359:動いてもらおう。
「お待たせしました。このくらいで良いでしょうか?」
「ああ、十分だ。ありがとう」
そうこうしてたらカトリーヌさんがたくさんの端材を抱えて戻って来た。
わざわざ手で持ってこなくても、ボックスに入れておけば良いのに。
「あ、作業台にこれをどうぞ」
ボックスからめーちゃんの指の一部を取り出して、アリア様の近くに設置する。
木材加工するなら机が有った方がやりやすいだろうしね。
「うむ、助かる。これはめーちゃんの指かな?」
「はい。小指の付け根のあたりですね」
「小指でこれか。流石に巨大だな」
「普通の人の三倍はありますからねぇ」
「うむ。さて、それでは作るとするか。カトリーヌ、手伝いを頼む」
「はい、喜んで」
要るのかなと思ったけど、材料を固定する道具とかも無い状態だし手は有った方が良いか。
カトリーヌさんなら必要な道具も作ってあげられるしね。
「それじゃ、私は糸でも出してますね。この棒もらいますよ」
「うむ。良く動く子だから、強度は高めの方が良いだろうな」
「そうですね。それじゃぴーちゃん、悪いけど後ろに回ってもらえるかな?」
「ぴ」
流石に作業がしづらいので、正面から脚まで使って私の胴体にしがみ付いていたぴーちゃんに、背中に移動してくれるように頼む。
研究所の時みたいにすりすりしてきては匂いを嗅がれ続けてて、動きが有るからちょっと前で腕が動かしづらいし。
ていうか鎖骨にごりごりと額をこすりつけてくるのはなんなんだ。
ぴーちゃんが前から離れてくれたので、左手で棒の端を持ち直して右手の人差し指から出した糸の先端を中央に貼り付ける。
棒をくるくる回す仕掛けとか有れば楽なんだけど、無いから自分の指の方を動かすとしよう。
……ぴーちゃん、後ろに回れとは言ったけどさ。
人のお尻に顔を埋めるのはどうかと思うんだ。
もそもそ動かれるとちょっとくすぐったいよ。
でも好きにしていいって言ったのは私だし、引っぺがすのもなぁ。
全身を寄ってたかって嘗め回すのを許しておいて今更って感じもするし。
うん、気にしないでおこう。
ぴーちゃんが幸せならそれで良いや。
む、しまった。
細く強くを意識し過ぎたのかな?
少し緩んでいたのでキュッと引いて締めたら、芯棒がスパッと切断されてしまった。
いくら柔らかい木とはいえ、綺麗に切れたなぁ。
とりあえず少しばらけた糸をまき直して落ちた木を拾い、切断面に粘着糸を付けておいて元に戻す。
これ使いようによってはかなり危ない武器になるな……
あ、でもちょっとしか出してないのに結構MP減ってるし、無意識に強化し過ぎてたらしい。
人間サイズで使えるほどの量を出すのは、少しつらいかな?
お弁当を用意すれば良いだけだし、不可能ではないけど。
まぁそれは良いとして、流石にあそこまでは必要ないだろうし、もう少し強度を控えめにしよう。
根元だけ変に強いのも気になるし、一旦全部吸い取って再挑戦だ。
……ぴーちゃんが深呼吸してるのか、なんかスースーする。
マッサージや木工を眺めながら、黙々と糸を巻き続ける。
って、なんかラキが大人しくしてるのに耐えられなくなったのか、唐突にその場で踊り始めた。
シルクにお仕置きされないって事は、移動したりケンカ売ったりしなきゃセーフなのかな?
……その目の前のお姉ちゃんは、マッサージでとろけすぎて口の端からよだれが垂れてる。
よく見たらいつの間にかあごの下にハンカチが敷かれてるな。
向こうはもうちょっとで終わりっぽいし、こっちも頑張って糸を一杯にするとしよう。




