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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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329/3658

329:突き立てよう。

「んー、おかーえりー」


「ただーいまー……ってそれ、樹液採ってるの?」


 なんかめーちゃんの膝に短いパイプが突き刺さって、その下にバケツが括り付けてある。

 いや、膝から水って……


「んー。エリちゃんがやってくれたよー」


「……なんかそれ、膝をやった人みたいだな」


 あ、アヤメさんもやっぱりそう思ったらしい。

 てか膝と脛の間の腱っぽい所に刺してあるから、ぱっと見すごく痛そうに見える。

 まぁ普通に話してるし【樹人】の体だから実際に腱が有るわけでもないし、大丈夫なんだろう。



「おー、ちょっと溜まってるね」


 お姉ちゃんがバケツをのぞき込んで感心したような声を上げる。

 そういえばそれ、埃とかいろいろ入っちゃいそうだけど大丈夫なんだろうか。


 あぁ、まだどれくらい採れるか試してるだけだから本格的じゃなくて良いのか。

 現実ならともかくこのゲーム内の環境なら、きっちりろ過してゴミを取り除けば一応大丈夫だろうし。



「んー。このやり方でも、一日あればだいぶ集まるっぽいねー」


「だねぇ。ん、他のやり方って? 雪ちゃんに汲んできてもらうとか?」


「んー、それも有るけどー、うっかり中に触ると危ないからねー。それ以外だとー、こう、お腹の溜まってるとこにぶすーって穴開けたら一杯採れそーじゃない?」


「それ、やっちゃって大丈夫なの?」


「んー、わかんない。でもちょっと怖いし、あんまりやりたくはないねー」


「そりゃそうだよねぇ。でも今ので結構採れてるんだし、やらなくて良いっぽいね」


 うん、刺してからどれくらい経ってるか正確には判らないけど、一日にバケツ一杯は採れそうなくらい溜まってるしね。



「口からホース通すんじゃダメなのか?」


「あー、さっきめーちゃんもチラッと危ないって言ってたけど、先端が当たったりしてお腹の内側を刺激したら入り口が勝手に閉じちゃうんだよ。入り口にどのくらいの力がかかるか判らないけど、下手したらパイプがねじ切られてダメになっちゃうかもしれない」


「ははぁ。ってか自分で言っておいてなんだけど、そもそも口に挿しこむのが一苦労だったな」


 あー、めーちゃんでっかいからな。

 私は飛んでるから関係無いけど、めーちゃんの口の高さって家で言うと二階の天井とか三階の床くらい?

 ちょっとやそっとのジャンプで届く高さじゃないし、投げ込むにしても難しいだろう。


「問題は無いのかもしれないけど、口に挿しっぱなしってのもなんかアレだしね」


 まぁ確かに口から飲み食いはしないし、喋るのにも口は動かさないしね。

 でも確かになんか気になりそう。


 となると、採取のたびにめーちゃんの体の上をよじよじ登っていかなきゃいけないわけだ。

 いや、もしやるなら専用の足場を作るか。

 そもそも中で問題が起きるかもしれないから、高さの問題が無くてもやらないんだけどね。




「あ、そーそー。エリちゃんがまだかなまだかなーってそわそわしてたよー」


「あー、うん。まぁこっちとしても美味しいし助かりもするんだけど、なんだかなぁ」


 姿が見えないって事は、多分ソニアちゃんのお部屋に居るんだろうな。

 あっちの小屋はまだ完成してないっぽいし。

 ていうかそんな状態の割に出てこないんだな。

 まぁモニカさんが私が帰ってきたのを教えてないだけかもしれないけど。



「あ、雪ちゃん」


「ん?」


「始める前にお茶を一杯貰えないかな?」


「あ、私も頼む」


「良いよー。シルク……あー、モニカさんに渡してあげて」


 シルクに全部お願いしようと思ったけど、モニカさんがやらせろとばかりにスタンバイしてる。

 スルーしたら悲しい顔しそうだし任せるとしよう。



「とりあえずお湯出して、っと。それじゃエリちゃん呼んでくるかな」


「あ、ドア……はペット(雪ちゃん)ドアがちゃんと付いてるんだったね」


「なーんか言葉に妙なニュアンスを感じたぞー?」


「ひやぁーっ!?」


 妹を犬か何かの様に言う姉の背後に【跳躍】し、ぴーちゃんが居ない側の耳の裏にひんやり【凍結吐息】。

 私たち、小っちゃいけどペットじゃないもん。

 あ、肩がビクッて動いたせいでぴーちゃんに羽でべちべち叩かれてる。

 止めないからもっとやって良いぞ。




「どーもー。白雪でーす」


 皆を置いて一人でソニアちゃんの部屋に来て、とりあえずノックをしつつ名乗る。

 お、内側からドアが開けられた。


「お邪魔しまーす。あ、コレットさん。どうもです」


 またあるちゃんが開けてくれたのかと思ったら、どうやら開けてくれたのはドアの横に立っているコレットさんだったらしい。


「おお白雪、お帰り。ずいぶん遅かったではないか」


 椅子に座ったアリア様があるちゃん……じゃないな、えるちゃんの喉を撫でながら声をかけてきた。

 ずっとにゃんこと戯れてたのか。

 ソニアちゃんとエリちゃんは何やら二人で粘土っぽい物をこねこねしてる。

 ソニアちゃんは【錬金術】だろうけど、エリちゃんはなんでやってるんだろ?



「あ、はい、戻りました。色々あって研究所に行ってまして」


「ふむ」


「あ、おかえりなさい……」


「おー、おかえりー。待ちくたびれたよー」


「いや、そう言われても…… てかエリちゃん、何してたの?」


「ん? あー、私も色々出来た方が良いかなーって思ってね。一緒に練習してたのさー」


「獣人の適性で自力習得を目指すのは無謀ではないかと言ったのだがな」


「ダメもとダメもとーぅ」


「と言うのだよ」


 うん、始める理由も続けるノリも実にエリちゃんらしい。



「あー、まぁ良いんじゃないですか? 好きでやってるんだし」


「あー、ユッキー冷たーい。無駄な努力だと思ってるでしょー」


「まぁ、うん。否定できないかも」


 だってエリちゃん、そもそも魔力操れないんじゃないの?

 いや、知らないうちに取ってるのかも知れないけどさ。



「わぁ素直。エリちゃんユッキーのそういうとこ好きよー」


「はいはい。デスペナはもう無いんだよね?」


「おうよー。体調万全の新鮮なお肉だぜー」


「うん…… さっき、少し血を貰ったけど、とっても美味しかったから、大丈夫……」


「いやー、ソニアちゃんにはむはむされるのも気持ち良いねぇ」


「いや、それはむはむっていうか思いっきり刺さってるよね?」


 もうほとんど塞がってるみたいだけど、よく見たら首に小さな穴開いてるし。

 多分私の【吸精】と同じでどこからでも吸えるけど、噛みついて吸うのが一番効率が良いんだろうな。

 ……エリちゃん、ちゃんと熊さんのままだよね?



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