323:許してあげよう。
壁に飛んでいってべしゃっと潰れるみにみにジェイちゃん。
あ、ぺらっと剥がれてひらひら落ちていった。
「やーん、ひどいわ白雪ちゃぁん」
落ちたところで床と同化したのを見ていたら、シルクに抱き着いてる方のジェイさんから酷いとの声が。
「いや、これはケンカを売られているなと判断したもんで」
「あらあら、別にそういう意図は無いのだけれど……」
じゃあなんであえてそこだけ変えてあったのか。
あ、もしかして結構大き目なぴーちゃんをモフモフしてたからか……?
「ぴー!」
「きゃー、こわーい」
あ、私をバカにしたのかと怒ってくれてる子がいる。
でっかい方のジェイさんの頭に飛んで行ってげしげし蹴ってるけど、気を付けないとまたパクッと行かれちゃうかもしれないよ?
「ごめんなさいねぇ? 悪気は無かったのよぅ。ほんとにほんとよぉ?」
頭を蹴られながら弁解するジェイさん。
なんか若干悲しそうな顔してるし、どうやら本心らしい。
「あー、ぴーちゃん。信じがたい事だけど、なんか本当にケンカ売ってたわけじゃないみたいだから、蹴るの止めたげて?」
「ぴぅ……」
お、素直に止まってくれた。
まぁ前回私の指示を無視したせいで、散々な目に遭ってるもんなぁ。
多分今回も、そのまま蹴ってたらもぐもぐされてただろうな。
「ぴーちゃん様、蹴り足りなければどうぞ私をお使いくださいな」
「ぴゃー」
……カトリーヌさんがしょうもない事言ってドロップキックされてる。
あれは蹴り足りないとかじゃなくて、何アホな事言ってるんだお前はってツッコミだな。
「うふふ、ごめんなさいね。もうやらないから許してちょうだい」
「はい。ていうか許してるから止めたんですけどね」
「あら、それもそうねぇ。でも、一度はちゃんと謝っておかないとね」
あー、まぁそれもそうなのかな。
「それじゃ、こっちもちゃんと許したって事でオッケーですね」
「うふふ、ありがとう。 ……うーん、でもぴーちゃんにまた嫌われちゃったわねぇ」
「ぴっ!」
強く一声鳴いて、私の後ろに隠れるぴーちゃん。
いや、だからご主人様を盾にするのはどうなのよ。
まぁ良いけどさ。
そもそも後ろに隠れても、そっち側にもジェイさん居るんだし。
「んー、まぁこればっかりは無理に仲良くしろとも言いづらいですしねぇ」
いや、命令すれば我慢してくれるだろうけどさ。
嫌がってるのに無理させるのはなぁ。
「うふふ、良いのよ。嫌々寄って来られても、こっちも嬉しくなれないもの」
「ま、そうですよね」
……ていうか、最初にちょっかい出す前にここの野菜を上げてれば良かったんじゃないかな。
怖がってるところに変な事したせいで印象が最悪になったんだし、初めに怖いけど良い人かもとか思われてれば、その後少し変な事してもここまで嫌われてなかっただろうに。
まぁそれも今更か。
あ、レティさん達が戻ってきたな。
なんか足場の横におっきなカゴが増設されて、そこに野菜がごろごろ入ってる。
分けてもらったのかな?
「いやー、悪い。待たせちゃったかな」
「ただいま戻りました」
「おかえりー。その野菜は貰ったの?」
「はい。と言っても、私はこれだけですが」
ひょいっとレタスっぽい物を一つ手に取って、鞄にしまうレティさん。
ていうか何で一度そこに置いてるんだろう。
まぁ特に意味は無いのかな?
「あ、これさっきの奴っす。また買いに行きゃ良いんで、瓶ごとどうぞ」
「あらあら、全部くれるの? ありがとう、嬉しいわ。」
「いやぁ、良い野菜一杯貰いましたからね。お互い様っつーか、それ全部でも俺の方がかなり得してる感じじゃないっすかね」
さっきジェイさんが分けてくれと言ってた調味料を、野菜のお礼に全部上げちゃうロクさん。
確かにかなりたくさん貰ってるな。
これ、スーパーの買い物かご五つ分くらいあるんじゃない?
あ、よく見たら何層かに分かれてる。
重みで下の野菜が潰れない様にしてあるんだな。
そう簡単にダメにはならないだろうけど、負荷をかけないに越したことは無いか。
ほー、いろいろ種類が有るんだなぁ。
葉物ばっかりかと思ったら大根とかの根菜も有るし。
あぁ、でもさっきぴーちゃんに大根の葉っぱ出してたな。
そりゃ有るか。
「あー、それ…… すげぇ分厚くした棚板に直接植わってたわ……」
大根を見ている私に気付いて、若干遠い目をして言うロクさん。
うん、諦めて慣れよう。
「うふふ。遠慮せずにもっと一杯採っても良かったのよー?」
「じゃあ抜くときに変な声出すのやめてくださいよ……」
「あら、気持ち良いんだから仕方ないじゃない?」
……気持ち良いんだ。
髪とか引っこ抜くみたいにチクっとしそうなもんだけど、まぁそういうものなのかね?
そもそも体に野菜生えてる存在なんて他に知らないから、はなから常識も何も有ったもんじゃないけどさ。




