330:遠慮させてもらおう。
あー、いや、そこは大丈夫か。
ちゅーちゅーしただけで【吸血鬼】になっちゃうなら、本国の方は大変なことになってるだろうし。
いや、口で吸った時だけって事も……無いか。
有るならそもそもアリア様が止めてるだろうしな。
それにゲームの運営側としても、ランダム限定のレア種族をそんな簡単にホイホイ解放しないだろうし。
……いや、巻き添えを増やして嫌がられる種族にするくらいはやりかねない気もするけど。
あ、そういえばそもそもカトリーヌさんがもう嚙まれてたな。
いや、あれは吸血とは言えない気もするし、そもそも感染するとしても【妖精】は対象外の可能性が高いけど。
……もし【妖精】に【吸血鬼】の弱点が付与されたら、本当にいろんな意味でどうしようもないな。
【吸血鬼】の補正で体が強くなったとしても、多分踏まれたら普通に死ぬだろうし。
「さて。っと、手を洗わないとね」
「お水と、タオル、そこ……」
「うぃー、ありがとー」
部屋の隅っこに置いてあったバケツの水で手を洗うエリちゃん。
そういえばこの部屋、水を扱う場所が無いな。
まぁ魔法や魔法の道具が有るおかげで、現実と違って水道を引く必要も無いから後からどうにでもなるんだろう。
たまに使うくらいならモニカさんやエリちゃんにお願いすれば良いんだし。
あ、そういえばあっちの小屋とこの部屋繋ぐんだったな。
あっちは色々作業したりする小屋だし、そっちに作れば良い……っていうか、使うだろうからって知らないうちにもう作られてる気もする。
「あれ、そういえばあるちゃんは?」
「ん……」
えるちゃんだけが抱っこされてるのがふと気になって尋ねてみると、ソニアちゃんが静かな返事と共にコレットさんの方を見た。
ん、別に抱っことかしてない……って、なんか足首まであるスカートの下の隙間に黒いものが見える。
あー、よく見たらいつもより少し足を開いて立ってるな……
立ったまま隅に控えてたら潜り込まれたのか。
……いや、コレットさんもかなり猫好きっぽかったし自分から誘ったのかもしれないな。
自分の分の猫じゃらしも用意してたし。
まぁそこはどっちでも良いか。
「ちょっと失礼しまーす」
あるちゃんの様子を見に、コレットさんの足下に近づいてみる。
「はい。どうぞ存分にお楽しみ下さい」
「おー、ユッキー積極的ぃー」
何をだ。何がだ。
お、あるちゃんがスカートの下からにゅっと顔を出してきた。
……なんか寝起きみたいな顔でくあーってあくびしてるけど、中で寝てたの?
いや、別に良いんだけどさ。にゃんこ的には良い感じな暗さと狭さだろうし。
んぬー……と頭を下げて小さく鳴くあるちゃんの顔をわしゃわしゃ撫でまわす。
ん、顔上げるの?
……いや、そんな招くみたいに一度くいっと内側向いてから「どうぞー?」って感じでじっと見られても。
別に入りたくて来たわけではないよ?
「あれ、行かないのー?」
「いやいや、何で行くと思ったの」
「私は一向に構いませんが」
「私に人の服の中に潜り込む趣味は有りませんよ……」
ていうか【妖精】好きなのは良いけどそこは構おうよ。
まぁ流石に【妖精】だったとしても男の人は許さないだろうけどさ。
よーしよしよしと改めてあるちゃんを撫でくりまわし、コレットさんの足下から離れる。
あ、中にもぞもぞ戻っていった。
そんなに居心地良いのか。
あ、エリちゃんは手を洗い終わったみたいだな。
「おっけー、行けるよー」
「うん、それじゃ出ようか。お邪魔しましたー」
「ん。またどうぞ……」
「あ、ありがとうございまーす」
足を動かさないままで、器用に横のドアを開けてくれるコレットさん。
私が一緒に通るのは判ってるから、開けてるのは人間用だけだな。
エリちゃんと一緒にドアを通り、アリア様に挨拶をしたところでぱたむと静かにドアが閉じられる。
ちゃんと閉じ終わったのを確認してから、エリちゃんが外扉を開いて表へ。
「あ、雪ちゃーん。お砂糖ちょーだーい」
「はーい。……って……あぁ、まぁいつもの事か」
私が出てきたのを見つけたお姉ちゃんに呼ばれてテーブルに向かうと、なんかテーブルのふちからカトリーヌさんがラキの糸で逆さづりにされてた。
うん、スルースルー。




