331:おねだりされよう。
「ラキ、それ回収しておいてー」
「白雪、こっちにも貰えるか?」
「はーい」
お姉ちゃん達の紅茶に鱗粉を落としながら、カトリーヌさんを引っ張り上げておくように頼む。
おー、一本釣り……ってテーブルの角に当たってゴリゴリなってるぞ。
まぁ満足そうだから放っとくか。
ん? なんか後ろから裾をクイクイ引っ張られた。
「おー、ちっちゃいカップ。それ作っておいたの?」
シルクが紅茶の入った自分サイズの木製カップを持って、砂糖をおねだりしてきた。
おや、首振った。シルクが作ったわけではないのか。
「シルク様の為、心を込めて削り出しておきました」
モニカさんが普段通りの口調のままで、心なしか少し得意気に言った。
これ人間から見るとかなり薄いと思うんだけど……ってそうか、【細工】持ってるんだった。
この人これでもプレイヤーとは桁違いの実力者だし、そのくらいは余裕でこなすか。
とりあえず動かない様に、カップをテーブルに置いてもらう。
シルクの事だから静止するくらい出来るだろうけど、両手が空いてた方が良いだろうし。
私から見れば小さいボウルくらいは有るとはいえ、流石に普通のカップみたいに雑にやってるとこぼれそうなので、後ろを向いて翅をカップのふちに添える。
後ろを見つつ先端がカップの真ん中に来るように下がっていき、翅の先から鱗粉を発生させていく。
「シルク、必要なだけトントンして落としちゃってー」
コクリと頷いて翅の先をツンツンするシルク。
あ、同じスケールのスプーンも有るんだ。
……うおおぅ。
自分でやれって言ったんだけど、これ地味にくすぐったいな。
小刻みな衝撃が根元に伝わってくるよぅ。
シルクがつっつくのを止めてぺこりと頭を下げる。
あ、もういいのね。
粉の発生をストップして、残った粉は……あ、これも入れてちょうどって事なのか。
トトンと突っつかれて全部落とされた。
スプーンでくるくるとかき混ぜ、そのまますくって私の前にスッと差し出してくる。
あ、くれるの?
それじゃありがたく頂いておこう。
シルクから見てティースプーン程度の木さじとはいえ、私から見ればギリギリ口に入るかどうかな大きさなので、ちょうど一口分くらい有るな。
先端に口を付けて吸い込んでいく。うむ、美味しい。
私が飲み終わるともう一杯すくって、今度は近くに居たぴーちゃんに差し出す。
……なんか反対の手でぐるぐる巻きのカトリーヌさんの足首につながった糸を掴んだけど、どうする気だ。
おー、引っ張って置いてを繰り返してぐいぐい手繰り寄せていく。
「シルク様、どうされましたか?」
何か用かと聞くカトリーヌさんを無視しつつ、飲み終わったぴーちゃんの前からスプーンを戻してカップに入れておき、人差し指で水面に触れて指先に少しだけ紅茶を付けラキの前に差し出すシルク。
あー、まぁラキから見ればそのスプーン、自分が乗れちゃうくらい大きいもんなぁ。
わーいと駆け寄ってペロペロとシルクの指先を舐めるラキ。
微笑ましいなぁ。
「あ、あの、シルク様……?」
重ねて問いかけるもチラリとも目線を貰えずに、足からすぐ先の所を掴まれてまたしても逆さ吊りにされるカトリーヌさん。
……あー、なるほどね。
そこの人間サイズのカップ、モニカさん用じゃなかったのね。
控えたまま手を付ける様子も無かったもんな。
ラキが舐め終わった指をちゅぽっとくわえて残りを舐め取り、カトリーヌさんに巻かれた糸で拭うシルク。
雑巾扱いだな……
そのまま立ち上がり、カトリーヌさんをぶら下げたまま熱々の紅茶が入ったカップの横へ。
「こ、これはもしや……」
真下……カトリーヌさんから見れば真上にある紅茶を見て、期待の声を出すカトリーヌさん。
あれまだかなり熱いと思うんだけど、まぁカトリーヌさん的にはオッケーだろう。
あ、ゆっくりだけどスーッと一気に行った。
うわー、胸のあたりまで全部浸かっちゃってるよ。
てか息止めなくて大丈夫なのかな? めっちゃ泡出てるけど。




