365:揉まれまくろう。
「……ん? 待てよ?」
今しがた謝ったばかりのお姉ちゃんが、何やら呟いて笑顔になった。
んー、嫌な予感しかしないんだけど……
「じゃ、触りまーす!」
「おわー!?」
ばっと顔を上げて隣に居る私の顔を見つつ宣言し、私の右足を掴んでグイッと持ち上げ向かい合うかたちにして、顔の前でむにむにむにむにと揉み始めるお姉ちゃん。
「なんでだーっ!」
「えー? だって今のって、言ってからなら良いって事になるでしょ?」
あー、いやまぁ、確かにそうとも解釈出来なくはないけどさ。
くそぅ、脚を振ろうとしても動きを読まれて上手にいなされる……
なんでそんな無駄な技術を……って小っちゃい頃から暇な時には絡んで来てたし、動きの癖でも読まれてるんだろうか。
くそう、こうなったら仕方ない。
怪我はしない体だし、ちょっとだけ……
「へへーん、今はっ、いたくっ、ないっ、もんねー」
「くそー、そうだったよ……」
空いてる左足でぼすぼすと顔や肩を蹴ってみるも、痛覚がほぼ無いから全く効いてない。
おのれ謎仕様め。
「てか雪ちゃん、もっとぐにーってやってやってー」
「いや何を言い出すの……」
「あー、一応言っとくけどカトリーヌさん的なのじゃないよ? ほら、抱っこされたにゃんこがやめろーって感じに肉球でグイグイ押してくると、可愛いし気持ち良いじゃない?」
「言いたいことはなんとなく判ったけどさ。私にゃんこ抱っこしたことない……」
「あ、ごめん」
うぅ、いいもん。私にはゲームの中とはいえ珠ちゃんが居るのだ。
……ていうかそれ嫌がられてない? 大丈夫?
まぁ引っ掻かれて帰ってきたことは無いし、大丈夫なんだろうけどさ。
あんまりストレス与えない様にね?
「あ、やばっ」
「ん? ……あー」
お姉ちゃんがいきなり慌てて足を離すからどうしたのかと思ったら、コレットさんの頭の上からラキがお姉ちゃんに向けて威嚇してた。
あんまり調子に乗るなよーって事かな?
「よく考えたら、あんまり雪ちゃんに変な事してると怒る子が一杯いたんだった」
「まぁうん。ていうかその内の一体にこの後洗われるんだよね」
「あわわ、手荒くされちゃうかな」
「いやー、一応お客様って扱いだろうし大丈夫じゃない?」
「そう願うよ。うん、もうちょっと自重しよう」
「まぁそれが良いだろうね」
まぁ別に、私が抵抗せずに構わないよってスタンスでいれば、シルク達も怒らないだろうけどね。
絶対に嫌ってわけじゃないけど、揉まれたいわけでもないのだ。
「そういえば、さっきマッサージされてた時も思ったんだけどさ」
「ん?」
「ラキちゃんって、普段は小っちゃすぎて見えないけどかなりの美人さんなんだねぇ」
あぁ、そういえば目の前で踊ってたな。
もって言うのは、同じくらいのサイズになった時の方がよく見えたからかね?
「あー、うん。大抵わはーって笑顔で口開けて走り回ってるから、綺麗って言うより可愛いって雰囲気になりがちだけどね」
「私は睨まれてる事の方が多いけどね……」
「あー。まぁ何で怒ってたかは理解できたんだし、ちょっとずつ仲直りしていこう」
「みんなみたいに懐いてとまで言わないから、せめて威嚇されない程度には頑張ろう」
「ていうか本当はもう怒ってないけど、お姉ちゃんがうろたえるのが面白くて遊ばれてるって可能性もあるよね」
「むぅ」
お姉ちゃんが何もしてないのに威嚇したりする割には、同じ大きさになってもぽよんぽよんして遊んでただけだったし。
本気で嫌われてたら、あの時一発くらい叩かれてたかもだよ。
「ふぅ。思っていた洗われ方とは違っていたが、上手なものだな」
おや、アリア様がシルクに抱かれて戻って来た。
流石に冷ましてないお茶はシルクには熱いからか、アリア様の持ち方を変えてそーっと足から浸けていく。
「あ、お疲れ様です。お湯の温度、大丈夫ですか?」
「うむ、問題無いぞ」
アリア様を降ろしたシルクがシャワーの方に戻っていく。
あ、次はコレットさんなのね。
まぁ向こうはぴーちゃんも洗い終わってるし、順番としては当然そうなるか。
「やっぱり雪ちゃんには熱いんだよね?」
「冷ましてないからねぇ。いくら少し経ってるっていっても、まだまだ熱いよ」
「ふむ。水遊びの様にかけたりすれば、洒落ではすまんわけだな」
「勘弁してくださいよ……?」
「はは、冗談だ。やるわけがなかろうて」
うん、アリア様なら大丈夫だろうけどさ。
お姉ちゃんだとうっかりやりかねないからなぁ。
「のぼせる心配も無さそうだし、これならのんびり出来るな」
カップのふちに腕を乗せて寄りかかり、気持ちよさそうに目を閉じるアリア様。
……ん?
「なんか良い匂いがし始めたんですけど……」
「む? 私からか?」
「ブドウっぽいし、多分そうだと思います」
「ふむ」
私の返事を聞いて、アリア様がふちに乗せていた手をこちらに差し出してきた。
嗅いでみろって事かな。
「どうだ?」
「うーん、うっすらとだけですね」
「ふむ。それではこれで……どうかな?」
出していた手を引っ込めてお茶にちゃぷっと浸け、少し待ってから再度差し出してきた。
「おお……」
「やはりか。潰れた時だけでなく、熱されても匂いを放つようだな」
「お香じゃないんですから…… あ、でもそういえばお姉ちゃんが火を触ってた時も少し強くなってたかな?」
「そうなの?」
「そうなの。直前にナイフでへこませてたから、そっちだけだと思ってたけどね」
うーん、本当によく解らない体だな……




