354:偉い人たちを舐めよう。
とりあえずこの部屋のチェックは気が済んだのか、アリア様がシルクの元へ戻っていく。
「む? コレット、何をしているのだ?」
アリア様の疑問の声で視線を動かすと、コレットさんが自分の指を本来の向きとは逆に曲げていた。
いや本当に何やってるんだ。耐久チェックか?
「少し気になる事が有りまして。ミヤコさん、少しよろしいですか?」
「え? あ、はい」
問いかけに答えながら、シルクから降りてお姉ちゃんに近づいていくコレットさん。
どうしたのかな。
「失礼します」
「ひぃっ!?」
……なんか唐突にお姉ちゃんの指がへし折られた。
と思ったら、次の瞬間にはぐにっと元に戻して顔を近づけてる。
気になる事って匂いかな?
「うぅ、痛くないしすぐ治るけど一応言ってほしかった……」
「申し訳ございません。お詫びは後ほどさせて頂きますのでご容赦を」
治っていく指を撫でながらぼやくお姉ちゃん。
まぁそりゃいきなり攻撃されたりすれば、文句の一つも言いたくなるわな。
「気になる事とやらはどうだったのだ?」
「匂いを感じられないのは本人だけではなく、『お友達』の特性の一つの様です」
あー、縮む前は残り香みたいなのが感じ取れてたけど、それが無くなって気になってたのかな?
「ふむ。……確かに何も匂わんな。白雪、どうだ?」
「えーと…… あぁ、ここからでも少し判りますね」
意識してみると、確かにお姉ちゃんの方からイチゴの匂いがする。
シルクも頷いてるし、確かだろう。
「うぅ、なんかくさいって言われてる気分だよぅ」
「大丈夫、美味しそうな良い匂いだから」
「それはそれでなんだかなぁ……」
「ふむ。白雪、ミヤコはイチゴだったか?」
「あ、はい」
唐突に確認を取られて、反射的に頷く。
なんだろ、嗅ぎたかったのかな?
さっきも離れてて判らなかったみたいだし。
「では私はどうだ?」
続けて問いかけながら自分の人差し指を掴んで、逆の方向に曲げ始めるアリア様。
「ちょっ!? もー、ダメですよ、お姫様がそんな事しちゃ……」
かなり色々と今更な事を言いながら、【妖精吐息】を吹いて治療しておく。
びっくりするから、唐突にそういう事するのは勘弁してほしい。
「おお、これは確かに癖になるのも頷けるな……」
「だからって他の指も曲げたりしないでくださいね?」
治っていく指を見て呟くアリア様に、一応釘を刺しておく。
まぁ突飛な事をするお姫様だけど嫌がれば普通に引いてくれるみたいだし、言わなくてもわざわざ人に手間をかけさせる様な事を繰り返す人じゃないと思うけどね。
「うむ。で、どうだ?」
こちらにビッと指を突き付けてくるアリア様。
なんか指名されてるみたいだな。
「えーと…… ブドウ、ですかね」
「ふむ。ブドウは好きだから、自分で判らんのは少し残念だな」
アリア様が指を引っ込め嗅いでみて、言葉通りの残念そうな声で言う。
指先に舌を付けて首を傾げ、ふむと呟いてる。
味もしなかったらしいな。
「シルク、こちらを向いてみろ」
シルクが呼ばれて顔を向けた瞬間、シルクの唇の間に指をずぶっと根元まで挿しこむアリア様。
あ、ふにゃって笑顔になった。美味しかったのか。
「ふむ。やはり自分では判らないだけで、きちんと味も出ている様だな」
「では白雪様、私はどうでしょうか」
うおぉぅ、いつの間に隣に……
って言うか前も思ったけど、そんなに自分の味って気になるもんなの?
まぁ良いんだけどさ。
「んーと…… ブドウ、と言うかマスカットですかね」
いや、マスカットもブドウの一種だけどさ。
「ふむ、大まかに言えばお揃いだな」
「恐れ入ります。では、せっかくですのでどうぞ」
「いや、そんなスッと出されても……」
コレットさんが当然の様にこちらに差し出してきた指に遠慮していると、私に乗っていたラキがぴょーんとジャンプしてコレットさんの手に乗った。
あ、ぴーちゃんも寄って来た。
それじゃ私たちが頂きますって事だろうか。
手の上から指をちろちろ舐めるラキと指先をしゃぶるぴーちゃんを、よしよしと空いた手で撫でまわすコレットさん。
うん、やっぱり顔に出さないだけで、コレットさん結構この状況楽しんでるよね。




