360:仕上げよう。
アリア様の方はサクサク進んでるな。
カトリーヌさんに指示したり道具を【魔力武具】で生成してもらう以外は、ほとんど手を止めずに木をすいすいと切っては横に積み上げていってる。
設計図も手順も全部頭に入ってるんだろうか。
しかしよく考えたら今、一つの棒に延々と巻いていってるけど、布を作る時の事を考えたら一本の長い糸だけじゃダメなんだよね。
まぁ横糸はある程度長くないとだし、必要なら切って移せば良いんだからこのままで良いか。
ていうか今更だけどこれ、ラキが糸出せば良かったんじゃないの?
いや別にやる事も無いし、私の糸の方がラキは喜んでくれそうだから良いんだけどさ。
出しておけば別の何かにも使えるだろうしね。
お、お姉ちゃんの方は終わったかな?
バスタオルをかぶせた上からシルクがぽふぽふ押さえて、肌に塗られたバターを軽く取り除いてる。
よだれはコレットさんが綺麗に拭いてくれてるな。
あ、気付いて謝ってる……けど、何故か逆にお礼を言われてる。
あー、コレットさんやシルクの立場からしてみれば、そこまでの状態になるって言うのは褒められてる様なもんなのね。
相当気持ち良くなきゃああはならないんだし。
シルクがコレットさんにありがとうございましたとお辞儀して、下げた頭をよくできましたと両手で撫でまわされてる。
まぁ下げた時か抱っこされてる時じゃないと頭に手が届かないし、撫でるチャンスではあるのか。
シルクがお姉ちゃんにかぶせていたタオルを横に置いて、改めて一回り大きいタオルをかぶせてそれで包みながら抱き上げた。
「わわ、シルクちゃん、私裸のままなんだけど……」
「ふき取ったとはいえ、まだ油で結構ぬるっとしてるでしょ? そのままお風呂で洗われるんだと思うよ」
くるくると糸を出しながら、お姉ちゃんの声に応える。
「ああ、確かに……ってそれもやってもらわなきゃダメかな……?」
「んー、お世話されるのが抵抗有るなら、ちゃんと嫌だって言えば大丈夫だよ。指導は今ので終わりだろうし」
流石のシルクも、嫌って言ってる相手に無理矢理やりはしないだろう。
ていうか無理矢理やろうとしたら、私が叱らないといけないよね。
「うーん…… でもせっかくやってくれるなら、ちょっと恥ずかしいけどお願いしようかな。現実だとそんな機会なんて無いしね」
「ああ、まぁそりゃそうだねぇ」
うちは何の変哲もない一般家庭だし。
いや、そもそもお金持ってても海外の王族じゃあるまいし、普通は無いか。
その海外の王族のイメージも映画とか漫画とかからだけど。
……ついでに言うと、自分の倍くらいある巨大な女の子にお人形みたいに洗われるなんて、現実じゃ有り得ないしね。
「む、終わったか。こちらもすぐ終わるから、すまんが少しだけ待ってくれ」
「あ、はい」
いや、もう終わるとか早すぎますから。
いつの間に切り終わって組み立てに入ってたんだ。
「っと、白雪」
「はい?」
「エリシャに人数分の風呂を淹れてくれるよう、頼んで来てもらえるか?」
やっぱり皆でお風呂か。まぁそうだよね。
「解りました。ぴーちゃん、一旦離れ…… いや、まぁ良いか」
両脚を封じられてても飛ぶのに支障は無いし、そのままでも良いだろう。
糸を指から切り離し、空いている棚に置いて部屋から出る。
玄関に向かいながら、手を後ろに回してぴーちゃんの頭をもふもふ。
見た感じ普通の髪なんだけど、なんか柔らかくて気持ち良いんだよね。
……でもこれはたから見たら、人の顔を自分のお尻に押し付けてるみたいだな。
まぁ誰も見てないし良いか。
ていうか人のお尻に顔を埋めたまま「むー?」って声を出さないでほしい。
振動でくすぐったいから。
いや、まぁ「なにー?」って疑問の声だろうし、私が原因だから文句言えないけどさ。
答える代わりに追加でなでなでしておこう。
「エリちゃーんってあれ? ポチは?」
一緒に遊んでるだろうと気にしてなかったけど、ポチだけが居なくなってる。
別に逃げ出したわけじゃないだろうけど、どこ行ったんだろ?
「あ、ポチちゃんならジョージさんの部下の人が夜のおさんぽに連れてってあげてるよー」
「ここの外周を回ってるだけだから、すぐ呼び戻せるから安心してくれ」
「あーいえ、今日は連れまわしてあげられなかったのでそれは助かります」
やっぱわんこだし、お散歩したいよね。
ていうかやっぱり感知できないだけで、ジョージさん以外にも囲んでる隠密さんが居るんだな。




