314:声をかけられよう。
んー、後はジェイさんについてとか……
でもアレ、ドッキリネタみたいな感じだしバラさない方が良いんだろうか。
いや、もうお姉ちゃん達には言ってるけどさ。
てか言っておこうにも、もう塀が見えてきたな。
百聞は一見にって言うし、無理に言わなくても良いか。
「お、あれあれ」
「これは確かに判りやすいですな」
「物々しいですねぇ」
ロクさんが塀を指さし、二人がコメントする。
まぁ形だけでも閉じ込めてますって雰囲気を出すためだからね。
「あれー? 白雪さんだ」
「あれー? どうしたのかな?」
「うおっ!?」
なんかいきなり左右から聞き覚えの有る声が。
確か帰りにサフィさんがお仕置きされてる時に、ジルさんを煽ってた二人だ。
ふだん索敵役やってるアヤメさんが、必要以上にビックリして身構えてる。
NPCの隠密さん達、本当に気配が無いからなぁ。
私の【魔力感知】にも引っかからないし。
「大丈夫、敵じゃないよ」
「大丈夫、そこの警備だよ」
言いながら道の端からスゥっと猫耳の男の子が出現してきた。
おおう、まだ子供じゃないか。
そこ隠れる物何もないけど、それは今更だな。
反対側の端にも、こちらは猫耳の女の子が出てきてる。
うん、こっちもシルクとそう変わらない年頃に見える。
ていうかほぼ同じ顔だ。双子かな?
なんとなく服装で性別を判断したけど、合ってるんだろうか。
その辺は必要があれば自分たちで言うだろうし、まぁ良いか。
こちらからそれに触れなければ、間違えて怒られることも無いんだし。
二人はこちらが話しやすい様にするためか、少し前に歩いて同時に視界に入る位置に移動した。
でもそれぞれ端からは動かないんだな。
真ん中で並んでくれた方が話しやすいと思うんだけど、まぁ何か意味が有るんだろう。
ただの趣味とかかもしれないけど。
……あー、なるほど。
買い出しに行かされた帰りだから、出てきてたのか。
なんか持ってる籠からネギみたいな長い野菜がはみ出てるし。
とりあえず名指しで声かけられてるし、私が答えるべきか。
そもそも面識有るの私だけだし。
いや、ラキとぴーちゃんもだけど話せないしね。
「こんばんはー。この人達がディーさんの研究に興味が有るって言うので、紹介しようと思って一緒に来ました」
アルさん達三人を手で示しながら、来た理由を説明する。
「へー。物好きだね」
「へー。命知らずだね」
面白い物を見る顔をしつつ、少し物騒なコメントをする二人。
「あ、忘れてた。僕はレスト」
「あ、忘れてた。私はレイト」
「よろしくね」
おおう、最後の一言だけ頭を下げながら完全にハモってきた。
声も殆ど同じだから、一人の声を左右に置かれたスピーカーから聞いてるみたいな感じになったぞ。
応じて皆もそれぞれに挨拶して名乗る。
ついでにさっきは連れてきてなかったシルクも紹介してもらった。
「なるほど、全員ではないんだね」
「なるほど、付き添いなんだね」
「私らはね。てかさ、その初めの一言を繰り返すのは癖か何かなの?」
どうにも気になってしまったらしいアヤメさんが質問する。
うん、まぁ気になるよね。
「いやー、双子っぽいでしょ?」
「いやー、双子なんだけどね」
あ、やっぱ双子だった。
まぁメイクとかじゃなきゃ見れば判るレベルで同じ顔だけどさ。
でもその喋り始めはただのキャラ作りなのか。
……ていうか隠密さんがキャラを濃くしてどうするんだろう。
まぁそういう必要もあるのかもしれないし、ジョージさんやランディさんが止めさせてないって事は、少なくとも問題は無いんだろう。
「別に普通に喋る事も出来るよね」
「うん、普通に話せるよね」
まぁ、そりゃそうだろうな。
「二人一緒にも話せるし」
おお、完璧に揃えてきた。
「こんな」「感じに」「バラ」「バラに」「くぎっ」「てしゃ」「べった」「りも」「できる」「よー」
「うおお…… やめてそれ、なんか混乱しそう」
二人で一つの文章を細切れにしてから交互に発音してきて、アヤメさんが額に手を当てて唸る。
凄いな。
普通に喋った音声を機械で左右に振り分けたみたいに、違和感なく滑らかに繋がってたぞ。
いや、違和感が無いのは発音の滑らかさだけで、それが左右から聞こえてくるのは物凄く変な感じだったけど。
「おっと、遊んでないで戻らないと」
「おっと、ジルに怒られちゃう。ついてきてー」
あー、お使いの最中なら早く戻らないとね。
食材を買ってるっぽいし、ご飯の支度があるんだろう。
「お使いに行ってたのかな?」
「うん、晩御飯の材料とかね」
「うん、下っ端はつらいね」
お姉ちゃん、一応相手はちゃんとした警備の人なんだし、子供相手の話し方はどうかと思うよ。
いやどう見ても子供だけど、それでもここに居るってことは相応の実力が有るって事だし。
「あ、いや、自分で進んで行ったから」
「あ、いや、こき使われてるわけじゃないから」
急に慌てた声を出すからどうしたのかと思ったら、門の近くでジルさんがしょんぼりした顔してた。
嫌な上司だと思われてたのか……って感じだろうか。
あの人無表情で力持ちだけど、意外と繊細なのかな?
二人が私たちを置いて駆け寄って、ジルのご飯美味しいとか大好きとか言って励まして……
あ、まとめて抱きしめられてニ゛ャーって叫んでる。
ジルさん、力加減ミスったのか。




