368:仕掛けてもらおう。
「にしても、そんな状態になって大丈夫なんですか?」
「む? ああ、護衛として、か?」
「問題が有ったらやらせてないってのは解ってますけど、一応」
「うむ、問題無いぞ。心配性だな、白雪は」
ふふっと笑うアリア様。
私が心配性っていうか、アリア様が大らかすぎるだけなんじゃないかなぁ?
まぁそれだけコレットさんを信頼してるって事なんだろうけど。
「ふーむ。ではコレット」
私の表情を見て納得が行っていないと思ったのか、アリア様が口を開く。
げ、これ嫌な流れじゃない?
「試しに少しだけ見せてやると良い」
「かしこまりました」
やっぱりだよ……
何されるんだろう。
「では白雪様、これから仕掛けますので防いでみていただけますか?」
「え、ちょっ」
「痛みも危険もございませんので、どうかご安心を」
「それならまぁ…… どうぞ」
攻撃されるんじゃなきゃ、まぁ良いけどさ。
ていうかコレットさん、カップの中で膝を抱えて綺麗な姿勢で座ったままだけど、どう仕掛けてくるつもりなんだろう。
そのまま少し待ってみたけど、コレットさんは微動だにしない。
こっちが何か動いたら来るのかな?
「白雪様」
「はい」
「お気づきになられていない様ですが、既に取らせて頂きましたよ」
「……へ?」
「首に違和感はございませんか?」
「首? ……え、うわ、いつの間に……」
言われて首に手を触れてみると、喉の左右というか頸動脈の上に一筋ずつ、お茶で線が引かれていた。
触られた感触さえなかったんだけど……
ていうかずっとコレットさん見てたけど、声かけられるまで水面は揺らぎすらしなかったぞ?
ジョージさんがドア開けた時みたいに感知できない様にされてるのか、そもそも揺らさない様に動けるのか。
いや、どっちでも良いな。どっちにしろ感知できない事に変わりないし。
「というわけで、どうだ?」
「あー、まぁ戻ろうと思えばいつでも戻れるって事は良く解りました」
コレットさんって素手でも物を切ったりしてたし、その気が有ったらさっきみたいな感じで触られて、首から血をまき散らして死んでるだろう。
いや、もしかしたら首から上が床に転がるのかもしれないけど。
「うむ、だから心配するでない」
「と言いますか【妖精】の方がその気で魔法をお使いになった場合、この状態でなくとも耐えられない事には変わり無いかと」
「あ、そうか」
当たれば死ぬのは元々だったよ。
うん、当たりさえすればだけどね。
「それともう一つ」
「はい?」
え、まだ何かされるの?
「白雪、試しに形だけで良いから私を攻撃しようとしてみろ」
「なんかやる前から大体察せるんですけど」
「はは、まぁ体験した方が良く解るだろう? 好きなタイミングで、黙って仕掛けて良いぞ」
アリア様が笑って「ほれ来い」と指で手招きする。
むぅ、そう言われたらやってみるしかないか。
「ふぃっ!?」
いくぞーと意識して体を動かそうとした瞬間、脇腹を指でぷにっとつつかれた感触が。
ビクッてして変な声が出ちゃったよ……
コレットさんの方を見ると、先程と同じ姿勢のままで座って微笑んでる。
むぅ、やっぱり出入りした形跡がない……
水面は静かなままだし、カップの周りにお茶も落ちてないし。
でもさっきの感触、一瞬だけど確かに指だったと思うんだよなぁ。
多分わざとだろうけど、マスカットの香りのお茶も付いてるし。
試しにもう一回、コレットさんの方を見ながら……
「ひぁっ」
またしても体を動かそうとした瞬間に、今度はお尻をぷにっとつつかれた。
うぅ、やっぱり動いてる様に見えない……
ていうかコレットさん、こっそり面白がってない?
「はっはっは。どうだ、仕掛ける事すら出来んだろう?」
「むぅ、仕掛けようと思って動いた時だけきっちり止めてくるんですね……」
私の反応も含めて、面白そうに見ていたアリア様が得意気に言う。
無意識にアリア様の方を向いたり、普通に近寄る分には何もされないもんなぁ。
……近寄りながらもう一回試してみたら、右足をむにゅって揉まれた。
「えーと…… コレットさんも触ります?」
「はい、是非」
試しに足を指さして聞いてみたら、真顔で頷かれてしまった。
むぅ、実は触りたかったのか……




