335:報告されよう。
「あー、まぁとりあえずやることは一通りやったな」
「んーと、まぁうん、一緒にやる様なことはもう終わったかな?」
「っていうか今のって、別に私たち居なくても良かったよね……?」
「まぁそれもそうだな。お茶も飲んだし器もモニカさんが洗ってくれてるし」
そこまで言って、アヤメさんが何か思いついた様な顔をする。
あれはお姉ちゃんで遊ぶ時の顔だな。うん。
「ま、でもお前は可愛い妹を放っておいて一人で帰りはしないよなぁ?」
いや、別に帰っても良いんだけど。
家に一緒に入ってこれるわけでもないし。
ていうか昨日もご飯の準備のために先にログアウトしてたし。
「雪ちゃんは可愛いけどね!?」
いつもとちょっと違うな。
「ていうかお外で放っておくならともかく、ここ雪ちゃんのおうちじゃないの」
「まぁそうだな」
アヤメさんはからかいたかっただけだから、お姉ちゃんの反論をサラッと流してる。
そもそも普段から別行動じゃないか。
あぁ、お外って町の外かな?
連れて行かれて置いて帰られたら、確かに困るかもしれない。
いや、困ったなーって思った時には既に噴水広場に戻ってるかもしれないけどさ。
「むぅ、アヤメちゃんはアレに襲われた事が無いから解らないんだよ」
「ん、スライムに食われたことなら別ので結構有るぞ?」
結構有るのか。
まぁスライムにも色々種類が有るし、強いスライムも居るだろうな。
「スライムとは違うんだよう。スライムみたいだけどスライムじゃない、得体のしれないスライムっぽい何かだよ」
「それもうスライムで良くないか?」
「違うのー! むぅ、こうなったら次の機会にアヤメちゃんを襲ってもらおうかな……」
「やめんか」
本気で嫌そうだな。
まぁ今日も散々な目に遭ってるし、そうでなくても当たり前かもしれないけど。
ん、工事現場から大工さん達が出てきた。
今日の仕事は終わりかな?
「やーれやれ。お、白雪ちゃん。丁度良い」
ライカさんが私を見て話しかけてきた。
どうしたんだろ。
とりあえず呼ばれたし、近づいて挨拶しとくか。
「お疲れ様ですー」
「あらかた終わったよ。後は仕上げをするだけだから、明日の朝には完成だね」
早っ!?
なんで地下三階まで掘る様な工事が一日で終わるんだ……
いや、上もだけどさ。
「どうも、ありがとうございますー……ってそうだ。おねーちゃん、通訳お願いできる?」
お礼を言っても聞こえないのを思い出して、座ったままだったお姉ちゃんを呼ぶ。
「あ、うん。えーと、雪ちゃんが『ありがとうございます』って言ってます」
「いやぁ、こっちはちゃんとお代を貰ってるんだからね。礼はいいって」
確かにお金は払ってるけど、それはそれ、これはこれだよね。
ていうか普通一日で建たないし。
……いや、こっちだと普通なのかもしれないけどさ。
「で、休憩するのにその辺の空いたとこ使わせてもらって良いかな?」
「あ、もちろん大丈夫ですよー」
ていうか朝も使ってたんだし、今更断らなくても。
あー、まぁ居るなら一応言うか。
おや、魔人のお姉さんが近づいてくるぞ。
あ、アヤメさんが立ち上がった。
「そんな逃げないでくださいよー」
「いや、だってさぁ……」
まぁ朝っぱらからあんなのにつき合わされちゃ、苦手にもなるか……
みんな面白がって、誰も止めないし。
いや、私もだけどさ。
「朝はついはしゃいじゃって、すみませんでした」
「え、あ、あー、うん」
突然素直に謝られて戸惑うアヤメさん。
一応迷惑をかけたって思ってるんだな。
「次からはちゃんと確認してからやります」
「いや、私にはやらなくて良いよ……」
……あー、「無理矢理付き合わせた事」を謝ってるだけなのね。
まぁ本人的には素晴らしい物なんだろうし、自分が見るのも多分好きなんだろうなぁ。
「私は良いから、今度そっちの狐にでもやってあげてよ」
「いやいやいや!? 私も良いから! 朝のだけで十分です! はい!」
唐突に振られて必死に断るお姉ちゃん。
いや、そこまで必死にならなくても良いでしょ。
本人がちゃんと同意を得てからって言ってるんだからさ。
「そうですか? 残念です」
ちぇーって顔で、同僚が休憩の準備をしているところに合流する魔人さん。
うん、大人しくしててください。
色物は十分に足りてますから。




