410:運ばせてあげよう。
「ぴゃっ!」
「はいおはよう。良い子にしてたかな?」
「ぴっ」
ぱっと片腕を上げて挨拶してくるぴーちゃんに返事をしつつ、近づいて背中をぽんぽんする。
うむ、もふもふ。
なんか太郎がこっち見てる……
いや、これ私じゃなくてぴーちゃんを見てるんだな。
ぴーちゃんもあっち見てるし。
とりあえず撫でられてずるいぞとかじゃなさそうだけど、どうしたんだろう。
ラキみたいにぴーちゃんの顔に怖がってるってのでもないし、何か話し合ってるのかな?
「さて、こっちの準備はオッケーかな」
「それじゃ行こうか。ぴーちゃん、来て来てー」
お姉ちゃんが一緒に行こうよと、自分の肩を叩いてぴーちゃんを呼ぶ。
「ぴぅ」
「えぇっ!?」
あ、首振られた。
別にお姉ちゃんが何かやったわけでも無いだろうけど、どうしたのかな?
トトトっと小走りに珠ちゃんの方に走って行って、軽くジャンプしてモフッと背中に乗った。
あんまり勢いよく乗らない方がと思ったけど、着地した瞬間の感じを見るとちゃんと衝撃は無くしてあるっぽいな。
普段から自由に空を飛んでるから、その辺の制御はお手の物なんだろう。
出来なかったら枝にとまるたびに足首とか膝とかやっちゃいそうだし。
「ん、太郎と一緒に珠ちゃんに乗って行くの?」
「ぴー」
「あ、違うんだ」
「どうするんだ? ……っておいおい」
太郎の背中に向けて足を上げたと思ったら、少しジャンプして両方の鉤爪でわしっと掴んだ。
おお、持ち上がるんだ……
さっき見つめあってたのは、太郎が運んでーって言ってたのかな?
それにしても、その運び方は無いだろう。
あ、でも太郎はちょっと楽しんでるっぽい。
まぁ自分では飛べないし、落とさないって信用してればアトラクション気分だろうな。
「ぴーちゃん、それ太郎が狩られてる様にしか見えないんだけど」
「ぴー?」
一応ツッコんでみたら「だめー?」って首を傾げられた。
「いや、ダメでは無いけど……」
まぁうん、お互いに納得してやってるなら無理に止める理由も無いんだけどさ。
「屋台までとなると、ぴーちゃんさんが疲れるのでは?」
「ぴっぴー」
レティさんの問いかけに「余裕だよー」とお返事しつつ、片方の羽で自分の胸をぽふっと叩くぴーちゃん。
おー、羽ばたかなくてもその場に留まるくらいは出来るんだな。
「おー、すごいなー」
しゃがんだままぴーちゃん達に近付いて、そーっと指を伸ばすお姉ちゃん。
あ、太郎に後ろ足でげしげし蹴られてる。
流石に無防備なお腹をつっつかれるのはちょっと嫌なのかな?
蹴られたお姉ちゃんは軽く謝りながら手をひっこめて、大人しく離れて立ち上がった。
「ま、まぁお互いに納得してるなら良いのか……?」
「太郎は楽しんでるっぽいし、良いんだと思うよ」
「見た目はともかく、空を飛ぶのは楽しいでしょうね」
「安全だって信じ切れないと、落ちたらどうしようって感じで怖いけどね……」
あー、お姉ちゃんは縮んで体験したもんなぁ。
最初はカップに入ってても怖がってたくらいだし。
まぁお姉ちゃんの場合、落ちても大丈夫な体になってたんだけど。
いや、でもあんまり勢いよく叩きつけられたら、衝撃で体が限界を超えて地面に広がる可能性が有るのか。
そうなったら悲惨だし、確実に安全とは言い切れないな。
まぁそんな衝撃、相当な高さから落ちるか誰かが思いっきり地面に投げるかしない限り大丈夫だろうけど。
ていうか小さくなって軽くなってる分、普通に落ちてもある程度までしか加速しないかもしれないな。
詳しい事は解らないけど、空気抵抗とか風の影響とか有るはずだし。




