361:お風呂を淹れよう。
「で、どしたのー?」
おっと、エリちゃんに用が有って出てきたんだった。
「あ、そうそう。人数分…… アリア様とコレットさんにお姉ちゃん、それと私とカトリーヌさんで五人分のお風呂を淹れてくれってアリア様から」
「はいさー。多めに沸かしてあるから、四杯でも五杯でも大丈夫だよー」
あぁ、そういえば三杯分くらいとか言ってたっけ。
「ま、もし足りなくても私が足せるしね。それじゃ、よろしく」
「うぃー。ユッキーのカップ取らないとだから、開けちゃうねー」
そう言って、なぜか「がおー」と言いながら三階部分を持ち上げるエリちゃん。
普通に開けなさい普通に。
「おー…… 皆に合ったサイズの家をのぞき込んでると、自分がでっかくなった気分だなー」
「こら、あまり乗り出して来るでない。実害が無いのは解っていても、まだ少し怖いのだ」
「あ、ごめんねー」
開いた隙間に顔を突っ込んで覗き込むエリちゃんに、アリア様からの苦情が飛ぶ。
実害が無いって言うのはエリちゃんに害意が無いのと、有ったとしてもコレットさんが居るからかな?
「カップを取ってー、お茶っ葉も取ってー、っと」
エリちゃんは素直に顔を引っ込めて、鼻歌交じりに準備を進める。
ん、カップが七個?
六個目はエリちゃんのだろうけど、もう一個はどうするんだろう。
「ジョージさんも飲みますー?」
エリちゃんがお茶の缶を開けながら、視線を上げずに問いかける。
ああなるほど、ジョージさんの分か。
「ん、良いのか?」
「あ、はい。どうぞどうぞ」
消えていたジョージさんがスーッと現れて、こちらを見て聞いてきた。
好きにして良いって言ってるとはいえ、一応私のお茶だからかな?
あー、エリちゃんが顔上げなかったのって、どうせどこに居るか判らないからか。
「そんじゃ頼むわ。そこに置いてくれりゃ良いぞ」
テーブルを指さしてそう言い残し、フッと消えるジョージさん。
多分知らないうちに中身だけが無くなってるんだろうなぁ……
「はーい。さーて、だばだばーっとねー」
返事をしたエリちゃんは机に置いてあった木箱を開け、中からやかんを取り出して言葉とは裏腹に丁寧にお湯を注ぐ。
なんで箱に……って保温のためか。
むき出しで置いてあるよりはマシなのかな。
「そいやー、そいやー」
お茶を注ぐのに掛け声は要らなくない?
まぁ別に良いけどさ。
「あ、すぐ入るならちょっと冷ました方が良いかな?」
「私のはカップの機能で冷ませるしこっちで調整出来るから良いけど、皆のはどうかな?」
そのままだと流石に熱いんじゃないかな。
「そのままで問題なかろう。どうせある程度までしか熱は感じないのだろう?」
「そうですね。火に触っても暖かいだけでしたし、熱湯も問題ないと思います」
あ、そういえばそうだった。
私とカトリーヌさんはともかく、お友達になるとその辺は気にしなくて良いんだな。
「ではそのまま配置してくれて良いぞ」
「私の分もそのままで問題は」
「あるから冷ましとくねー」
カトリーヌさんの言葉を遮って、弱めの【凍結吐息】で一杯だけぬるくしておく。
家の方から「ご無体な」とか聞こえるけど放っておこう。
こうしておけば、こっそり熱い方に入ろうとしてもシルクかぴーちゃん辺りが阻止してくれるだろうし。
ていうか、先にダメってちゃんと言っておけば自重してくれるか。
「流石に五つも置くとちょっと狭いねー」
「あ、その上はシャワーだからこっちにお願い」
お風呂場からエリちゃんに指示を飛ばす。
いくら元が広いとはいっても、確かに狭く感じるな。
「ほーい、ってこれには淹れなくて良いの?」
あ、そういえば置いてある枡を忘れてた。
このままじゃぴーちゃんやラキの分が無いな。
「どうしよっか」
まぁ最悪私やカトリーヌさんの後って手も有るけどね。
ていうかぴーちゃんはともかく、ラキくらいなら手に乗せてあげれば良いし。
「そうだ、私の分を移そう。この後でもう一杯淹れれば良いだけだしねー」
「お、ありがと」
小走りでテーブルとの間を往復し、そーっとカップの中身を枡に移すエリちゃん。
移す事で少し冷めたけど、もうちょっとだけ冷ましておくか。




