404:謝られよう。
「まぁ要するについ追いかけちゃっただけで、特に用事とかは無いと」
「はい。ごめんなさい……」
「うん、気を付けようね。でもあの子は怒ってないから、怯えなくて…… 必要以上に怯えなくて大丈夫だよー」
「は、はい……」
待ってお姉ちゃん、なんで今言い直したの。
……全く怯えないのは無理だからか。
「ほら、雪ちゃんにもちゃんと謝ろうね。後ろからで良いから」
「うぅ、はい……」
「大丈夫大丈夫。噛みついたりしないから」
「いや、そりゃそうでしょ……」
いったい人を何だと思ってるんだ。
あ、多分ビクビクしながらだけど、ゆっくり近づいてきたっぽい。
「先輩、すみませんでした……」
「ん、良いよ良いよ。なんでついて来てるのか判らなくて戸惑っただけだから」
背後から安心したような、ほふぅーって感じで息を吐く音が。
うんうん、大丈夫だからね。
あ、ベンチに戻って行った。
「はい、良く出来ました。怖かったと思うけど、よく頑張ったね」
「そういう事を本人に聞こえる所で言うかな……」
「あはは。でも雪ちゃんだって思ってるでしょ?」
「……まぁ否定は出来ない」
どういう言い方をしようと、人から見れば私が怖いってのは事実なんだし。
「あ、あの…… 一宮先輩って、良い人なんですね……」
「見かけによらずね」
「い、いえっ、そんなっ」
「あー、良いよ良いよ、そんな慌てなくて」
言わないでおいた事をお姉ちゃんにハッキリ言われて慌てる後輩ちゃんに、安心しろと声をかける。
もー、また泣きだしたらどうするんだよぅ。
「そうそう。見た目は土佐犬でも、中身は懐いたハスキーみたいなもんだから」
「いや土佐犬って。もうちょっとマシな例えは無かったの……?」
「えー? 雪ちゃんに比べれば可愛いもんじゃない」
「むぅ……」
まぁ、正直あんまり否定できない。
いや、放し飼いになってれば流石にあっちのが怖いと思うけどさ。
「ほら見てよあれ。今まで先輩なんて呼ばれた事なかったから、ちょっと浮かれてゆらゆらしてるんだよ」
「ほんとだ……」
「え、あ、いやその……」
……関係無いとは言えないかもしれない。
普段、先輩どころか苗字を呼ばれることさえ無いし。
うん、とりあえず止まっておこう。恥ずかしいし。
ていうかこれ以上揺らしてたら落ちそう。
「あんな感じで、害が無いって解った上で離れて眺める分には可愛いもんなんだよー」
「で、でもそれじゃ、何でずっとあんな評判なんでしょうか……?」
「んー、色々有るけど一番判りやすいのは…… 雪ちゃん、ちょっとこっち向いてー」
「……わざわざへこみたくないんだけど」
「ひぅっ」
振り向いた瞬間に息を飲まれた。
うん、そうなるよね。前向いとこ、前。
「ね? 大人しいって知ってたとしても、怖いものは怖いんだよ」
「うぅ、ごめんなさい……」
「良いよ、慣れてるから」
ちょっとへこみはするけど、いちいち気にしてたら生きていけないよ。
「まぁ、私は雪ちゃんの顔も可愛いと思ってるけどね!」
「はいはい、聞き飽きた聞き飽きた」
とりあえずお姉ちゃんのいつものはさらっと流しておく。
百歩譲ったとしても可愛げは無いよ。
「むぅ、冷たい。あ、それと人に言うのは止めておいた方が良いよ」
「えっと、それは……?」
「誰も信じないし、雪ちゃんに近付いてく人だと思われたら誰も関わってくれなくなるよ」
「うん。昔それで友達居なくなりかけた子が居たからねぇ……」
「えっ……」
自分のせいで人が孤立したりイジメられたりとか、下手したらトラウマものだよ。
まぁ私の関係者って事になったらイジメられはしないだろうけど。
仕返しに私が来るのを恐れるだろうし。
まぁそうなる前にこっちから離れろって止めておいたし、関わらなくなってしばらく経てば元通りになってたからセーフだったけど。
元気にしてると良いなぁ。
「っていうかね」
「はい?」
「そうなる前の言い始めた段階で、雪ちゃんの悪行が増えちゃうんだよね」
「私の元々の評判のせいで、脅して言わせてるって事になっちゃうからね」
「あ……」
うん、納得するのが早くて結構。
ちょっとへこむけど。




