349:下ろしてあげよう。
「さて、それじゃ解除する?」
「きゃーころされるーって冗談は置いといて、戻すのはちょっと待って」
「うん、普通に解除できるからね。で、どうしたの?」
さくっと流すならわざわざ言わなくてよろしい。
「んーとね、お願いがあるんだけど……」
「ん? 言いづらい事?」
変な事言われると反応に困るよ?
まぁお姉ちゃんだからカトリーヌさんやエリちゃんみたいな心配は無いけどさ。
「あ、そうでもないんだけどね。この大きさならポチちゃんに抱き着くどころか乗っかったり出来るなーって思ってさ」
「あー、呼べって事ね。うん、良いよ」
うん、でっかいもふもふは良いよね。
気持ちはよく解る。
「ふむ、ポチというとあの小型犬かな?」
「あ、はい」
あれ、アリア様ってポチに会ってたっけ?
あ、そういえば蜜買いに来た時に商品棚の横でお座りしてたっけか。
呼ぶのは良いんだけどテーブルの上に呼ぶのは良くないだろうし、とりあえず下に降りて芝生の上でポチを召喚。
「うぅ、いくら死なないとはいえ流石にここから飛び降りる勇気は無い……」
お姉ちゃんがテーブルの端から顔を出して呟いてる。
いや、叩きつけられてあんまり広がっちゃうと死ぬと思うよ?
下は芝生だし、その高さならそこまで酷い事にはならないだろうけどさ。
……ポチの上に落ちるのは止めたげてね?
「手に乗せて運んでやろうか?」
「う、まだ普通の人に触られるのはちょっと怖いです」
アリア様の提案を申し訳なさそうに断るお姉ちゃん。
うん、慣れないうちは仕方ないよね。
「ひぃっ!? こ、こらーっ!」
なんかお姉ちゃんがちょっとだけ前に出たと思ったら慌てて引っ込んで、テーブルの上を走る音が聞こえてきた。
……ラキあたりに押されたかな?
「うぅ、追いつけない……」
うん、まぁそうだろうね。
テーブルの上に戻って状況を確認してみると、お姉ちゃんがラキを追いかけるのを諦めたところだった。
あんまりお姉ちゃんいじめちゃダメだよ?
「よしよし、大人しい子だな」
おや、アリア様が抜け駆けしてポチを撫でまわしてるな。
お姉ちゃんがそれをテーブルの端から悔し気に眺めて抗議する。
「あ、ズルいですようアリア様ー」
「ふっふっふ。悔しければ下りて来る事だな」
うん、まぁ運んでくれるって言うのを断ったのはお姉ちゃんだしな。
さっさと連れて行ってあげよう。
「それじゃシルク、お姉ちゃんを」
「ぴぅ」
おや、シルクにお願いしようと思ったらぴーちゃんが手を挙げて鳴いた。
自分が運ぶって事かな?
「あ、それじゃぴーちゃんにお願いしようかな」
「わーい、ありがとー。えっと、普通におぶされば良いのかな?」
ぴぃと返事をしてしゃがみこんだぴーちゃんに、お姉ちゃんが後ろからしがみ付く。
大丈夫だろうけど、一応言っておいた方が良いかな?
「ぴーちゃん、私の時よりゆっくりね? お姉ちゃんには【浮遊】の補助が無いからね」
「ぴっ」
「で、お姉ちゃんは全力でしがみ付いて良いよ。多分本気で首絞めてもぴーちゃんには効かないから、安心していいよ」
「あ、そうなんだね。それじゃぴーちゃん、お願いします」
お姉ちゃんがぎゅーっとしがみ付いて、ぴーちゃんがそれを確認してフワッと浮かび上がる。
うん、なんかじれったく見えるけど普段が速過ぎるだけで、あれでも走るよりはよっぽど速いんだよね。
「おっと、一旦手をひっこめた方が良さそうだな」
下りてきたお姉ちゃんを怖がらせない様に、アリア様がポチを撫でる手を引いた。
「お邪魔してすみません」
「いや、ミヤコが触りたいと呼んでもらったのだからな」
まぁ確かにね。
せっかくだから可愛がってただけだし。
「わーい、ポチちゃんもふもふー!」
着地したぴーちゃんにお礼を言って降り、伏せたポチのお腹に突撃していくお姉ちゃん。
……ポチが勢いに若干引いてる気がする。
「ふむ、気持ちよさそうだな……」
それを見たアリア様が何か呟いてる。
おっと、嫌な予感がするぞ?
「白雪、私とコレットも縮めてくれないか?」
……うん、やっぱりね。
そんな気軽にやる事じゃないと思うんだけど。
……ああ、もし私が変な事考えたらジョージさん辺りに殺させれば良いだけなのか。




