333:溶かして食べよう。
めーちゃんの足下から離れようとして、ふとHPも無駄に余ってるなーと思い出し、何回か【施肥】をかけておく。
【妖精】の栄養を食らえー。
「おや白雪さん、何を?」
「ついでに【施肥】もやっといた。HP満タンである必要はないしね」
「ありがとねー。周りの子たちの分まで吸っちゃわなくて済むから、助かるよー」
あぁ、たまにやってあげないと他の所より土の養分が薄くなっちゃうのか。
どうせ何かあれば即死なんだし、今まで以上にちょいちょいやっていくとしようかな。
「では私も。どうですか、めーちゃんさん」
あ、カトリーヌさんも使えるようになって……ってそりゃそうか。
【施肥】ってかなり最初の方の魔法だったわ。
「んー、おいしー。白雪ちゃんとはちょっと味が違うねー」
「あら、そうなのですか?」
ほー、やっぱ同じ【妖精】でも色々あるんだなぁ。
まぁ人族の魔力もそうなんだし、当然か。
「んー。どっちも好きー」
「そう言って頂けると嬉しいですわねぇ」
「喜んでもらえるのは気分が良いよね」
「ええ。おっと、エリちゃんさんをあまりお待たせしてもいけませんわね」
「んだね。それじゃあっち行こっか」
「ありがとねー」
うおぅ、めーちゃんの足の近くから根っこが飛び出してきた。
あ、左右に揺れてる。手を振る代わりかな?
まぁあれなら普通に手を振るより、かなり節約できるだろうな。
ゆらゆらしてる根っこに手を振って離れ、エリちゃんの所に戻る。
うん、初期装備の服だけになって鞄も横に置いてあるな。
「はーい、お待たせー」
「こっちはいつでもオッケーだぜーい」
「それじゃ……ってそうだ」
「おや、どうかなさいましたか?」
私の言葉に首を傾げて問いかけてくるカトリーヌさん。
「いや、そういえばカトリーヌさんって万全の状態の人ってまだ食べてないよね?」
「はい。人を頂いたのは、まだ昨夜の二件のみですわね」
「後の方は要らないって言われちゃったけどねー」
エリちゃんが横を見ながらボソッとつぶやいてきた。
うん、確かにちょっと啜って捨てちゃったけどさ。
「いやー、だってマズかったし……」
「流石にアレは……」
「まーそうなると思っててやってもらったんだから、良いんだけどねー」
あっはっはと笑うエリちゃん。
うん、気になるから食えってグイグイ来てたしね。
「んで話を元に戻すけど、私が最初に食べた時って美味しすぎて暴走しかけちゃったから、カトリーヌさんも気を付けてね?」
「はい。おかしくなっているようでしたら、遠慮のない打撃で正気に戻して頂ければ」
「一応言っとくけど私も危ないかもしれないからね。シルクたちも、私たちが妙なそぶりを見せたら殴り倒してでも止めてね?」
躊躇いつつもわかりましたと頷くシルクとぴーちゃん。
シルク、暴走した私なんて絶対に近寄りたくないだろうなぁ。
……ラキはセットの支柱に駆け上って、カトリーヌさんに向けて思いっきり素振りしてるな。
まぁあっちには元々遠慮してないし大丈夫だろう。
「さて、それじゃ改めて。えーと、カトリーヌさんやる?」
「いえ、既に【血肉魔法】は取得できていますので大丈夫ですわ」
「んじゃ私が流そっか。エリちゃん、下向いてー」
「うぃー。よーし、今日も頑張るぞー」
何を……あぁそうか、動こうと頑張ってたんだったな。
忘れてそのまま食べるところだったよ。
布の上で両足を抱えて座ったエリちゃんのうなじに手を当て、ゆっくりと魔力を流し込んで溶かしていく。
今日は相手の手足の末端まで巡ってくる様にイメージしてみよう。
「オほぉー、やァっパきんモち良ィー」
また微妙な声を出してきたな。
あ、指先がもう混ざり始めてる。
やっぱ細くなってるところは形が崩れやすいのかな。
「あハー、負けナいゾーぅ?」
だんだん胴体もゆるくなってきたので、崩れるのについて行くために少しずつ下降。
……多分気持ち良さになんだろうけど、割と負けそうになってるよね。
うーむ。
実際の所、どのくらいまで注ぐのが良いんだろうなぁ。
いや、別に基準とかは無いだろうけどさ。
……どうしよっかとか思いながら流し続けてたら、もうとろろみたいな緩さになっちゃってるよ。
うん、いくらなんでももう良いか。
「ワーオ、えキジョうカげンショーゥ」
「いや、それは違うと思うけど」
ほんとこれ、どこから声出てるんだろうね。
口の有る無しどころか、もうただの水溜まり……いや肉溜まりになっちゃってるんだけど。
「ふヌッ。オーぅ、ヤワらカスギて、もチアげルのキッつイネぇ」
おぉ、液面の一部がにょきって持ち上がった。
でも維持するのは無理か。
固いと動かすのが大変だろうけど、緩すぎるとそれはそれで形が保てなくて難しくなるんだな。
「ンぁー、デもコレ、チョっとウゴけルかモー」
あぁ、動かすこと自体はやりやすいのね。
全体の形は変わらないけど、中身がぐるぐる入れ替わって渦巻いてる。
「おリャー」
全身を頑張って操り、浅い袋状にしてある布からこぼれようと頑張るエリちゃん。
それちょっとだけこぼれて千切れちゃったらどうなるんだろ。
あ、でもカトリーヌさんは普通に分離した部位も操ってたし、慣れれば何とでもなるんだろうな。
「ンー、ナンかケッコーわかッテきター。オマたセー、そろソロメしあガレー」
「はいはーい。さ、カトリーヌさんも」
「はい。では、心して頂かせていただきます」
「うん。私もぴゃーってやられない様に気を付けるよ」
「ぴっ」
ぴーちゃんがやりたくは無いけど任せてといった感じで一声鳴く。
うん、ドロップキックは痛そうだし。
いや、正気に戻すためだから痛く……っていうか衝撃が強い方が良いんだろうけどさ。
「んー……」
うぅ、ダメだ、やっぱ活きが良いと美味しすぎる……
うん、我慢我慢。あっちに居るのはご飯じゃなくてお姉ちゃんだ。
あ、それじゃその隣にあるのなら……いやいやダメだよ。あれアヤメさんだよ。
「ぴゃーぃ」
あ、横に居たカトリーヌさんがエリちゃんの中に蹴り落とされた。
挙動がおかしくなり始めてたんだな。
……中にずぶずぶ沈んで行ってるけど大丈夫なんだろうか。
ってヤバい。シルクがジーっと見てる。
あの表情は行動に移す一歩手前って感じだな……
うん、私はこんなのに沈みたくは無いぞ。がんばろう。




