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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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320:野菜を食べよう。

「で、本題はアルさんの武器の事だったかな」


 ディーさんがドリルをきゅいーんと回しながら話を続ける。


「はい。条件としては十メートル以上先を狙えることと、ルミさんが言うには私に似合う物、だそうで」


「ふむ、射撃武器か」


「槍投げたら? つったら一瞬で否定されたんすよ」


「ははっ。まぁ、確かにアルさんにはあまり似合わないかもしれないな」


「私は構わないのですがね」


「ダメですー」


 変なとこで頑固だな、ルミさん。

 まぁアルおじさんがそれでも使うって言ったら、流石に文句は言わないだろうけど。

 あくまでパーティー組んですらない、ただの知り合い程度の関係だろうし。



「あ、そうだ。これなら靴も相談しちゃいましょうか」


 滑らかに動く義手を見て思い出したらしく、ルミさんが相談内容を追加した。


「靴、かい?」


「はい。鳥の足の形にできる仕掛け靴を作ろうと思っていまして」


「ほほう、それは面白そうだね。しかし、なんでまた?」


 あ、なんかディーさんが食いついた。

 確かに普通はわざわざそんな形にせずに、普通の形の上に攻撃用のギミックつけようとするよね。

 それも普通って言えるかは微妙だけど。



「今日からそちらのぴーちゃんさんに蹴り技を教えることになったのですが、私の蹴りは主にここ(・・)を叩き込む技でして」


 どこにしまっていたのか、スッと自分のサバトンを取り出してつま先をコンコンと指で叩くアルおじさん。

 あぁそうか、【空間魔法】持ちだからボックス使えるんだったな。


「ふむ。ぴーちゃんさんの足の形状では、動きを変える必要があるだろうね」


「ええ。しかし私にそういった動きの経験が有りませんので、教える以上は自分の体で納得できる動きを身に着けておきたいと」


 なんか一緒に模索していくって言ってた気もするけど、それでもやっぱり自分で体感した方が解りやすいんだろうな。

 ぴーちゃんにやらせておいて、いざ自分でやってみたらなんか違うって感じになる可能性もあるし。




「なるほどね。それじゃ射撃武器と、仕掛け足についてという事で良いかな?」


「いえ、仕掛け()でお願いします」


「うん、そうだね」

 

 ……やっぱディーさんもここの人だな。

 なにしれっと人の足を取り替えようとしてるんだよ。


 まぁボーっとしてなきゃ気付ける程度には判りやすく提案してるから、半ば冗談で言ってるんだろうけどさ。

 察したアルおじさんの訂正に素直に応じてるし。


 ……ボーっとしてたら本当にやっちゃうんだろうけど。



「さて。それじゃもう遅いけど、君たちさえ良ければ僕の研究室でさわりだけでも一緒に検討していかないか?」


「良いんですか?」


「ああ、もちろんさ」


「それでは喜んで。アルおじさんは時間、大丈夫ですか?」


「ええ、問題有りませんよ。よろしくお願いします」


「うん。ロク君はどうする? 一緒に来るかい?」


「あー、俺ドリル見たかっただけだからなぁ。時間は有るけど邪魔になっちゃ悪いし遠慮しときますわー」


 目的は達したという事で行かないというロクさん。

 まぁ、これから三人はアルおじさんの装備について真面目に検討するんだろうしなぁ。




 それでは失礼とこちらに挨拶して、奥に消えていく三人。

 うん、それじゃ私たちも……


「あらあら、暇はあるのね? それじゃロクちゃん、おねーさんの研究見て行かない?」


 と思ったらジェイさんがロクさんを誘い始めた。


「あー、いや…… えっと、どういう物が有るんですか?」


 やめとくって即答しようとして思い直し、一応確認するロクさん。

 聞きもせずに言うのは失礼って事なんだろうけど、正直な所ちょっとイタズラされてるんだし即答してもあんまり問題無いと思うよ。


「うふふ、良い子ねぇ。簡単にまとめるとお薬やお野菜、それと実験生物ねぇ」


 へー、野菜とか作ってるんだ。

 品種改良とかしてるのかな?

 実験生物はこないだのネズミもどきみたいなのだよね。



「ん、野菜ですか?」


 おや?

 ロクさん、変な生き物の方じゃなくて野菜に食いついたぞ?


「ええ。開拓を進めていく上で、育ちやすくてたくさん採れる食料の開発を姫様にお願いされていてね。あぁ、もちろん味もね?」


 うん、環境を考えたら贅沢を言っちゃいけないんだろうけど、どうせ食べるなら美味しい方が良いよねぇ。

 アリア様の依頼なら、最優先で進めてるんだろうな。



「ほー、それはちょっと気になるなぁ」


 なんだろ、ロクさん実は【料理】当番だったりするのかな?


「うふふ。良かったら試食してみるかしら?」


「お、良いんですか?」


「もちろんよ。はい、どうぞ」


 早っ。

 もちろんって言うのと同時に壁に穴が開いて、そこから皿を持った触手が伸びてきたぞ。



 レタスみたいな葉物野菜を切っただけの物っぽいな。

 何もかかってないし、味付けはしてないんだろう。


「それじゃ一枚頂きます。……おー、こりゃ美味ぇ」


「すみません、私も一枚頂いても良いですか?」


「うふふ。たくさん有るからお好きにどうぞ」


 良さそうな食材を見たレティさんも食いついた。

 【料理】持ちなのはお姉ちゃんだったと思うけど、単純に興味が有るのかな?



「すんません、試しにちょっと味付けてみても良いっすかね」


 ロクさんが鞄からゴソゴソと調味料の瓶を取り出しながら尋ねる。

 ……いやいや、どれだけ持ってるんだよ。

 試しにとか言いながら十種類は出してきたぞ。


「良いわよー。あら、これ珍しいわね。後で少し分けてもらえないかしら?」


「オッケーっすよ。ん、こんなもんかな」


 瓶の一本に興味を持ったジェイさんに返事をしつつ、手際よく複数の調味料をかけていくロクさん。

 すごい手慣れてるなぁ。



「お、やっぱ合うな。レティさんもどうです?」


「では…… おぉ、これは良いですね」


 うん、どうやら美味しかったらしい。

 いつもより笑顔が二割増しくらいになった。


「これ、裏に畑が有るんですか?」


「うふふ。畑もあるけど、それは私のお腹の中で作ったお野菜よぉ?」


「んぐっ」


 口に含んだところで変な事を聞かされてむせかけるロクさん。

 うん、噴き出さなかっただけ上出来だろう。

 初対面の相手に何食べさせてるんだよ。


 

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