401:つけられよう。
とりあえず、気にしてても仕方ないしとっとと帰るとしよう。
……えーと、なんか後ろからついてきてない?
この時間帯のこの道って基本的に誰も居ないから、人が歩く音も聞こえちゃうくらい静かだからなぁ。
せめて歩調を合わせるくらいはしないと、近くに誰かが居る事くらいはすぐに判るのだ。
まぁ私はデカい分歩幅も大きいから、同じリズムで歩いてたらどんどん離れちゃうだろうけど。
んー、流石に尾行されるのはなぁ。
いや、正直別に家を知られたとしても、困る事は何も無いんだけどさ。
うち、お化け屋敷みたいな扱いで有名だし。
とは言え、知らない相手にこっそりついてこられるのは気になる。
動機も目的も判らないから余計にね。
このタイミングだと【妖精】のせいだとは思うけど、そうと決まったわけでもないんだし。
いや、まぁこっそりって言えるほど隠れられて無いんだけど。
今も角を曲がりつつ横目で見てみると、電柱の陰から顔が見えたし。
……あ、目が合ってしまった。
「ひぅぃっ!? ごっ、ごごごごごめっ、ごめっ、ごめ」
仕方ないと立ち止まってそちらを向いてみると、女の子が引っ込んだ電柱の向こう側から泣きそうな声が聞こえてくる。
落ち着け。私は何もしてないぞ。
どうしよう。
こっちから近づいたら泣いて逃げられそうだしなぁ。
そーっと顔を覗かせてこちらの様子をうかがい、ヒッという声と共に引っ込んだ。
……うん、とりあえず怒らないからこっちにおいでと手招きしてみよう。
目が合うと怯えるだろうから斜めを向いて、顔を出すのを待つ。
あ、出てきた。
「うぁ……」
いや、これ出頭命令とかじゃないから。
そんな「私、ここで死ぬんだ……」みたいな顔にならなくても良いじゃないの。
というかもともと、寄って来たのは自分でしょうに。
逃げ腰のままじりじりと近づいて来る女の子。
ふー、なんとか普通に会話の出来そうな距離まで近づいてもらえ……
「いや待って待って待って」
たと思ったら、流れるように土下座に移行された。
勘弁してくれよう。
アスファルトの上で後輩の女の子に土下座させてる姿とか、割と本気の悪評が立つ絵面じゃないの。
「その、怒ってないから普通に立ってくれないかな……?」
土下座したままプルプル震える女の子に、静かに声をかける。
むぅ、反応が無い。
どうしたものかな……
これ下手したら、また通報されちゃうよ。
あ、そういえばこの近くって公園が有ったな。
でもとりあえず動いてもらわないと話にならない。
担いで運べなくは無いけど、それこそ通報されるだろうし。
ていうかめっちゃ叫ばれそう。
んー…… お、自販機がある。
土下座したままの子から離れて、適当に飲み物を二本購入。
うん、機械は怯えないから好きだよ。
……あっちの子は自販機の音にすらビクッてしちゃってるけど。
「はい」
頭の横に缶を置く。
「それ持って立って。ついてきて」
お願いしても聞いてくれなさそうなので、少し強めに言ってみる。
怖がってる子には少し悪いけど、私だって警察のお世話になるのは控えたいのだ。




