337:こっちにも教えよう。
とりあえず操作の対象が人形だけじゃないって事は判ったのでエリちゃんから糸を外し、指からも切り離してちゅるっと食べておく。
「やー、変な感じだけどあれはあれでなんか楽しいかも」
立ち上がってお尻をぱんぱん払いながら感想を言うエリちゃん。
まぁ同意の上でなら遊びって事で楽しめるかもしれない。
「でも抵抗できないほどの効果で縛られたら流石に大変じゃない?」
「ぜひ」
「はいはいモニカさんは座ってような」
ガタッと立ち上がろうとして、アヤメさんに肩を押さえられるモニカさん。
別にアヤメさんが全力で押さえたとしても全く障害にならないだろうけど、抵抗せずに大人しく座り直したな。
……そういえばさっきも実験体に名乗り出てこなかったな。
アヤメさんに牽制されてたんだろうか。
まぁあんまり好き放題やって庭師をクビにならない為ってのも有るだろうけどね。
すぐそこにアリア様が居るし、コレットさんも居るから即座にバレるだろうし。
「あ、そうだ白雪」
「ん?」
「変なタイミングで聞くけど、【純魔法】の訓練ってどうやるんだ?」
確かに妙なタイミングだな。
まぁ単に今思い出したってだけだろうけど。
「あー、魔力関係のスキル取ったんだっけ?」
「そうそう。で、せっかくだから便利そうだし覚えておきたいと思ってな」
「んー、エリちゃんにも似たような事言ったけど、獣人の適性じゃやっぱり自力は厳しいんじゃない?」
「いや、そもそもスキルポイント使って取ろうにもスキルリストに出てないからさ。手の空いた時に練習して経験値を稼いでいけば、その内リストに出るくらいはするかもしれないだろ?」
「あぁ、なるほど」
今の所魔力関係は気付いたらサクッと取れてるし、取れてない【細工】とかも元々選べるものだからその可能性を考えてなかった。
まぁ出なかったらただの暇潰しにしかならないんだけど。
「まぁ【妖精】での覚え方は参考にならないから、ソニアちゃんにも多分行けるだろうって方法しか言えなかったんだけど」
「それでも良いさ。どうせMPの使い道は無いんだしね」
「んじゃ、とりあえず魔力を体の外に出して、小さくても良いからボールを作ってみよう」
ぴんと人差し指を立てて、その上に十センチほどの魔力球を生み出す。
「いきなりそれか。あぁ、まぁ魔力を動かせるのが前提ならそうなるか」
「むーん…… えーと、こんな感じ?」
「あれ、お姉ちゃんもやるの?」
お姉ちゃんの声に振り向いてみれば、近づけた両手の人差し指の間に小っちゃい魔力球を生成してた。
流石に普段から魔法使ってるだけあって、ある程度魔力の扱いには慣れてるんだな。
まぁ小っちゃいって言っても相対的にだから、私のと同じくらいの大きさなんだけどね。
「ただ聞いてるのもなんだし、覚えられるなら覚えたいじゃない?」
「あー、まぁね」
要するに暇潰しか。
……エリちゃん、君はまず魔力を操る所からでしょうが。
欲しいならせめて【魔力感知】と【魔力操作】くらいはポイント使って取った方が良いと思うよ。
あ、でもあれだけ何回も魔力流されてるんだし、感じ取るだけならその内出来るかもしれないな……
「お、でき…… あー、結構難しいもんだな」
アヤメさん、むむむっと集中して作り出したは良いけど、出来たって言おうとして気を抜いた瞬間に消えちゃった。
「まぁアヤメちゃん、さっき使い始めたばっかりだしね」
「むぅ、覚えるとか言う前にもっと慣れるところからだな」
「だね。……雪ちゃん、これどうしよう」
……そういえばここだと投げ捨てる場所がないな。
「あー…… 落としたら芝がえぐれそうだし、とりあえずそこの妖精にぶつけとけば良いんじゃないかな? 別に私でも良いけど」
受け取って食べちゃっても良いんだけど、どうせなら投げつけて攻撃って事にした方が経験値貰える気がするし。
気がするだけだから実際はどうなのか判らないけど、まぁそのまま消されるより経験値が減るって事は無いだろう。
「さ、どうぞ」
ノリノリでお姉ちゃんの指先に顔を近づけていくカトリーヌさん。
うん、やっぱり私の出る幕は無かった。
「うーん、まぁあっちでも魔法ぶつけてるし今更遠慮するのも変だよね」
お姉ちゃんがそう言いながら指に挟んだ魔力球をバスケットボールのパスの様に押し出して発射し、カトリーヌさんがそれを顔面で受け止める。
「外なら適当にその辺の地面に投げれば良いんじゃないかな」
「まぁ白雪のアレと違って大事にはならないだろうしな」
アレ? ……あー、めってやった時のか。
練習であんなことになるって、それもう人類じゃないと思うよ。
サイズだけなら頑張れば同じ規模の魔力爆発を起こせるかもしれないけど、普通の魔力の濃さじゃあんな綺麗に削れるか怪しいし。
いや、別に綺麗に削る必要は全くないけどね?
「ま、出せるように頑張るか。続き……って言っても増えたスキルはそれくらいか?」
「だね。それじゃ……」
「あ、雪ちゃん待って待って。【妖精魔法】は?」
「あ、そっか。んーっと」
いったん閉じたスキルパネルを開き直し、【妖精魔法】の詳細を開く。
……えーと、ちょっと待って?
【神隠し】って何?
「雪ちゃん……」
「えー……」
「いや待って、これ私のせいじゃないから」
悪いの開発だから。わたしわるくない。
「ええと、とりあえず詳細を見てみてはいかがでしょう? ほら、初期の魔法の様に名前と違って効果はありふれたものかもしれませんし」
「やー、無いでしょー」
カトリーヌさんのフォローを即座に打ち消していくエリちゃん。
おのれー。




