381:へし折られよう。
さて、それじゃお風呂に戻……
「あわーっ!?」
「何をやっておるのだ、まったく」
突然の悲鳴に振り向いてみると、ファイティングポーズを取って上半身を揺らしているラキと、親指と人差し指が逆方向にへし折れたお姉ちゃんの姿が。
アリア様が呆れて笑ってるけど、何が起きたというのか。
いや、まぁ大方お姉ちゃんが無造作にラキを摘み上げようとして怒られたって所だろうけどさ。
「ラキ、襲ってきたわけじゃないんだから、あんまりひどい事しちゃダメだよ?」
苦笑気味に諭すと一瞬「あいつが悪いんだもん」って顔になったけど、すぐに解ってくれたみたい。
うんうん、素直でよろしい。
「懲りぬ奴だな。自分とて上からの接近に怯えていただろうに」
「うぅ、そうでした…… ごめんね、これなら良いかな?」
私がひょいひょい動かしてるから、うっかり普通に行っちゃったんだろうな。
反省して今度は手の平にタオルをかけ、そーっとぴーちゃんの頭に近付けていく。
ラキに自分から乗ってもらおうってわけだな。
ぴょいっと手に飛び移り、腕を組んで「触らせてやるからありがたく思うのだー」と言わんばかりの態度を取るラキ。
お姉ちゃん、ほんとラキの中でかなり下位に格付けされてるな……
下手したら最下位すら有り得るぞ。
……まぁ良いか。
お姉ちゃんから扱いが悪いってクレームが実際に入ったら対応するとしよう。
何もされてないのにわざわざ襲いに行くようなら流石に叱らないといけないだろうけど、普段はせいぜい近づいてきたときに威嚇するくらいだし。
なんかお姉ちゃんの方も、これはこれでって楽しんでる感じが少し有るし。
現実で外に居る時のお姉ちゃんって、いたってまともで物静かなお姉さんって感じの人だし、こういう扱いをされることはまず無いだろうからなぁ。
いや、流石に現実でこんな扱いされてる人が居たら、普通は周りの人が黙ってないだろうけどさ。
どう考えても色々とアウトだし。
ていうかいくら新鮮でも普通は少しくらい怒りそうなものだけど、まぁ私が言うのもなんだけどお姉ちゃんも割と変な所があるからな。
……テンション高い時は変な所の方が目立つけど。
「むむっ。雪ちゃんが失礼な事考えてる気がする!」
むぅ、残念な人を見る目をしてたのがバレた。
「そんなことないよー」
「完全に棒読みだ…… まぁ良いか。私も普段からからかったりしてるし、お互い様だもんなぁ」
うん、雪ちゃんこわーいとか良く言われる。
でもそれ、大抵お姉ちゃんが何かやらかした時だからね?
今回は私が悪いから良いけどさ。
「あ、終ったの? それじゃ行こうか」
先にシャワーの所に行って待っていようと思ってたのに、話をしてるうちにシルクがカトリーヌさんを拭き終わってた。
別に先に行ったから何があるって訳でもないし、何も問題無いんだけどね。
ひょいっと私を抱っこして、戸を閉めてからシャワーへ向かうシルク。
お風呂場の熱気が結構脱衣場に逃げてて、少し気温が下がってるな。
まぁ濡れた体でも寒く感じるほどじゃないし、まだ温かいお茶が有るからすぐに空気も暖まるだろう。
いや、どうせこれから温水を浴びるんだし、どうでも良いっちゃ良いんだけど。
しゃわわーっとお湯で全身を洗い流されていく。
しかしさっきはてろてろにされた方に意識が向いてたけど、やっぱり洗うのも揉むのも少し上手になってるな。
コレットさんによる指導の効果だろうか?
受けたのはマッサージの指導だけだけど、応用が利くところも色々とあるだろうし。
まぁなんにせよシルクの腕前が上がるのは助かるので、素直に喜んでおこう。
うん、気持ち良いなら全部オッケーだ。
多分。




