353:部屋に入れよう。
「しかしこうして見ると、雪ちゃん家ほんとでっかいねぇ」
玄関の前まで来て、お姉ちゃんが家の外観を見渡して呟いた。
「うむ、頑張ったからな」
得意気に胸を張るアリア様。
あんまりのけぞるとシルクの腕から落ちますよ?
お互いにそんなヘマはしないだろうけどさ。
「アリア様、頑張りすぎなんですよぅ……」
「元のサイズであれば、作業が細かいだけで労力はさほどではないからな。言う程ではないぞ」
「いや、細かさもなんですけどね」
そりゃ確かに外壁とかも普通に手で持てる程度だろうけどさ。
それでも普通はそう簡単に作れる物じゃないでしょうに。
「まぁとりあえずいらっしゃいませ、かな」
開いておいたドアをくぐり、シルク達に入ってくるように促す。
「お邪魔しまーす。わー…… ってそういえば、階段が無いんだけど?」
ぴーちゃんの背中から降りてホールに立ち、きょろきょろするお姉ちゃん。
「いや、だって私達飛べるし。階段有っても使わないもん」
「あ、そっか」
「階段は細かい上にスペースを食うからな。取り払えるのは作る側としても作業量と自由度、双方の面から見て助かる」
「あー、そういう見方もあるのか」
確かに通常サイズで見ても階段って地味に色々と大変そうだよね。
強度とか角度とか一段の段差とか、角の滑り止めとか手すりとか。
あ、角度は段差次第だからセットか。
「では…… というかシルク、降ろしてくれないのか?」
家に入って私がドアを閉めても、そのまま腕に乗せられているアリア様とコレットさん。
「あー、多分移動は全部運ばれると思いますよ。私も普段そうされてますし」
「ふむ。まぁ無理に歩きたいというわけでは無いから構わんが」
「シルク様、私はあくまでただの従者ですので……」
コレットさんの申し出に目を閉じて「だめですー」と首を振るシルク。
メイドさんだろうと何だろうと、ここでは「お客様」だからお世話しますって事かな?
ていうかコレットさんを「ただの」って言うのは無理が有ると思う。
「コレット、害が無い限りはしたい様にさせてやろうではないか」
「はい、姫様がそう仰るのであれば」
……コレットさん、仕方ないって感じで言ってるけどシルクの抱っこ、結構気に入ってない?
さっきもアリア様と一緒にぷにぷにしまくってたし。
表情も声も常に平静を保ってるから、感情は読み取りづらいけどさ。
「じゃ、どこ見ますか?」
「ふむ…… とりあえず、そこの部屋に入ってみてくれるか」
「はーい」
ホールに面した一室を指されたので、ドアを開けに向かう。
「私が開けようか?」
「いや、別に良いって言うかお姉ちゃんも一応お客様じゃないの」
開けながら背後についてきていたお姉ちゃんにツッコんでおく。
今は大人しく案内されてなさい。
「むぅ、一応とか言われた……」
「いや現実だと一緒に住んでるから、お客様って感じがあんまりしないし」
「あー、それもそっか」
「まぁそういうわけで、私がやるからのんびりついて来れば良いと思うよ」
「はーい」
返事をしつつ、何故か私の肩をぐにぐに揉んでから部屋に入っていくお姉ちゃん。
別に構わないけど何がしたいのだ。
「ふーむ」
「何か気になる点でもありましたか?」
何も置いてない部屋に入ってきてシルクから降り、壁などを見て回るアリア様に声をかけてみる。
「うむ。流石にこのサイズで見ると、粗と言うか納得のいかない所が見えてくる」
むぅ。綺麗だと思うんだけど、十倍の大きさでこれを作っちゃう人から見ればそうなるのか。
「本音を言えばすべて回って手直しをして行きたいところだが……」
「いやいや十分満足してますっていうか、私からじゃどこがおかしいか判らないくらいですから」
「うーん、私も判んないかな……」
首を傾げるお姉ちゃん。
レティさんなら【細工】やってたし判ったりするんだろうか。
「本腰を入れるとなると時間もかかるし、そうとなれば白雪も承知してくれんだろうから諦めるか」
「そうしてください」
うん、ただでさえ貰い過ぎだって言ってるのに、これ以上こっちの借りを増やそうとしないでほしい。




