言ってもバスケットボールを掴んでる様な持ち方なんだよね。
あれだと普通毛皮がダブついて落ちるか、ずるっと滑って毛皮だけを摘まむ感じになると思う。
「太郎さんが痛がっている様子はありませんし、そこまで強く掴んではいない様ですが」
「爪も刺さってないしねぇ」
いや、ぶっ刺して持ち上げてたら流石の太郎も暴れるでしょ。
多分だけど。
「なんだろうな。掴みやすくする様な捕獲系のスキルでも持ってるのか?」
「ぴゃー」
アヤメさんの言葉にぴーちゃんが「そうだよー」って感じでお返事した。
「え、そんなの持ってたんだ」
召喚者なのに知らなかったよ。
ていうか召喚獣の子たちの事、詳しい事は殆ど知らないんだけど。
可愛いならそれで良い気がするし。
「不思議が一杯だねぇ」
「まぁ一番不思議な生き物が親玉やってるからな」
「うっさいやい」
お姉ちゃんの呟きに続けてアヤメさんがこっちに飛び火させてきたので、とりあえず文句を言っておく。
でも否定できないから全然強く言えないな。うん。
「それじゃ、そろそろ行くか?」
「だねー。何食べ…… ってシルクちゃん、どうしたの?」
アヤメさんの後頭部に引っ付いてじっとしていたシルクが、突然離れて家に向かっていった。
……ていうかいつの間に引っ付いてたんだ。
自然過ぎて完全にスルーしてたよ。
最上階のバルコニーに向かって飛んでいくシルク。
ん、あっちはカトリーヌさんの部屋かな?
ちょうどログインして来たんだろうか。
「お待ちくださいまし、皆様がたー!」
スパーンと窓を開けて飛び出してきた…… のはまぁ良いんだけどさ。
全裸にガウンだけで堂々と飛び出してくるのは、本気でどうかと思うんだ。
せめて前を合わせて隠しなさい。
あ、シルクにビンタされて吹っ飛んでいった。
本人の希望なんだろうけど、ツッコミに容赦が全く無いな。
「おいおい、あれ首折れたんじゃないか……?」
「いくらなんでもそこまでは…… って折れてたー!」
思いっきり引きながらのアヤメさんのコメントをお姉ちゃんが否定しようとした瞬間に、カトリーヌさんが光になって消えてしまった。
ログインから死に戻りまでが早すぎるだろ、あの人。
あ、今度はしっかり妖精の服を着てから出てきた。
というかほぼ裸の状態で死んだから、着た状態で復活したのかな?
細かい条件はよく解らないけど、エリちゃんも服を奪って殺したら初期装備で復活してたし。
「お騒がせしました。おはようございます」
「入ってくるなり何やってるのさ……」
「表に出ようと思いましたら服が見当たらなかったもので、シルク様がお持ちなのではないかと思いまして」
「いや、だからってアレは無いだろ」
うん、まぁ本当にシルクが持ってたとしても、もうちょっとやりようが有るだろう。
「ん、持ってなかったって?」
シルクがフルフルと首を振って、カトリーヌさんの部屋に入っていく。
あー、テーブルの下に箱が置いてあるな。
「あぁなるほど、そこに入っていたのですね」
「ていうかそっちが私より先に入ったら困るんだから、持って行きはしないんじゃないかな?」
「確かにそうですわね。次からは気を付けます」
「本当か……? まぁうん、とにかく出発しよう」
疑わしげに呟いてから、さくっと切り替えて話を進めるアヤメさん。
うん、まぁ疑わざるを得ないよね。




