372:てかてかにされよう。
おっと、しょうもない事を考えてるうちにカトリーヌさんも洗い終わったみたいだ。
珍しく普通に連れてきて普通にお茶に入れ……たと思ったらそのまま頭まで沈めた。
うん、まぁ放っとこう。私にはしてこないから問題ない。
「それじゃ洗われてきます」
「うむ、しっかり見届けてやろう」
「いやいや、自分は見るなって言っておいてズルくないですか?」
シルクに抱き上げられながらアリア様に抗議する。
自分の時はジロジロ見るでないって言ってたじゃないの。
「むぅ、言われてみれば確かに不公平だな。ではジロジロと見るのは止めておこう」
「それチラチラとは見るってことですよね?」
「はっはっは」
「いや、はっはっはではなくですね」
くそう、取り繕いすらしないぞ、このお姫様。
「まぁちょっと見るくらいなら良いんじゃない? 減るものでも無いんだしさ」
「見られる側じゃないからって好きに言うんだからー。そりゃ確かに恥ずかしい以外に何か有るかって言われると無いんだけどさ」
問題はそこだと思うんだよ。
「あ、雪ちゃんは減る物が」
「小っちゃく縮めて踏み潰しちゃうよ?」
「ごめんなさい死ななくても怖いです」
人の胸を見てまたしてもケンカを売ってくるお姉ちゃんを、きっちり睨んで脅しておく。
まぁ大丈夫だって解ってても潰されるのは怖いよね。
ていうか私、大丈夫じゃないのに潰されたけどさ。
とは言っても、あれはわざとじゃないし気付いてすらいなかったみたいだから仕方ないか。
「うぅ、大きさの優位が無いと雪ちゃんが圧倒的に強い……」
「小さくて脆すぎる事以外は異常なくらい強力な種族だしね。同じサイズになったらそうなるでしょ」
魔法関係は言うまでもないけど、物理系のステータスも人間と同じ数値だし。
ていうかお友達になった時点で普通は詰んでるよね。
コレットさんみたいな例外は居るけど。
「ていうか何でそれを解っててからかってくるのさ」
「人には行かなきゃいけない時っていうのが有るんだよ」
「いや、今のはその時じゃないでしょ……」
退けないわけでもなければ何か得られるわけでもないだろうに。
「あ、ごめんシルク。行こうか」
私が文句を言っている間じっと待っていたシルクに声をかけ、連れて行ってもらう。
ま、見られるのはもう諦めよう。
ていうかよく考えたら、さっきから全裸で頭上に浮いたりしてて今更過ぎる。
とはいえ宣言されたらどうぞとは言いづらい、って事だな。うん。
さて、それじゃ大人しくこしこし擦られ……ってタオル取らないの?
シャワーで軽く流されて、すぐに擦られるのかと思ったらなんか持ち方を変えてきた。
どうするつもりだろう?
「うひー、ちょっとくすぐったい……」
少し高く掲げられて何をされるのかと思ったら、つま先から順にねっとりと上に嘗め回され始めた。
いや、これ舐めるって言うか唾液を塗り付けてるのか。
そういえばシルクのよだれって石鹸とか洗剤みたいな物に出来るって言ってたな。
うぅ、下からどんどんコーティングされていく。
なんだろ、綺麗にするためも有るんだろうけど、さっきシルクが他の事してる間にラキとぴーちゃんを構ってあげてたから、自分ももっと甘えたいんだろうか。
くすぐったくはあるけど、なんかシルクが幸せっぽくなってるからまぁ良いか。
……何思いっきり普通にこっち見てんのアリア様。
あ、視線に気づいて申し訳程度に目を逸らした。
せめてこっそり見るくらいにしてくれませんかね?
ふおお、脇腹は流石にくすぐったいぞ……
足は触られまくってるから、いい加減慣れてきたけどこっちはまだまだきっつい。
別に慣れたいわけではないけどさ。
うん、塗ったり伸ばしたりで首から下がてっかてかにされてしまったぞ。
……あー、うん。
やっぱり上もだよね。
首からほっぺたを通って頭まで、れろーって舐められた。
諦めて目と口を閉じて、大人しくしていよう……
ん、終わったかな……ひぁっ!?
頭にとろーっと何かが垂らされた……
いや、何かって言うかほぼ確実にシルクのよだれだろうけどさ。
確かに表面を舐めただけじゃ髪には不十分かもしれないか……
でもいきなり垂らすのはビックリするから勘弁してほしいよ。
あ、指でわしゃわしゃと馴染ませ始めた。
……にしても、洗浄剤だって解っててもよだれまみれにされて気にしなくなってるあたり、私も大分このゲームに毒されてるな。
いや私の状況がおかしいだけで、他の人にとっては普通のファンタジー系VRゲームなんだろうけどさ。
お姉ちゃん達も昼間は普通に外で冒険してるし、一度見た買取施設ではみんないろんな毛皮やお肉を狩ってきてたしね。
……ていうか、皆レア種族みたいな扱いばっかりだったら速攻で人が居なくなってるか。




