392:上司に叱られよう。
よーしよーしと大きい動物を撫でるのと同じように、お姉さんの首をさすさすと撫でまわす。
あ、口が開いてふあぁーって声が漏れた。
おおう、声を出されるとけっこう喉が震えるな。
まぁそこを震わせて音出してるんだし、当たり前の事か。
……頼むから、よだれは垂らしてこないでね?
「さて、こんなもんで良いですか?」
首をぽぽんっと軽く二度叩き、ふわっと下がってお姉さんの視界に入る。
音で何となく察せてたけど、しっぽがめっちゃブンブン振られてるな……
上を見ていた顔を前に向け、こちらを見……
たと思ったら、こてんと横に転がって仰向けになるお姉さん。
いや私から見ればこてんじゃなく、ずどぉん……って効果音の方が似合う迫力だけどさ。
見下ろしてるならまだしも、地表に居たからやや見上げるくらいの視点だったし。
ていうか何してんだこの人。
「きゅーん」
「えー……」
仰向けのままのけ反って、逆さでこちらを見て鳴き声を上げるお姉さん。
だからそんなわんこみたいな声出されても、こっちは戸惑いの声しか返せないんだってば。
「えーと…… 服従のポーズ……? おなか見せてるし……」
流石のお姉ちゃんも戸惑いつつも、一応推測して呟いてる。
ほんとだ、ぺろっとおへその上まで服をめくってる。
……お腹冷えるよ? いや、そんな心配するような気温じゃないけど。
そんな期待に満ちた目で見られても困るんだけどなぁ。
どうしろって言うんだ。
いやうん、多分これ、お腹も撫でてって事なんだろうけどさ。
「んぎゅふっ」
「おわっ!?」
どこからともなく飛んできた布の袋が、お姉さんのむき出しのお腹にどすっと落ちた。
あの形と重量感からして、多分砂か何かが詰まってるんだろう。
……砂鉄じゃないよね?
「おら、調子に乗ってんじゃねぇぞアホ犬。いい加減に仕事しやがれ仕事を」
暗闇からジョージさんの声が響く。
うん、ごもっとも。
「えーと、大丈夫ですか?」
苦し気な声を上げていたので、一応安否を確認してみる。
まぁ着弾でうめいた後は特に苦しむ様子もなく、普通にお腹から袋を降ろしてるから無事だろうけどさ。
「はい、大丈夫ですよぉ」
「喋ったー!」
「いやいや、それ普通の事だからね」
まともな返事が返ってきたことに驚きの声を上げるお姉ちゃんに、一応ツッコんでおく。
なんだと思ってたんだ。
いやうん、わふっとか言われるんじゃないかとか、私も少しは思ったけど。
「ふふっ。ありがとうございました」
「あ、いえ」
きちんと座り直して、正座でぺこりと頭を下げて礼を言ってくるお姉さん。
最初に少し笑ったのは、そりゃ喋りますよーって事だろうか?
しかしまともに喋ると、見た目と同じで優しい感じのする綺麗な声だな。
こうして普通にしてると素敵なお姉さんって感じなのに……
「それでは失礼します」
「あ、はい。お仕事頑張ってください」
「ありがとうございます。ミヤコ様も、またいずれ」
「えっ、あ、はーい」
お姉ちゃんの返事を待ってから、フッと消えて立ち去る犬のお姉さん。
「雪ちゃん、今のって私にも撫でさせるぞって事かな……?」
「いや、うーん、どうだろ……」
正直、有り得なくはなさそう。
まぁお姉ちゃん、犬は好きだし良いんじゃないかな。
多分言ったら普通に返されるだろうから黙ってるけど。




