317:お茶を貰おう。
「それじゃ、お茶を持ってくるから好きな所に座ってくつろいでいてね」
言いながら奥の扉を開けて出ていくジェイさん。
淹れてくるじゃないのは見えない所で既に淹れてて、もう出来てるからだろうな。
「そんじゃ遠慮なく。おっさんとルミさんもこっち来なよ。用が有るもんでまとまってた方が、話しやすいだろ」
「ふむ。それは座って大丈夫なものなのでしょうか?」
「は? 良いって言われたじゃん」
おや、アルおじさんは薄々気付いてるらしい。
反応を見た感じ、ルミさんもだな。
あー、そうか。
ジェイさん、最初に来た時もそうだったみたいだけど魔力を隠してないからな。
【魔力感知】持ってて、私みたいにボーっとしてなければ何となく察せるか。
「はは、ここまで入ってきておいて今更だろう?」
笑いながら二人に言って、ロクさんの向かいに座るディーさん。
うん、まぁ確かにね。
「確かにその通りですな。では失礼しますよ」
「し、失礼しまーす」
躊躇した割に涼しい顔でロクさんの横に座るアルおじさんと、その隣の椅子を指でツンツンつついてから座るルミさん。
感心したような顔で机もツンツンつついてるし、完全に気付いてるな。
「えーと…… あれもそうなのか?」
「あれもって言うか、その辺の調度品も含めて全部かな」
さっき【魔力感知】も取ってたから視えてるだろうけど、椅子を指さして一応確認してくるアヤメさんにハッキリと答えておく。
変に芸の細かいことに隅っこの目立たない所に小さな机や壺が置いてあるけど、それらも全部ジェイさんの一部だな。
「……座らなきゃダメ?」
「ほらほらアヤメちゃん、往生際が悪いよー?」
「くっそー、自分が狙われてないからって気楽な奴め」
「あっはっは。生贄を捧げることで自分の安全を確保するのだー」
お姉ちゃんが何気にゲスいこと言ってる。
あ、すね蹴られた。
うん、今のは仕方ないわ。
諦めて座ったアヤメさんに続いて、お姉ちゃんとレティさんも席に着く。
「あ、行っちゃうの?」
おや、ぴーちゃんがお姉ちゃんの肩からこっちに飛んできた。
んー、大人しく一緒に入ってはきたけど、ぴーちゃんとしては出来る限りジェイさんに近づきたくないだろうからな。
よしよし、こわくないよー。
私と一緒に居れば大丈夫だからね。多分だけど。
「さてさて、早速だけど僕はディー。ここの研究所でこういった物の研究をしている者だよ」
左手を机の上に置いて、反対の手で肩からカコッと外して机に乗せるディーさん。
「おー、すげー。義手だなんて全然気づかなかったっす。あ、俺は六郎。ロクって呼んでください」
ロクさんが身を乗り出してディーさんの腕をよく見ながら挨拶し、みんなもそれに続いて名乗っていく。
全員の挨拶が終わったタイミングを見計らって、ジェイさんがお盆に人数分のカップを乗せて奥の扉から戻ってきた。
「はーい、お茶ですよー」
「ありがとう。さ、皆さんもどうぞ」
お盆からカップを一つ手に取り、皆に勧めるディーさん。
ロクさんは素直にお礼を言って受け取ったけど、他のみんなは躊躇ってるな。
うん、そりゃそうだよね。
あのカップ、ジェイさんで出来てるもんね。
「うふふ。遠慮しなくて良いのよぉ?」
「いや、遠慮って言うか……」
「これはちゃんと普通のお水で淹れた、普通のお茶よー? 何もおかしなものは入ってないから大丈夫」
「いや中身じゃないって言うか、今これはって言いましたよね」
「うふふふ。細かい事は気にしないの」
ツッコミ所をスルーせずに、律儀にツッコんでいくアヤメさん。
うん、今の言い方だと普通じゃないお水が有るって事だよね。
考えるまでもなくジェイさんの体液だろうけどさ。
「ごめんなさいね。ここには普通の器は研究器材しか無くて」
「いえ、こちらこそ突然大勢で押し掛けて、気を遣わせてしまって申し訳ありません」
「おい」
レティさんが手を伸ばして受け取……ったと思ったら、スッとアヤメさんの前においてもう一度手を伸ばす。
他のみんなも仕方ないかといった顔で手に取っていく。
「うふふ。気になるなら無理しなくても大丈夫よ。普通は気になる人の方が多いと思うから」
「いえいえ、せっかく出して頂いたのですから頂きますよ」
「表で用件だけ聞いて、また明日出直せと言われても仕方ない時刻と人数でしたしね」
平然とカップに口を付けるアルおじさんとルミさん。
なんていうか、この二人はあんまり動じないな。
……必然的にロクさんが的になるよね、これ。
「えーっと、そろそろ教えて欲しいんだけどさ」
あ、自分から狙われに行った。
「さっきから皆なんなんだ? 俺だけ解ってないっぽいんだけど」
「ジェイ、いい加減教えてあげたらどうかな」
「え?」
「うふふ、そうね。皆が座らなかったり受け取らなかったりしたのはね」
「何なんです?」
「こういうことだからよー?」
「おわぁっ!?」
おお、ロクさんの座ってる椅子の端から、脚の間を通ってジェイさんが生えてきた。
びっくりして後ろに落ちそうになったロクさんを、背もたれを生やして受け止めるジェイさん。
……よりによってそこから出てこなくて良いだろうに。




