394:連れて帰ろう。
「んじゃ、落ちない様に気を付けてね」
「言われなくても怖いからしっかり掴まるよぅ」
まぁそれはそうだろうなぁ。
固定具とか何も無しで私が持ってるだけだし。
って危ない、ゆっくり動き始めないといけないのを忘れかけてた。
もし忘れてたらお姉ちゃんがどうこう以前に、私が腕を痛めそうだけど。
「うー、高いなぁ」
「そうは言っても、まだ二階か三階くらいでしょ」
「それはそうなんだけどさ。怖いものは怖いんだよ」
「まぁ私も慣れただけだし、飛べなくなってたら多分怖いかな」
「というわけで落とさないでね」
「いや、元から落とす気は無いけどさ」
いくら怪我しないとは言っても、高い所から落ちるのが怖いってのは解ってるし。
いや、案外慣れたら楽しむ人もいるかもしれないけどさ。
現実では体験できないっていうかやったら死ぬ行為だし。
「あれ、そういえば私の服が無い」
お姉ちゃんの言葉でテーブルを見てみると、確かに畳んで置いてあったものが消えてるな。
あんまり気にしてなかったけど、記憶を辿ってみると出てきた時にはもう無かった気がする。
「ほんとだ。あー、うちの倉庫の上に置いてあるのがそうじゃない?」
「ああ、あれかー」
辺りを見回してみると、家の下に置いてある箱に先程ジョージさんがコレットさんに渡していた様な箱が置いてあるのが見えた。
多分アリア様たちの服を回収する時に、ついでにやっておいてくれたんだろう。
「さて……って両手塞がってた。直接部屋に行っちゃおうか」
「私はどっちでも良いよー」
玄関に近付いてから気付くあたり、自分でもどうかと思う。
……とか考えてたら、中からドアが静かに開かれた。
私が近づいてくるのを察知して、待機しててくれたのかな?
「ありがとね」
「……あれ?」
シルクにお礼を言って横を通り過ぎると、すごく滑らかな動きでお姉ちゃんが攫われた。
お姉ちゃんは驚いてるというか戸惑ってるけど、私は「ですよねー」って感じだよ。
家の中で私に労働させることは、自分の手が空いてる限りシルク的に許せない事なんだろうし。
当然、私がやらせろって言えば別だけどさ。
「まぁ良いや。ぷにー」
「シルク、嫌だったら捨てて良いからね」
「ひどくない!?」
すぐに順応したお姉ちゃんがシルクのほっぺを指でつっつき始めたので、シルクに我慢しなくて良いと言ってみたら抗議されてしまった。
まぁほら、大丈夫だって解ってるから言ってるし。
……もし本当に外に捨てられたら、ちゃんとキャッチするよ、うん。
「大丈夫大丈夫。ほら、首振ってるし」
「むぅ。そういう問題かなー」
私からの扱いが悪い事にむくれるお姉ちゃんの前に、すっとほっぺを近づけるシルク。
「ほら、触って良いって言ってくれてるよ」
お姉ちゃんがそう言って、すかさず両手でぷにぷにし始める。
「っていうかそれ、これで機嫌直してって事じゃない?」
なんていうかサイズの差のせいもあって、お姉ちゃんがあやされてる様にしか見えない。
実際、シルクの表情はそんな感じだし。
「いやー、シルクちゃんは優しい良い子だなぁ」
「私を罵倒したり殴ろうとしたりしたら、その瞬間から鬼になるかもしれないけどね」
お客様は大切に扱うけど、それもあくまでも「ご主人様」のためだし。
「……流石に試そうとは思えないなぁ。カトリーヌさんがあんなことになってたし」
ああ、お風呂でグチャグチャにした時の事か。
「まぁあれは本人のお願いだから。多分窓から外に捨てられるくらいで済むんじゃない?」
「いや、それすっごい怖いし普通なら死ぬからね?」
うん、まぁそうなんだけどさ。




