371:人の種族を知ろう。
「ぴゃっ!?」
「おーい、お風呂入ったまま寝ちゃ危ないよー」
「……ぴぅ」
うとうとし始めたぴーちゃんを、頭にぽふっと手を置いて起こしてあげる。
他に人が居るから寝ちゃっても溺れはしないだろうけど、胸元のラキが巻き添えになるのはかわいそうだしね。
ていうかすっぽりはまってるけど、あれ自力で出られるんだろうか。
まぁ手はふかふかの上に乗せてるし、ラキの腕力なら問題無いか。
どうでも良いけどぴーちゃん、寝てる時はすぴゃーって言うんだろうか?
……本当にどうでも良いな、うん。
「むっ」
「どうしました?」
何やら思いついた様な声を上げたアリア様に問いかける。
この状況で思いつく事って、私にとってロクでもない事が多いんだけど何だろうか。
「ふと思ったのだが、手の平サイズに縮めてもらえば広々と泳げるのではなかろうか」
「お風呂で泳ぐのはどうかと思いますよ?」
「むぅ、それは確かにその通りだ」
良い事を思いついたという風に言うアリア様に、常識的なツッコミを返しておく。
まぁそりゃ一人ずつ別々のカップだから、人に迷惑は掛からないけどさ。
ていうかどうでも良いけど、今がその手の平サイズだよね。
いや、言いたいことは判るけどね?
「でも確かに小っちゃくなれるなら、広い場所が無くても好きに泳げるねぇ」
「いや、それは確かにそうなんだけどさ。今この町だけでもまだまだ土地空いてるし、そもそも目の前に海有るじゃん」
「それはそうだけどさ。人間サイズで用意しようと思ったら、土地代とか工事とか水の用意とか掃除や管理とかって、色々と大変だからね」
まぁ確かに、実際に作ろうと思ったら問題は多いだろうなぁ。
「というか、海で遊ぶのはお勧めしないぞ?」
「あー、魔物とか出て危ないからですか?」
「うむ。船の上に居る限りはそれなりに安全だが、素潜りでの漁は命がけだと聞く」
「……でもやってる人は居るんですね」
「屋台で魚を食べていただろう? そこの店主もその一人だぞ」
「あー、あの人ですか。……あれ? でも売ってる魚って刺した傷とか無かったと思うんですけど」
素潜りで魚を獲ろうと思ったら、銛とかで刺さないと厳しいんじゃない?
漁師特有のスキルか何かが有るのかもしれないけどさ。
「奴は特殊だからな。泳いで魚に追いついて手掴みで捕獲しているから、傷も無く鮮度の良い魚を集められるのだ」
「……いやいやいや、本当に人間ですかそれ」
なんでこう人類辞めてますみたいなNPCがゴロゴロいるんだよ、この町。
しかもジョージさんやコレットさんみたいな主要っぽいNPCならともかく、その辺の人に。
いや、私たちが知らないだけで、実は何か重要な人なのかもしれないけどさ。
「うむ。まぁ種族としては【人間】と【竜人】のハーフではあるがな」
ほほー。
ちょっと背の高い【人間】にしか見えなかったな。
というか【竜人】の人はまだ見たことが無いから、見た目に違いが有るのか知らないけど。
水中でもブレスって使えるのかな?
「あ、そういえばライカさんって牛の人っぽいですけど、すごく大きいですよね」
「うむ。奴は【獣人(牛)】と【鬼人】のハーフだからな」
お姉ちゃんの突然の問いかけにアリア様が答える。
あー、確かに鬼でも混ざってないとあの大きさにはならないか。
「双方の種族の良い所だけを引き継いだ稀有な例でな。鬼と牛の膂力を持ちながら多少は魔法も扱えるという、かなり特殊な個体だぞ」
……えー。
鬼の魔法ペナルティが消えちゃってるって強すぎない?
まぁプレイヤーじゃないんだから、バランスを気にする必要も無いけどさ。
そもそもそれでもコレットさんの方が強いって方が気になるんだけど。
なんなのこのメイドさん。
ていうか何でそんな人が大工やってるんだ。
いや、まぁ強いから戦わなきゃいけないって事はないけどさ。
部下に魔法を使わない魔人とかも居るし。
……ていうか牛に鬼って、なんか妖怪にそんな名前の奴が居た気がする。
いや、全く関係はないだろうけどね。
はっ、牛の良い所って……




