389:飴も上げよう。
「んー、出ないとこのまま寝ちゃいそうだー……」
ぼそっと呟いて、もぞもぞと綿ベッドから出てくるお姉ちゃん。
「私たちに構わず、寝てしまえば良いだろうに」
「そんな目で見られてたら、なんか恥ずかしいですよー」
うん、アリア様もお人形とか大好きだからなのか、すっごいほっこりした目で見てたしなぁ。
あれだけじっと見られてれば、気にもなるだろう。
「ふむ、それはすまんな。ところで下の階に少し用が有るのだが、一度閉めてから持ち上げて構わんかな?」
「あ、はーい。表に出ときますねー」
アリア様に返事をして、ぞろぞろと揃ってバルコニーへ出る。
下っていうと……お風呂かな?
「ゆっくり動かすが、一応気を付けていてくれ」
アリア様が忠告してくるけど、まぁ当然というか動かすのはコレットさんだよね。
どうでも良いけどさ。
私たちは飛べるから問題無いし、ラキは多分めちゃくちゃに動かされても普通に立ってられそう。
危なそうなのはお姉ちゃんくらいだけど、そっちもシルクが抱っこしてるから大丈夫だな。
「ていうかアリア様」
「む?」
お姉ちゃんが何か気付いた感じで声をかけた。
どうしたのかな?
「これさっきそのまま私が寝てたら、下手したら綿からぽよんって転げ落ちてたんじゃないですか?」
「……そういえばそうだな」
まぁ動くのは真上だし上に布も乗ってるから大丈夫だとは思うけど、確かに無いとは言えないな。
いや、まぁその時はコレットさんが見事な操作で何とかしそうな気もするけど。
「そういえば用って何なんです?」
「先程の茶の処理をな。……おお、これは凄いな」
ん?
あー、お風呂に籠ってた香りが蓋を開けた事で解放されたのか。
「ふむ…… これが私で…… これがコレットだな」
配置から確認してお風呂からカップを取り出し、顔に近付けて香りを確認してからコレットさんの持つお盆に置いていくアリア様。
「すまんが、少しカップを借りるぞ」
「あ、はい。それ、どうするんです?」
「うむ、流石にモニカが可哀想だと思ってな」
「あいつが可哀想なのは頭でしょうよ」
「……わざわざ、目の前に餌をぶら下げてしまったからな。よく耐えたと褒美くらいはやっても良かろう」
……ジョージさんのコメントは否定しないんだな。
まぁ確かに、必要以上に誘惑してしまった感じはするな。
ちゃんと言いつけ通りに近付かずに、耐えきれそうになくなったら自分から離れて行ってたし。
「で、それを上げるんですか?」
「うむ。少し冷めてしまっているが、まぁ問題無いだろう」
「では、私の物もどうぞ。皆様の様な素晴らしい香りは出ておりませんが、私も一応【妖精】ですので」
「ふむ、ありがとう。モニカもさぞ喜ぶであろう」
「引くぐらいにですな」
ジョージさんが姿を隠したままコメントを付け足していく。
うん、まぁ多分そうだろうけどさ。
「お姉ちゃんはどうする?」
「んー…… なんか恥ずかしいけど、モニカさん頑張ってたからなぁ…… うん、私のも良いですよ」
「うむ、助かる」
「そう言う雪ちゃんは?」
「私のはシルク達の分だから上げられないかな」
「ふむ、それは仕方ないな。モニカの奴も、シルクから取り上げることは望まんだろう」
まぁそうだろうなぁ。
モニカさん、うちの子たちも大好きだし。
「さて、それではやってくるとしよう。洗って返すように言って渡して、私たちはそのまま帰らせてもらうぞ」
「はーい。お疲れ様でしたー」
「今日は世話になったな。では、また会おう」
綺麗なお辞儀をして歩いていくコレットさんと笑顔でひらひら手を振ってついて行くアリア様に、皆でぺこりと頭を下げる。
「って待って待ってジョージさーん」
「あ? どうしたよ」
「ポチ、どこまでお散歩に行ってるんですか?」
「姫様、バレましたぜ」
「くぅっ」
「いやいや、こっそり連れて帰ろうとしないでくださいよ……」
まぁ流石に冗談だろうけどさ。
ていうか、私がログアウトしたら送還されるから、本当に連れて帰ったとしても無意味でしょうに。




