375:一部を任せよう。
「雪ちゃん雪ちゃん」
「ん?」
ほけーっと温まってたらお姉ちゃんが声をかけてきた。
何かな?
「なんかカトリーヌさんに狙われてる気がするんだけど」
「あー」
「いえいえ、その様な事はありませんとも。ええ」
じーっと見つめてた状態から目を逸らし、笑顔でわざとらしく首を振るカトリーヌさん。
冗談でやってるからか、隠す気が全くないな。
「まぁお姉ちゃん、カトリーヌさんの好物の匂いを放ってるから仕方ないね」
「うぅ、自分ではどうしようもない要因……」
「ふふ。もちろん、本当に襲ったりなどいたしませんのでご安心を」
「それはそうだろうけど、なんだかなぁ」
うん、まぁそういう問題では無いよね。
「あ、そうですわ。シルク様ほど上手ではありませんが、私がマッサージをしてさしあげましょう」
「えぇ? カトリーヌさん、近くで嗅ぎたいだけじゃないの?」
大体察したお姉ちゃんが半笑いで言う。
「はい」
「素直だ!」
うん、ツッコミっていうか感想だな。
まぁ気持ちは解るけど。
「まぁやってくれるって言うならせっかくだしお願いするけど…… 揉むだけって言っておいて噛んだりしちゃやだよ?」
「ご心配なく。私、冗談は言ってもそういう嘘はつきませんわ」
……そうだっけ?
確かに嘘ですよーって判りやすい否定や、本当の事を言ってないだけってパターンだったかな。
ちゃんと覚えてはないけど。
「いえ、私は……」
おや、アリア様へのマッサージは終わったんだな。
シルクがコレットさんの所に行って遠慮されてる。
「コレット、そう言わずシルクの為と思ってやってもらっておけ」
「姫様がそう仰るのであれば…… では、よろしくお願いします」
うん、まぁお世話するために生きてる様な子だしね。
仕事が減っても喜んだりはせずに、逆に残念そうにするだろう。
……幽霊っぽい種族だけど生きてるって言えるのかな?
でも怪我もしてたし…… まぁどっちでも良いか。
もにもに揉まれるコレットさんを眺めつつのんびり。
「しかしカトリーヌ、それはシルクの仕事を奪っているのではないか?」
「止められませんでしたので許されていると思うのですが…… どうなのでしょう?」
いや、私に聞かれても…… と思ったけど召喚者なおかげで感情は何となく伝わってくるから、とりあえず怒ってないのは判るな。
「少なくとも怒ったりはしてないし、大丈夫だと思うけど」
「ふむ。自分一人が全てやろうとすると皆を待たせることになってしまうから、少しは妥協しようという所か?」
「あ、そうみたいですね」
アリア様の言葉にシルクが小さく頷いたのが見えた。
まぁ確かに着替えと違って一瞬で終る作業じゃないし、どうしても待ち時間は発生しちゃうよね。
「同僚として、シルク様の手の回らない所はお助けさせていただければ幸いですわ」
「いやいや同僚ではないからね? カトリーヌさん、ここの住人でシルクにお世話される側だからね?」
「むぅ」
とりあえず聞き逃さずにツッコんでおく。
全くこの人は、油断すると人の配下になろうとするんだから……
「ま、問題は無いという事だな」
「うーん、上手じゃないって言ってたけどかなり上手いと思うなぁ」
「あくまでシルク様に比べれば、ですので。スポーツ選手などに限らず、体を痛める事を日常にしていれば自然と慣れていくものですわ」
「いやうん、言いたいことは判るけど並べられた側は不本意だと思うよ……」
お姉ちゃんが呆れ顔でカトリーヌさんの発言にツッコむ。
うん、流石にスポーツ選手に謝れと言いたくなる。
……でも実際、新しい痛みを得るためにコンディションを保つ最大限の努力してそうなんだよな、この人。
よく知らないけど、やられる側がボロボロだとやる側が手加減しそうなもんだし。
こっちと違って現実だと、やりすぎたら取り返しがつかないもんな。
「とりあえず上手なら良かったじゃない」
「うん、まぁそうだねー」
はふー、と息を吐いてリラックスするお姉ちゃん。
しかしカトリーヌさん、本当に一部を除いて高性能な人だよなぁ。
その一部が酷すぎるせいで、あんまり凄い人に思えないのが問題なんだけど。
むしろそのおかげで完璧な人より親しみやすさが…… いや、無いな。
私にやるみたいに全力でやられたら、普通はドン引きで離れるわ。
というか周りの人、大抵どこかしら残念だけど不思議と基本性能がやたら高い気がする。
NPC組は言うまでもないけど、レティさんとかも大概だし。
いや、レティさんは残念ってほどの事は何も無いけどさ。
ちょっと妙なノリで動く事があるけど、それくらいだし。
お姉ちゃんもまぁ、落ち着いて普通にしてる時なら……?




