321:工場見学をしよう。
「……んんっ。お、お腹の中ってどういう……」
お、何とかちゃんと飲み込んでツッコんだな、ロクさん。
「うふふ。言葉の通り、私の体の中で作ったって事よ?」
「おや、生産設備が有るんですね」
「設備と言っても、水も光も全部自前だけどね。見てみる?」
「良いのですか? では是非」
うーん、流石レティさん。
落ち着いてるなぁ。
「レティさんは何でそんなに平然としてんだよ……」
「この研究所自体がジェイさんという事は前もって聞いていましたし、野菜を屋内で育てる工場というのはそこまで珍しい物では無いので」
「そ、そういう問題か……? ま、まぁ今のが美味かったのは確かなんだよな……」
「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」
なんだかんだ、ロクさんも順応性高い人だよね。
また一枚パリパリ食べてるし。
「それじゃ、こちらにどうぞ」
もう騙す相手もいないからか擬態を放棄して、壁をくぱっと開けて通路への出口を作るジェイさん。
いや、通路じゃないなこれ。
四畳半くらいのスペースの何もない小部屋だわ。
「ここは?」
「少し待ってもらえるかしら? 白雪ちゃん達、飛んでる子は少し気を付けてね」
「え、どういう…… あれっ?」
上に飛んだ覚えはないのに天井が近づいてる。
おお、これエレベーターか。
自力で降りて位置を調整しないとだな。
「おぉ、すげぇ」
「地下に降りているのですね」
足場ごと降りていく時特有の浮遊感で、二人も察したらしい。
あ、止まった。
二階層分くらい降りたかな?
……って今度は横移動か。
「さ、どうぞ」
ゆっくりと止まって壁が開くと、天井まで届く無数の青白い棚とそこに敷き詰められた緑が見えた。
うわ、これ地下二階かと思ったらこの層がすっごい天井高いのか。
「うおぉ、すっげぇ」
「なるほど、歩いて管理する訳ではないからこの高さと密度でも問題無いのですね」
「うふふ、そういう事」
確かにこれ、上の方は足場かリフトが無いと普通は無理だもんなぁ。
そういうのが入るスペースが要らないから、棚の間隔も狭くできてるし。
しかしカトリーヌさんがずっと大人しいな……
あー、普通に感心してる。
なんかこの人が大人しいと、反動が怖いんだよなぁ。
いや、ずっと暴れられてるよりは良いんだけどさ。
「さっきのやつ以外にも色々作ってるんすか?」
「ええ。見たければ足場に乗せて運んであげるわよ?」
「おお、頼んます」
「おや、それでは私もご一緒させてもらえますか?」
「俺は構わないけど」
「うふふ、大丈夫よー? はい、それじゃそこに乗ってね」
おや、床の一部が少しせりあがった。
二人がそこに乗るとせりあがった部分のふちから柵がにゅっと伸びて、その上に何やら二本の棒が生えてる。
柵は落下防止だろうけど…… なんだあの棒。
「いちいち言葉で言うのは大変だろうから、その棒で移動の指示を出してね。左が前後左右に、右が上下動に対応させてあるわ」
あぁ、リフトの操作レバーね。
二人分と少しのスペースしかない細長い足場だし、あれなら棚の間にも入っていけるだろう。
いや、入っていけない足場は作らないだろうけど。
……あぁいや、そもそも棚もジェイさんが自由に動かせるんだから、移動式の本棚みたいな感じでずらせば大きな足場でも入れるのか。
「うぃっす。おお、本当に動く」
「ではあちらから見ていきましょうか」
「おう。じゃ、ちょっと行ってきます」
こちらに手を振り、足場を操作して端から順番に見に行くロクさんとレティさん。
……こう言っちゃなんだけど、あれでっかい触手だよね。
私も見に行ってみようかな?
でも正直、野菜の状態を見てもあんまり解んないんだよね。
店の人に悪いから、あんまり買い物にも出てないし。
「ぴーちゃん、お野菜食べるかしらー?」
「……ぴ、ぴっ……」
どうしたものかなーと思ってたら、なんかジェイさんがぴーちゃんのご機嫌を取ろうとしてる。
なんだあれ、もやしとか大根の葉っぱ?
スズメってなんか虫とかお米食べてるイメージだけど、そういうのも食べるのかな。
……いや、それ以前に普通に私と同じご飯食べてたわ。
まんまスズメなわけでもないし、そもそも胴体はヒトと同じ形してるもんね。
いや、外から見て判らなくても、内臓が違うかもしれないけどさ。
ぴーちゃん、明らかに欲しそうな顔してるけどなんか葛藤してる。
おいしそうだけどジェイさんは嫌い、ってとこかな?
「ぴーちゃん、そんな意地張らなくて良いんじゃない?」
「ぴぅ……」
勧めてみても「でもー」って顔でお返事が返ってきた。
まぁさっき来た時の事を考えたら、あれ罠にしか見えないよなぁ……
「ジェイさん、それ罠だと思われてません?」
「あらあら、じっとしてるから大丈夫よぉ? 私は仲良くしたいだけ」
「では、私が間に入りましょう」
おや、カトリーヌさんがジェイさんの手元に飛んで行って、葉っぱを一枚貰って来てくれた。
うん、それならぴーちゃんが近づいたところでぱくっと捕まる心配は無いよね。
まぁその気になれば、どうにでも捕まえられるんだけどね。
周り全部ジェイさんなんだから。
「……ぴー」
カトリーヌさんが差し出す葉っぱに「仕方ない……」って顔で噛みつき、もしゃもしゃ食べるぴーちゃん。
……うん、どうやら美味しいらしい。
なんか悔しそうな顔してるもん。




